2月24日、CASはACSとの提携の下、ワクチンの専門家によるウェビナーを主催しました。 1時間のセッションでは参加者から120以上の質問が提出されましたが、残念ながら割り当てられた時間内には、その多くに回答できませんでした。 ジョンソン・エンド・ジョンソン社のCOVID-19ワクチンが最近米国で承認を受けたことで、多くの質問が現在提供されている各種ワクチンの安全性、有効性および組成に集中しました。 この話題への高い関心を踏まえ、ここでは私と同僚のYu Shan Tsaiが、COVID-19ワクチンに関連した最も一般的な質問に回答し、また現在の研究を統合することで、皆さんが十分な情報に基づいて決定を下せるようにしたいと思います。
ジョンソン・エンド・ジョンソン社ワクチンは、ファイザー社・ビオンテック社およびモデルナ社のワクチンとどのように違うのですか。
ジョンソン・エンド・ジョンソン社のCOVID-19ワクチンは、モデルナ社やファイザー社・ビオンテック社のmRNAワクチンとは異なり、単回投与のウイルスベクターワクチンであるため、通常の冷蔵庫の温度で保存できます。 非複製ウイルスベクターの送達システムとは、無害なウイルス(Adenovirus26)を使用して、抗原スパイクタンパク質生成の命令と共に遺伝子コードを細胞に運ぶことを意味します(Janssen Biotech, 2021)。
どちらのタイプのワクチンも、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を認識し、実際のウイルスと戦うために免疫系を訓練するよう細胞に指示しますが、mRNAワクチンには2回の接種が必要となります。 対照的に、ジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンは単回投与であるため、ワクチン接種プロセスが大幅に簡素化および加速化されます。 ジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンのもう1つの利点は、通常の冷蔵温度で保存できることです。これにより、mRNAワクチンと比べ、地方または未開発地域でもこのワクチンを容易に利用できるようになります。
ジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンは、COVID-19疾患の重症化の予防に、72%の効果がありました。これは、ファイザー社・ビオンテック社およびモデルナ社のワクチンで報告されている95%よりも低い値です。 ただ、ジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンは、南アフリカの変異株に対してテストされた唯一のワクチンです。報告されている低い有効性は、それが寄与している可能性があります(Janssen Biotech, 2021)。 変異株については、本ブログ記事の後半で説明します。
どのワクチンを接種すべきでしょうか。
どのワクチンを接種すべきかという質問に直接回答するとすれば、それは「はい、接種してください」となります。 各ワクチンの恩恵とリスクを批判的な視点から評価し始めれば、情報の飽和により本来の目標が失われる可能性があります。 純然たる事実として、COVID-19関連の重度の疾患と死亡を防ぐのに非常に効果的(ほぼ100%)で、有効かつ安全なワクチンが3種類あるということです。 人の生命を守ることは、ラボ環境の異なる基準で判断された変動的な有効率よりも重要です。 ホワイトハウスの首席医療顧問であるアンソニー・ファウチ博士は、接種資格が得られたら、とにかく接種可能なワクチンを接種することを推奨しています(Newburger, 2021)。
英国、 南アフリカ、ブラジルのウイルス変異株とは、どういうことを意味していますか?
ウイルスの変異株は、ウイルスの遺伝子情報が同定された元の遺伝子組成から分岐する突然変異の蓄積によって定義されます。 英国の変異株に対してはある程度の保護効果が示されていますが(以下を参照)、朗報としては、既存のワクチンをこれらの新しい遺伝子配列の変異株に合わせて修正するほうが、最初からワクチンを開発するよりはるかに速いと思われるということです。 現在承認されているワクチンは最も一般的な株からの防御の点で重要ですが、残念ながらブースター接種が承認されるまでは、人々がソーシャルディスタンスを守り、マスクを着用して新しい変異株の拡散を最小限に抑えることはまだ重要です。
現在のワクチンは、SARS-CoV-2コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質の配列を標的としています。 このスパイクタンパク質が大幅に変異すると、新しい変異株が生まれて急速に拡散する可能性があります。 各変異株に固有のアミノ酸変異を以下の表に示します。
2020年9月にイングランド南東部で確認された英国の変異株(B.1.1.7)は、50か国以上に急速に広まりました。 この急速な広がりは、この変異株で疑われる毒性と感染力の強化に起因する可能性があります。 幸いなことに、この変異株はモデルナ社とファイザー社・ビオンテック社のワクチンにより認識されるため、ワクチン接種を受けた人は、この英国の変異株でも元のSARS-CoV-2ウイルスの場合と同じように重症化に対する予防効果が得られます(Wang et al., 2021).
南アフリカの変異株(B.1.351)は2020年後半に同定され、受容体結合ドメインに影響を与えるスパイクタンパク質の変異を特徴としています。 英国の変異株とは対照的に、南アフリカの変異株は、現在接種可能なワクチンによる免疫反応の刺激では十分に制圧されませんでした。 このエビデンスは、こういった変異や、ワクチン接種集団でウイルス遺伝情報が急速に進化する性質と、最初の接種が予定されているワクチンの遺伝子配列の微調整を考慮に入れたワクチンブースターを開発する必要性を裏付けています(Tegally et al., 2020).
ブラジルの変異株(P.1)はブラジルで急速に発生しているもので、南アフリカの変異株と同様の変異を示しています。 これが意味するところは、この変異株も現在のmRNAワクチンの防御効果を回避しているということです(Tegally et al., 2020).
これらは特定されている中で最も顕著な変異株ですが、さらに多くの変異株も出現しています(例えばカリフォルニアやニューヨークなど)。 突然変異は、ウイルス性病原体にとっては生存戦略です。そこで、 有効なワクチンを提供するには、こういった変異を常に監視し、その変異に応じてワクチンを調整する必要があります。 これらの変異株に対する現在のワクチンの有効性に関する追加情報については、こちらをご覧ください。
COVID-19は子供に対してどのような影響がありますか。
子供については、COVID-19関連の入院と死亡に関するデータが不十分であったため、当初はコロナウイルスのパンデミックの影響を受けないという認識につながってしまいました。 実際は、子供たちの入院にはかなりの負担がかかります。 2020年10月までに、127人の子供がコロナウイルス関連疾患で亡くなっています(Anderson et al., 2020). この当初の誤解を悪化させたもうひとつの事実として、子供の症状はさまざまな形で現れるこということがあります。 2020年3月から2020年7月の間に、多系統炎症性症候群として子供に現れるCOVID-19を特定した報告が数件発表されました(Anderson et al., 2020). 子供は、単純に大人のミニチュア版ではありません。免疫力や体表面積、筋肉量、そして脂肪分布など、数多くの相違点が存在します。 従ってワクチンが安全であり、また子供を守れるかどうか検証するには、子供に焦点を当てた研究とワクチンの試用がより多く必要です。
妊娠中の女性はワクチンを接種すべきでしょうか。
妊娠中の女性は、COVID-19関連疾患の重症化リスクが高く、妊娠に悪影響を与える可能性があることが知られています。 最近の研究では、ファイザー社・ビオンテック社およびモデルナ社のCOVID-19ワクチンが妊娠中および授乳中の女性に有効であり、母親から新生児に防御抗体を渡せることが示されています。 この研究は、マサチューセッツ総合病院やBrigham and Women's Hospital、Ragon Institute of MGHの他、MITとハーバード大学で行われ、2020年12月から2021年3月までに131人の女性が参加しました。
さらに2021年2月18日にはファイザー社が、進行中のワクチンの第2/3相臨床試験のために4,000人の健康な妊婦を治験参加者として募集すると発表しました。 現在、予防接種実施諮問委員会は、妊娠中または授乳中の女性に対しては担当する医療提供者の推奨があった場合はワクチン接種を選択できるという推奨をしています。ただし、現時点では、胎児や母乳の分泌への潜在的な影響について情報に基づいた判断を下すために必要なデータはほとんどありません。
免疫力が低下している人に対する予防接種については、どんな研究がありますか。
免疫力が低下している人に対しての予防接種は、常に特別な配慮が必要になります。 ファイザー社・ビオンテック社とモデルナ社により開発されたmRNAワクチンは、この種としては初めてのワクチンだったため、この薬物送達システムにおいては免疫機能障害を有する人の免疫応答の前例は設定されていませんでした。 HIV感染者はmRNAの臨床試験から除外されてはいませんでしたが、データは限られています。 自己免疫疾患および炎症性疾患の臨床試験参加者は、健康な集団と比較してワクチン接種の禁忌を示しませんでした(Advisory Committee on Immunization Practices, 2020)。 モデルナ社およびファイザー社・ビオンテック社ワクチンの接種後、報告されているギランバレー症候群の症例はありません。 ギランバレー症候群は、免疫系が誤って神経を攻撃する稀な疾患です。 ギランバレー症候群の方々は、この治験への参加資格がありました。 なお、ベル麻痺の患者さんもmRNAワクチンの治験に参加しており、これらの方々にとってもワクチンは安全であることが証明されました。 以下のインフォグラフィックは、これらの高リスク集団に対する予防接種実施諮問委員会の推奨事項をまとめたものです。
参考文献:
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