Breakthrough Therapy指定 - 構造の新規性がもたらす実社会での影響

Todd Wills, Managing Director, Consulting Services

米国FDAの2012年安全およびイノベーション法を通じて導入された画期的治療薬指定 (Breakthrough Therapy Designation: BTD) 制度は、まだ治療方法が存在しない重病または致死的な病気の治療に有望な新薬に対して、その開発と審査時間を短縮させるためのものです。Breakthrough Therapy指定の承認の道筋は、有効性に関する大きなエビデンスが求められる点で、その他の迅速開発プログラムとは大きく異なります。その代わり、治験依頼者は臨床開発期間中にFDAの実体的な関与や支援を受けることができます。Breakthrough Therapy指定ステータス獲得の主な要件として求められるのは、他に利用可能な治療方法と比較したとき、臨床的に有意なエンドポイントでの大幅な改善を示す予備的臨床エビデンスです。いったんBreakthrough Therapyとして指定されると、効率的な薬品開発プログラムに関するFDAによる集中的ガイダンスを受けるほか、開発と審査を迅速化するためのFDAによる組織的な取り組みをはじめ、裏付ける臨床データ次第では、市場化に向けた申請の逐次審査や優先的審査を受ける潜在的資格なども与えられます。    

Breakthrough Therapy指定というステータスの獲得は、製薬の研究開発をしている組織にとって、公衆衛生と商業的メリットの両面で大きな成果とみなされます。 データによると、Breakthrough Therapy指定された治験薬は、審査期間が短縮されるほか、Breakthrough Therapy指定ではない薬と比べて販売前の開発期間が合計で2~3年短くなっています。さらに、この指定を受けると、特定製品の臨床的成果に一定の信頼が得られ、その結果会社に大きな価値がもたらされます。 実際、公的に発表されたBreakthrough Therapy指定認可に関する弊社の分析結果では、市販されている製品がない株式公開企業の株は、Breakthrough Therapy指定発表の翌日に(通常見込まれる投資利益以上に)平均で6%上昇しています。

化学的新規性とBreakthrough Therapy指定との関連性

こういった大きなメリットがあるため、画期的治療薬指定は、誰もが求める、しかし取得が困難なステータスとなっています。 2022630日の時点で、FDAには合計1265件のBreakthrough Therapy指定の申請がありました。それに対し、BTD指定が承認された申請はわずか40%ほどに留まっています

特定の候補薬のBTDステータスは、最終的な承認を受けるまでFDAにより公開されることはありません。2013年から2019年にかけて、FDAの医薬品評価研究センター(CDER)により承認を受けた276件の新規治療薬(NTD)のうち、BTDステータスを獲得したのは73件(26%)に留まっています。うち、主流の薬剤様式は小分子のもので、これら画期的NTDのうち56%を占めています。こういったFDA指定の小分子画期的治療薬の大部分では、構造的に新しい新規分子化合物 (NME) のうち、それまでのFDA承認薬では未使用の形状や骨格が最低ひとつ含まれています。しかし、さまざまな種類の小分子薬の成功率を詳細に観察すると、興味深い事実が明らかになります。

CASによる最近の分析では、構造的に新規性のある小分子NTDは約10件中3件がBTDステータスを得ていますが、構造でない部分の新規性を持った小分子NTDでは10件中1件にすぎません。 つまり、 構造的に新規性のある薬は、FDAによるBreakthrough Therapy指定ステータスの認可を2倍以上受けやすいということを意味します。この差は、構造的な新規性の影響の大きさと、新薬候補発見のためには化学領域の限界を押し広げることの重要性を示しています。

イン・シリコが小分子薬イノベーションを加速化する

効率とイノベーションのバランスは、創薬における長年の課題です。製薬業界は、既存の治療方法より大幅に臨床的メリットのある新しい治療薬を開発することを常に求められているからです。 構造的に新規性のある小分子薬は、有望な新薬候補となる可能性が高いことが証明されています。 しかし、合成できる可能性のある有機分子の数は(分子量1000 Da未満で)10180と推定されている中、この膨大な化学空間を探索して構造的に新規性のある新薬を見つけるのは従来の実験的手法では現実的ではありません。

そんな中、イン・シリコの手法の進歩により、構造的に新規性のある分子を含んだ化学分野において、新しい生物学的関連領域の効率的な探索が推進されるようになってきています。多くの製薬会社が過去数年間に導入を試みてきたイン・シリコ手法のひとつが機械学習です。機械学習は候補薬分子の特性予測に利用でき、またその精度も益々向上しています。機械学習から得られる洞察のおかげで、より特性が適した薬物類似分子の合成を優先できるほか、広範囲な化学空間でより構造的に多様な候補分子プールを準備できるようになります。これらの構造的に多様性のある候補薬プールは、合成とアッセイが可能な、より優れた分子の選択肢を提供することで、構造的に新規性のある薬物類似分子を発見する確率を高めます。

創薬における機械学習の有効性を高める

創薬のために化学分野を広範囲に探索できるような強力な予測アルゴリズムを構築するには、高品質のトレーニングデータを使うことが鍵となります。 機械学習の方法として、公的なデータ、社内データ、専有データなど、多種多様な範囲の情報源を利用できます。ただし、この異種データの真の価値を引き出すためには、それを精選し解釈し、構造化そしてインデックス化する必要があります。 実際、データ科学者はアルゴリズムの処理に必要なデータを調達してクリーンアップするのに現在も38%の時間を費やしています。これはモデルの開発や結果の最適化に有効活用できる時間でもあるわけです。 したがって、分類学や意味論上のつながり、そしてデータ分類の豊富な経験を持つ専門家により収集されたデータセットが利用できることは、創薬のための機械学習で適切な成果を収める上で大きな影響力を持ちます。

同様に重要なのは、薬剤分子の構造を機械学習で受け入れやすくするようエンコードする際に使用する、分子の表現方法もしくは「分子フィンガープリント」です。 近年の研究では、フィンガープリントの最適化が予測モデルの精度に大きく影響することが明らかになっています。 実際、CASのデータ科学者が開発した新しい分子フィンガープリントにより、従来のMorganフィンガープリント手法を利用した同一アルゴリズムと比較して、予測精度が最大45%向上しました。 このように強化された分子フィンガープリントは、薬物類似分子の生物学的活性を予測する創薬コンサルティングプロジェクトで有望性を示しています。その結果、次世代の画期的治療薬の探索において、スクリーニングのために合成すべき分子を数を減らし、研究効率を高める役に立っています。


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新しいトレンドでの知識ギャップを埋めるために、CASがどのように役に立つのか

CASを活用すれば、創薬において新しいアプローチが登場しても常に把握していられるようになります。 小分子は、構造的な新規性だけでなく、アンドラッガブルなタンパク質を標的とした新しいモードの発見に利用されています。 これにより、多くの治療領域で活性が期待できる新しい治療薬群が生み出されているのです。 最新のホワイトペーパーでは、分子接着剤の創薬状況、標的タンパク質分解、そして誘導接近などについての詳細を解説しています。是非お読みください。 

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