クリス・リピンスキー博士は、カリフォルニア大学バークレー校で物理有機化学の博士号を取得しています。 カリフォルニア工科大学でのポスドクフェローシップの後、同博士はファイザーの上級研究員として30年以上も活躍し、有名な「ルールオブファイブ」を開発しました。 現在は、Melior Discoveryで科学アドバイザーとして、また同氏の会社、Christopher A. Lipinski, Ph.D., LLCのコンサルタントを務めています。
「ルールオブファイブ」(Ro5)のことをよくご存知でしょう。創薬における候補薬の落第率を低減することを目的に私が1997年に導入したガイドラインです。 これは、良好な経口バイオアベイラビリティ特性を持つ新薬候補を選択するための有用な戦略であることを証明しました。 しかし今の創薬の最大の課題の中には、現在の設計空間を超えて考えなければならないものがあります。
ここでの主な問題は、多くの有望な薬物標的が小さい親油性リガンドを好まないということです。 これは、多くの場合、結合部位が大きく、極性が高いか、機能がないため、従来のRo5リガンドは良好な親和力で結合しないためです。 したがって、多くの医薬品開発者は、「ルールオブファイブを超えて」いる大きいリガンド(bRo5)を研究しています。
許容可能な経口薬物動態を達成するようにbRo5リガンドを促すことは驚くほど困難です。 確かに、薬物候補の落第は依然として重大な問題であり、製薬会社は成功しない候補に対して頻繁に多額の投資を行っています。 このような困難を踏まえ、私はこう考えました。大きい標的は常にbRo5リガンドが必要なのか?探索すべき代替手段があるのだろうか?
これは簡単に答えられる質問ではありません。 しかし今ではビッグデータの力を活用して新しい洞察を明らかにすることが可能です。この戦略は私の問題に適用できるのではないかと思いました。 ここでは、この問題を調査するために新しい研究プラットフォームと情報ツールをどのように活用し、創薬の未来を形作る貴重な情報を得ることができたかについて説明します。
どのようにbRo5標的を調節するか - 答えはフラグメントか
bRo5リガンドの高い落第率を考慮すると、大きい標的を修飾する代替アプローチがあるかどうが疑問でした。 特に、ここではフラグメントが未開発の薬物リソースを提示できるのでは、と考えたのです。 フラグメントは低分子量(約150〜250)であり、医薬品の研究開発での関心が高まっています。重要なのは、これらの薬剤は小さいため、経口バイオアベイラビリティが良くないbRo5薬剤と同じ問題はない傾向があります。
しかし、従来の創薬では、有望なフラグメントの候補を特定するツールがありませんでした。 これは、開発者が特定の標的への親和性を評価する作用機序のスクリーニングに注目する傾向があり、これらのスクリーニングではフラグメントを検出するのが難しいことが多いためです。 その代わり、薬剤の効果を探している表現型スクリーニングで検出される可能性が高いようです。
フラグメントを拾う際、表現型スクリーニングと作用機序スクリーニングにこんなに違いがあるのは何故なのでしょうか。 この疑問を検討するにあたり、フラグメントがしばしばアロステリック活性を示し、従来の結合部位から離れた標的と相互作用するという新しい仮説を立てました。 この活性は、特定部位への親和性を探している作用機序のスクリーニングであまり特定されることはありませんが、表現型のほうではよく検出されます。
その答えは創薬のスクリーニングに重要な意味を持つ可能性があるため、私にとって本当に興味深いことです。 ただし、ラボでこの疑問の回答を見つけるのは、困難で時間のかかる話です。 そこで、利用可能な科学データを使って何らかの答えを得られるかできるかどうかを検討しました。
ビッグデータに関する新しい仮説を調べる上で、研究プラットフォームがラボパートナーとなったいきさつ
最近のソフトウェア開発のおかげで、利用可能なビッグデータの膨大なリソースを使用し、このような複雑な疑問に答えることができるようになりました。 私が選んだツールは、CASのコンテンツコレクションに基づく高度な研究プラットフォームSciFindernでした。 この分野では表現型アッセイが支配的であるため、抗感染薬の発見に焦点を当て、このツールを使用して一連のフィルター検索を実行しました。 これらの検索で、CASの生物学的に活性な化学データベース全体と比較して、アロステリック活性が低分子量の抗感染薬の中で比例して大きいかどうかを調べました。
データの検索と操作は驚くほど簡単でした。 基本的に、アロステリック活性に関連する生物学的に活性な化合物の2つのデータセットを特定し、比較することができました。 これらのうち1つ目は、抗感染剤でもあるフラグメント(分子量150-250)に基づいたもの、そして2つ目は、既知の化合物(分子量
これは非常に示唆に富む結果でした。 フラグメントが表現型スクリーニングで特定されたアロステリック効果を持っている可能性が不均衡に高いことを示唆しています。 これらの効果は、従来の作用機序スクリーニングでは発見されない可能性が高いため、これらの小さいアロステリック剤がどれほど一般的であるかがわからないだけなのです。 実際、bRo5標的の問題に対し極めて有望なソリューションを提供できる可能性があります。
一般的に言って、この研究からは2つの重要なメッセージが得られたと思います。 まず、この結果が意味するところは、医薬品開発者が表現型アッセイのフラグメントから多くの価値を得られる可能性があるということです。 第二に、この研究から得られた注目すべきメッセージは、ビッグデータからこの種の洞察を得ることが可能になり、簡単になったという事実です。 このような方法で他の洞察を得ることができれば、時間を大幅に短縮でき、新薬発見をより迅速に進めることができます。
高度な科学情報ツールで研究を加速
私の研究の過程において、最新の研究ツールの持つパワーについて多くを学びました。 事実、SciFindernは、研究および科学情報プラットフォームで達成できるだろうと期待していた私の予想をはるかに上回ったものでした。 ただの簡単で便利な情報検索ツールというよりも、むしろ仮説の取り組みの支援となる「ラボパートナー」となったのです。 創薬に携わってきた私の経験すべてにおいて、こんなことができるツールは他にはありませんでした。
高度な化学情報テクノロジーと包括的な研究開発データを組み合わせたCASの洗練された科学情報ツールにより、ビッグデータのみの力を使用して新しい医薬品の化学仮説に取り組むことができます。 このようにして、研究開発の効率を最適化するための貴重な洞察を得て、創薬の進歩を加速させることができます。
リピンスキー博士がどのようにSciFindernを使用して創薬への洞察を得たか、その詳細をご覧ください。 「ルールオブファイブ」を超えて、ラボパートナーとなることで研究開発の生産性を高める鍵となるプラットフォーム、SciFindernの詳細についてお問い合わせください。