再生可能エネルギー資源の発見が急務となっている今、世界中のエネルギーシステムを変革できる有望な解決策として水素燃料が脚光を浴びています。 2029年の終わりまでに水素市場は2600億ドルを超えると予測されていますが、 これは水素分野における無数の研究とビジネスチャンスを反映したものです。 CAS コンテンツのコレクションのデータを使用し、私たちは水素燃料研究のグローバルトレンドを分析しました。ここでは、その要点をいくつか紹介します。 この動的かつ急速に進化している分野を明確に概観しておくことは、水素市場における研究を加速化させ、現在および将来的なチャンスを掴む上で非常に重要です。
この技術やイノベーションのグローバルな状況、市場トレンド、そして応用の可能性に関する深い洞察を得るには、CASの水素燃料に関する報告書全文をダウンロードしてお読みください。
水素に関心が集まっている理由
現在、世界のエネルギー供給量の90%は、化石燃料に由来しています。 再生不可能なエネルギー資源である化石燃料への依存は、長期的に持続できることではありません。 世界人口が増加し、化石燃料への依存で限りある天然資源を枯渇させ続けている中、将来的に世界のエネルギー需要を満たせるかどうか懸念が高まってきています。 さらに、化石燃料の副産物は、毒素や粒子状物質そして地球温暖化を進めるCO2を放出して環境にダメージを与えます。
過去20年間、持続可能性と環境への影響に対する懸念により、増え続けるエネルギー需要を満たす、クリーンな代替エネルギー資源の発見に注力した研究が増えてきました。 太陽光、風力、海洋温度差、地熱、生物燃料など、現在使用中または開発中の持続可能エネルギー資源は数多くあります。しかし、単独で使用した場合、上記のどれも、十分の量で信頼性が高く、コスト効率に優れたエネルギー資源を供給することはできていません。
その他の規模拡大可能な代替エネルギーを探し求めている中で、水素が非常に有望な、化石燃料の主要な競合エネルギー資源として出現しました。 燃料およびエネルギー担体の両方として機能する水素は、多様な主要エネルギー源からのエネルギーも保管できるため、他の代替エネルギーに比べて、より大きな再生可能エネルギー源としての可能性を秘めています。
水素燃料関連技術 - そのメリット、トレンドと最近の成果
水素を利用した発電は、元々1970年代に開発された燃料電池システムをベースにしています。 陰極、陽極、電解液から構成される燃料電池は、水素と酸素の化学反応から電気を生成しています。 この反応は水、電気、熱のみを生み出すため、水素を使用しても温暖化現象が進行することはありません。
温暖化ガスの排出量削減のために192の参加国が結んだ国際協定である京都議定書は、1997年に採択されました。 それ以来、代替燃料として水素を研究、開発する取り組みは加速しています。 1997年以降CASのデータでは水素燃料領域の特許の件数は安定して増加しており、この技術の商業化に世界的な関心が高まっていることを示しています。
水素燃料開発の世界的トレンドに遅れないようにすると、情報に基づいたビジネスの投資の実行、有意義なコラボレーションの開始、研究環境における活発な分野(または隠れたギャップ)の特定に向けたガイダンスが得られます。 CAS コンテンツのコレクションでは、研究の重要な世界的トレンドと水素研究の特許登録の実態が明らかになります。 これらのトレンドを地理的および各産業の視点から検討すると、水素燃料市場に対する深い洞察が得られるでしょう。
特許データでは、世界中の水素燃料関連特許のうち66.7%は、アジア太平洋地域のものであることが示されています。 水素燃料研究の世界的リーダーである日本がすべての発明の3分の1を占め、そのすぐ後に中国が続いています。 業界セグメントで見ると、自動車業界がこの分野における特許登録に最も貢献しています。これは、この業界が再生可能エネルギー資源への移行により直接的な影響を受けるからです。 ヨーロッパ、米国、そして中国で水素燃料関連特許で最も頻繁に取り上げられるトピックは「水素貯蔵材料」で、その次は「燃料電池」でした。これは、当該技術が運輸業界と、商用および住宅暖房での応用に集中していることを反映しているためです。
いくつかの国では最近、公共交通機関用に水素燃料技術の導入に踏み切った実例があります。 例えば、2019年にはドイツ北部で2台の水素を動力とした電車が運転を開始しました。従来のディーゼル式の電車によるCO2の排出量を減らすための試みです。 一方、2021年に日本で開催予定の夏季オリンピックでは、選手の移動には水素を動力源とするバスが使用されることになっています。
課題の解決を目指した研究
多大な利点と可能性があるにもかかわらず、水素技術は、速やかな大規模応用を妨げる課題に直面しています。 主な課題の一つは、コストです。 現在燃料電池にはプラチナが使用されており水素発電を高コストにしています。科学コミュニティーでコスト効率の高い代替素材の研究が必要とされています。 すでに確立されている低コストの石油システムと競争するには、水素システムのコストを下げ、経済的な製造方法を開発することが不可欠です。
しかし、水素燃料技術を妨げている最大の障壁は、水素貯蔵が困難なことです。 水素は、密度が従来の燃料の数分の1に過ぎない非常に軽い元素です。 加圧ガスの透過性による燃料漏れを回避するには、貯蔵容器の建設に高価な材料を使用する必要があります。 水素貯蔵システムでは、耐久性と重量との適正なバランスを見つけるのが課題になっています。
消費者向けの燃料としての水素の成功は、強度の高い水素貯蔵材料の発見と、洗練された安全な輸送システムの開発に直接依存しています。 その結果、2009年以降、水素ガスの貯蔵はグローバルな研究環境における主な研究の中心となっており、その後近年では「脱水素化」になっています。 脱水素化戦略は、既に確立されているアンモニアとメチルシクロヘキサンの貯蔵および輸送インフラを活用することで、貯蔵の問題を解決しています。 アンモニアとメチルシクロヘキサンの両方から水素を取り出す工程を設置することで、このシステムは、純粋に水素を扱う場合と比べて高いコスト効果を実現します。
水素関連技術が急速に発展して、再生可能エネルギーに向けて世界を変革する中心的役割を担う態勢を整えている現在、影響を受ける多数の業界セグメントの組織が関連性のある研究の動向を観察するのは非常に重要です。 この領域における新たな機会についてさらに詳しく知るには、CASの水素燃料に関する詳細な報告書をダウンロードしてお読みください。