早期の知的財産戦略が創薬の成功を左右する:業界専門家による洞察

手袋を着用した研究者がマイクロプレートを持ち、その上に化学構造図が重ね合わされています。

ゲイリー・グスタフソン博士へのインタビュー

ゲイリー・グスタフソン博士は、メディシナルケミストとして長年研究室や産業界で活躍し、新規治療薬を開発するスタートアップ企業での勤務経験も持つ、CASのIP専門家です。本インタビューでは、実務的なIPの検討事項や創薬の最新トレンド、そして長期的な成功のために初期段階の意思決定が重要である理由について語ります。

メディシナルケミストから知的財産の専門家へ転身し、現在CASで働かれている経緯を教えてください。

大学院からポスドク時代にかけて、私は常に創薬プロセスに魅了されており、「どうすればより良く、より速く、よりスマートに開発できるか」を考えていました。そうした疑問が自然と産業界への関心につながり、いくつかのスタートアップ企業で働くことになりました。

スタートアップの環境は非常に刺激的でした。少人数のチームでは一人で何役もこなす必要があるため、創薬開発のあらゆる側面に携わることができました。キャリアの中で最も誇りに思っているのは、急性骨髄性白血病の治療薬としてFDAに承認されたオルタシデニブ(Olutasidenib)の開発に貢献したことです。

その後、高等教育機関での指導も経験しましたが、ちょうど良いタイミングでCASからお声がけいただきました。科学的な専門知識を活かしつつ、企業が抱える複雑な課題の解決を支援できるという点で、私にとって理想的な環境だと感じました。

研究室時代の経験を振り返って、IPプロセスについてもっと早く理解しておけばよかったと思うことはありますか?

誰もがまず注目するのは、自分たちの技術力や優位性です。しかし、私たちは「十分なホワイトスペース(未開拓領域)があり、IPとしての可能性があるのはどこか?」という問いを自分たちに投げかける必要がありました。

実際、多くの労力を費やして活性化合物を見出したものの、その領域がすでに特許の地雷原であったことに気づくケースが何度もありました。IPの観点からは、到底実現不可能だったのです。

現在、私はクライアントに対し、まずは「ホワイトスペースはどこにあるのか」「その領域はどれほど混雑しているのか」を問いかけるようアドバイスしています。多大な時間と資金を投資する前に、それを把握しておく必要があるからです。

ありがとうございます。非常に重要な視点ですね。創薬の初期段階において、プロジェクトの優先順位付けは大きな課題であるとよく耳にします。IPの専門家はどのように貢献できるのでしょうか?

初期段階のIP調査は、いわばリトマス試験紙のようなものです。5つの潜在的なプロジェクトを評価する際、1つの特許ランドスケープが混雑していれば、それは優先順位を下げるべきだというサインになります。逆に、比較的開拓の余地がある領域であれば、より安全な選択肢と言えるでしょう。初期段階で徹底したIP調査を行うことで、チームは実行可能な道筋に集中し、後々の予期せぬ事態を回避できるようになります。

創薬とIPの両方の経験を持つ立場から、初期段階のIP調査を優先しない場合に企業が直面する最大のリスクは何だとお考えですか?

初期段階で文献や特許ランドスケープを徹底的に調査しなければ、致命的な事態を招くリスクがあります。臨床試験への移行や承認取得の直前になって、他社が保有するIPの存在が発覚し、法的な壁に突き当たる可能性があるからです。

そのような見落としは壊滅的な結果をもたらしかねません。実際に、研究部門の大幅な人員削減を余儀なくされ、収益が見込めるプロジェクトに絞らざるを得なくなった企業をいくつも見てきました。

適切に管理・保護された知的財産ポートフォリオは、企業にとって最も重要な資産の一つであると言えます。これは、予測困難な事態に対する最善の防御策となります。

それは大きなプレッシャーです。数百万ドルもの資金がIP調査の結果に左右される状況下で、重要な情報をすべて網羅できたと確信するにはどうすればよいのでしょうか。

それは、必要な情報をすべて捉えつつ、結果に埋もれないようにするというバランス調整の作業です。「検索結果が多すぎる」という声も聞かれますが、短時間の検索で3件の結果を得て「これで十分だ」と判断する方がはるかに危険です。数年と数百万ドルを費やした後に、見落としていた特許の存在に気づくような事態は誰も望んでいません。

そのため、私たちは概念、物質、反応をインデックス化し、強力なフィルターを構築しました。これにより、ユーザーはノイズを排除しながら、重要な情報をすべて確実に抽出できるようになります。研究者やIP専門家がこれらのツールを活用して精緻な検索を行うことで、結果に対する確信は大きく高まります。もちろん、最新かつ包括的なコンテンツへのアクセスも、成功のための不可欠な要素です。

医薬品やバイオテクノロジーの研究開発におけるIP調査において、「包括的なコンテンツ」へのアクセスとは具体的に何を指すのか、詳しく教えていただけますか。

科学コミュニティでは、単にすべてのデータを持つだけでなく、適切なデータを持つことの重要性が広く認識されつつあります。それは、実用的で有用であり、最善の意思決定プロセスを導く「クリーンなデータ」を意味します。

しかし、多くの人が理解していないのは、すべてのコンテンツが適切にキュレーションされているわけではないという点です。「ゴミを入れればゴミが出てくる(Garbage in, garbage out)」という言葉は有名ですが、質の低いデータから始めれば、どのようなアルゴリズムやパターンを抽出しても、せいぜい質の低い結果しか得られません。

これこそが、CASが他と一線を画す理由の一つです。私たちは関連するすべてのコンテンツを網羅するだけでなく、品質を保証するためにキュレーションを行っています。このレベルのデータ品質保証は、治療薬開発、特に分子が巨大で複雑かつ多成分からなるバイオ医薬品においては極めて重要です。

イノベーションについてお話ししましょう。タンパク質間相互作用(PPI)が注目すべきIP領域として浮上していますが、なぜこの分野が注目を集めているのでしょうか。

私は以前からタンパク質間相互作用(PPI)を注視しており、がん治療への応用についても執筆したことがあります。現在、大半の薬剤は単一のタンパク質標的に作用しますが、生体内の多くのプロセスはタンパク質間相互作用によって制御されています。

PPIは、その巨大なサイズと結晶構造の作成が本質的に困難であることから、過去10〜15年にわたり「創薬不可能(undruggable)」とされてきました。しかし、昨年のノーベル賞受賞やAlphaFoldのようなイノベーションにより、潜在的な標的は10倍以上に広がりました。

私はこれをカリフォルニアのゴールドラッシュのように捉えています。現在、多くの人々がこの分野に参入し、阻害すべきPPIを特定してイノベーションを起こそうと、化学的空間の開拓を競っています。これは、膨大なIPの可能性を秘めた巨大な新領域です。

GLP-1受容体作動薬のような競争の激しい治療領域において、製薬企業はどのようにして密集した特許ランドスケープを切り抜けているのでしょうか。

プロジェクトには多くの差別化要因があり、独自のIPの可能性を切り開く方法はいくつも存在します。製剤はその大きな一つです。競合他社は錠剤を開発しているのか、注射剤のみか、あるいは懸濁液か。そこでは文献を注意深く監視する必要があります。研究者は、既存の技術だけでなく、まだ存在しない技術についても包括的な視点を持つことで恩恵を受けるでしょう。

次に大きな市場となる治療領域は何だとお考えですか。

科学の素晴らしい点は、3年後には、現時点では想像もつかないような驚異的な分野が登場している可能性があるということです。

ただ、過去5〜10年でRNA治療薬が遂げた進歩には驚かされています。コロナ禍において、mRNAワクチンはコンセプトから現実のものへと驚異的な速さで移行しました。この分野は依然として急速に成長しており、今後も幅広い治療領域でRNAの独創的な応用が見られると確信しています。

政治的・規制的な環境が変化する中、科学組織はどのようにIP戦略を適応させているのでしょうか。

組織は、俊敏性が鍵であることを理解しています。特定の分野の優先順位が下がった場合、その変化を迅速に認識し、文献を再検討し、自社の能力を評価し直した上で、新たなイノベーションの領域へと舵を切る必要があります。

科学に焦点を当てることは重要ですが、そこには常に科学とビジネスの両面が存在します。だからこそ、特に創薬の文脈におけるIP法と特許の歴史は非常に興味深いのです。発明を保護し、利益を生み出す能力がなければ、新しい治療法を開発する意欲や能力は低下してしまいます。

先ほどのお話に戻りますが、イノベーターや研究者は、規制の変化、政治情勢、サプライチェーンの問題、その他の圧力にリアルタイムで対応できるツールを必要としています。知的財産や科学情報の全容に深くアクセスできれば、企業は軌道修正や方針転換を行い、新たな機会に向けて組織を再活性化させることが容易になります。

M&Aは、戦略的な知的財産管理において、より大きな役割を占めるようになっているのでしょうか?

興味深いことに、私はスタートアップ企業での勤務経験を通じて、M&Aに関する膨大な経験を積んできました。在籍した企業は1社を除きすべて買収されています。経営層の視点から言えば、企業は多大な時間と費用をかけて自社の知的財産ポートフォリオを調査し、不足している部分を特定した上で、競争優位性があり、協力や買収の可能性がある新たな企業を調査しています。

これは、世界中のあらゆる企業の取締役会で議論されているテーマであり、企業の生命線とも言えます。M&Aのターゲットとなる企業の特許を検索できる能力は、価値あるイノベーションを特定し、長期的なリスクを軽減するために不可欠です。

最後の質問です。創薬の過程において、早期の知的財産インサイトはどのような価値をもたらすのでしょうか?

創薬には多額の費用がかかります。包括的な知的財産検索を行うことで、企業は関連情報を迅速かつ徹底的に把握し、適切なプロジェクトを優先させ、開発中の成果を保護することができます。初期段階で知的財産に関する調査を行うことは、後の工程でのトラブルを減らし、プロセス全体を通じて戦略的な優位性をもたらします。

CASのシニアカスタマーサクセススペシャリストであるゲイリー・グスタフソンは、医薬品化学、製薬・バイオテクノロジー分野の知的財産、製品開発の専門家です。ブラウン大学で化学の博士号を取得し、非天然アミノ酸に関する博士研究員としての研究を修了しました。創薬業界で25年の経験を持ち、FDA承認を受けた急性骨髄性白血病治療薬「Olutasidenib」の開発チームにも携わりました。CASでは、科学的専門知識と業界での経験を活かし、イノベーターの課題解決と発見の加速を支援しています。

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