マンチェスター大学と大学院博士課程を終えた後で、ピーター・ジョンソンはチューリッヒのETHでA・エッシェンモーザー教授の合成化学グループに参加しました。 その後、ハーバード大学でE JコリーのLHASAプロジェクトに加わり、1980年にリーズ大学で化学の名誉教授となりました。リーズにおける研究はSPROUT、CAESA、CLiDEなど数々の化学ベースのソフトウェアアプリケーションの開発につながりました。また彼は数々の天然物の完全合成を達成した合成グループを指導しました。ピーターはLHASA Ltd.、Synopsys、SimBioSysなど、複数のソフトウェア会社も創設しています。
発見関連アプリケーションに従事する化学者は、既知の分子や新規の画期的な化合物であるかに関わらず、往々にして複雑な化学構造の実用的、効率的、低コストな合成経路の開発を任されます。多くの化学者にとって、この合成の難問を解決する標準的手法には、逆合成分析戦略のアプリケーションが含まれます。ここでは、コンピューター逆合成ツールの処理能力と機能の最近の進歩により、どのように化学者が複雑な合成スキームをより効率的かつ創造的に計画できるようになったかを紹介します。
逆合成分析:化学者のツールボックスで最も価値ある合成プランニング戦略
逆合成分析は、複雑な分子から系統的に逆方向の分析を行い、より小さく、入手可能性の高い開始構造を特定する技術です。1960年代後期にノーベル化学賞を受賞したアメリカ人化学者E. J. コリーにより問題解決の戦略として正式に認められ一般化した逆合成には、標的となる構造を前駆物質へと解体する化学反応ルールを使用し、潜在的な反応物の可用性と適合性を評価するプロセスが存在します。
しかし、作ったことのない美味しいレストランの料理を再現するのと同様に、往々にして再現には数多くの手順と無数の決断が必要となります。化学者には膨大な範囲の化学変化を選択できるため、特定の標的化合物に潜在的な逆合成経路が大量に存在する可能性があります。逆合成の手法で特定した経路の一部は、他の手段による経路より実用的、効率的、低コストなものになります。さらに、標的の構造がより複雑であれば、適切な開始素材に戻るために、より多くの手順が必要となります。各手順では可能性のある前駆物質が数十個生成され、それぞれに逆合成経路が存在するため、人間の頭脳で意味のある処理ができるよりも、多くの選択肢に圧倒されることになります。端的に言うと、経験豊富な化学者であっても、網羅的な逆合成分析は困難になる場合があるということです。
コンピューター逆合成分析:創造的な合成デザインに対するより効率的な手法
1960年代後期に始まったコリーと共同研究者による先駆的研究はコンピューター逆合成分析の基盤となりました。同じ基本原則を適用しながら、コンピューターアルゴリズムによる速度向上と効率性により、従来の人力のみの逆合成作業に補助 を提供します。初期に利用可能だったコンピューターハードウェアと化学データは現在の基準からは取るに足らないものでしたが、基本となる手法は正しく、この分野の基礎を築いたと言えます。 コンピューターの処理能力の継続的進歩とビッグデータ革命により、現在のデジタル逆合成ツールは新しい次元にこの手法を進化させました。基本ツールが高品質の包括的なデータベースとルールベースのアルゴリズムの支援を受けて、この手法の真の能力を発揮させています。
コンピューター逆合成分析が手動による逆合成より圧倒的に優れている点の一つは、デジタル検索ツールが反応と反応物の豊富な公開済み情報から引き出せる点です。経験豊富な化学者であれば非常に多くの化学変化を知っているかもしれません。しかし、既知か未知かにかかわらず、特定の分子の合成に使用される可能性のあるあらゆる化学変化を把握するのは現実的ではありません。
一方、コンピューターを用いた場合、既に公開されているほとんどの反応を根拠に決定できるので、材料コスト、手順数、原子効率、その他の要素に関する情報を使用して可能性のある大量の合成経路の大部分を包括的に分析できます。コンピューター逆合成分析はハードデータと予測アルゴリズムを元にしているため、化学者は非常に迅速に自信をもって特定の標的への最適経路を特定できます。試行錯誤を減らし、それに関わるボトルネックが排除されます。コンピューター逆合成ツールが使用する基本の科学的コンテンツが定期的に更新されている場合、最新かつ最も有効であることの多い化学物質が検索に確実に含まれているという追加の利点が生じます。
この特徴により、化学者は自身の知識ベースや合成レパートリーの制限を受けずに、より創造的な経路を自由に探索できるようになります。バイアスが存在しないため、現在のコンピューター逆合成ツールに組み込まれた高度なアルゴリズムは、化学者の専門知識の範囲外の反応手順を予測する場合が多くみられます。このような情報に即座にアクセスできると、インスピレーションの源となるため、非常に難易度の高い課題でも克服できることになります。迅速なイノベーションを推進するとこで、コンピューター逆合成システムは既により効率的で効果的な化学物資を使用した新製品の開発を加速しています。
デジタル変革によるコンピューター逆合成分析の機能拡張
コンピューター逆合成分析はまた、反応量や素材の価格情報などの特性を含む、広範囲の公開済みデータから結果を導くことで、化学者が合成スキームの効率とコストを最適化する方法も変えました。例えば、最新のコンピューターの手法では文献やデータベースで公開されている反応量データを取り入れ、この情報を集計して既知の変化の報告値を見せ、仮定される変化の推定も提供します。機能と使いやすさの向上のおかげで、化学者は最も好ましい特性を持つ特定の合成経路を優先的に使用できます。
多くの逆合成分析の目標は、コスト面で合成を最適化することです。例えば特許が切れたジェネリック薬など価格が重要な製品を開発する際に、重要な検討事項となるからです。一部のコンピューター逆合成ツールは、さらに世界中のサプライヤーが提供する化学物質の価格カタログを活用することで、研究者が試薬、触媒、溶媒、その他材料のコストに関する最新情報をもとに合成経路のデザインができるようになります。化学者と特定サプライヤーとの関係などの知識なしに実際の購入コストを算定することは困難ですが、代替となる開始材料の相対的価格の指標として推定値は有用です。このような進歩により、研究者の情報に基づいた迅速な決定を支援し、研究開発において、より自信を持った開発と生産性の向上を可能にしています。
化学合成の課題のシンプル化
コンピューター逆合成分析は、化学者が合成スキームをデザインおよび最適化する方法を変革する可能性を秘めています。化学者は可能性のある無数の道筋を迅速にふるいにかけ、最も効果的な解決方法を探り当てることができるようになるでしょう。さらに、コンピューターの処理能力と包括的な科学的コンテンツコレクションへのアクセスの継続的な進歩により、科学者 は最も効果的な化学物質を用いて、より情報に基づいた決定をすることが可能になります。しかし、コンピューター逆合成分析はそれ自体で強力なツールですが、このツールと化学者の知識と直感を組み合わせてこそ、研究ラボにおける生産的で効率的かつ自信を持った作業に対し、最高の経路を提供できるのです。
最高の合成化学者はあらゆる可能な経路を検討することなく、自身の幅広い知識と経験を定期的に使用して、的確に最善の経路を迅速に特定するものです。このような合成化学者のプランニング技術に近づくには、まだ多くの作業を必要としますが、発展の方向性ははっきり見えており、近い将来にこの期待が持てるケモインフォマティクスの世界で継続的かつ大きな進歩がみられることに疑いはありません。
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