進化するエクソソーム - 微小な粒子から期待の星へ

Rumiana Tenchov , Information Scientist, CAS

the evolving exosome hero

エクソソームは「自然界の脂質ナノ粒子」と呼ばれる細胞外小胞のサブセットです。正常な生理機能の一部として放出される場合と、特定の病的状態で放出される場合があります。 タンパク質や核酸、他の生体分子を使って細胞間でメッセージを伝達するため、科学界で脚光を浴びています。 治療と診断で有望視されており、企業や学術機関両方から関心を集めています。 エクソソームが持つ可能性を予測してそれをフルに活用するには、その研究環境を十分に理解することが重要です。

この3回に分けてお送りするシリーズでは、まずはエクソソームの歴史を紹介します。その後、薬物送達と診断におけるエクソソームの最新研究について論じます。 そして、CAS コンテンツコレクション™から得られた洞察をもとに、エクソソーム応用に関する研究での最近の進展を概観し、同時にこの急速に拡大する分野における機会と課題も明らかにします。

エクソソーム応用の進化

それはもう50年以上も前の事です。研究者らが、ヒト血漿の中に微小な粒子を初めて観測しました。 このplatelet dustと命名された物質は脂質に富んでおり、そのため、おそらく血小板の活性化に関わっているのだろうと思われていました。 1980年代になって、これらの30~150nmの細胞外小胞は初めて定義され、そして「エクソソーム」という名称になりました。

リポソームと同様、エクソソームは脂質膜と内部の水性媒体から構成されています。 ただし、エクソソームには、タンパク質と脂質が多く含まれていて、より複雑な構造をしていることがわかりました。 ほとんどの真核細胞のエンドソーム区画で生成されるエクソソームは、その後、細胞膜との融合により細胞外空間に放出されます。 分泌細胞から放出されると、受容体細胞にメッセージを伝達します。これは、表面受容体との相互作用や膜融合のほか、受容体を介したエンドサイトーシス、ファゴサイトーシス、および/またはマイクロピノサイトーシスなど、さまざまなメカニズムによって行われます(図1)

エクソソームの生合成と分泌の略図

図1 . エクソソームの生合成と分泌の略図。 挿入図は、エクソソームの分子構成を示す。

最初にその特性が確認されてから、その後の研究により、エクソソームは免疫細胞、腸管上皮細胞、神経細胞など、ほとんどの種類の生細胞から分泌されることが明らかになっています。 またエクソソームは、血液、尿、唾液、母乳、羊水、滑液、脳脊髄液、そして涙にいたるまで、多種多様な生体液にも含まれています

エクソソームの細胞間輸送経路は、免疫、組織の恒常性、再生など、健康と疾患の多くの側面において重要な役割を担っています。 エクソソームは、細胞間や(血液脳関門を含む)生物学的障壁を越えて、効率的な細胞間コミュニケーションとシグナル伝達を可能にしています。 エクソソームは、タンパク質や脂質そして核酸などの生理活性物質(カーゴ)を運搬できる、効果的な細胞内輸送システムなのです。 エクソソームは重要な生理活動に関与している一方で、がんや心血管疾患、神経変性疾患、そしてウイルス感染症などの疾患の発症にも大きな役割を果たしています。

エクソソーム粒子のユニークな特性

この微小な粒子が、一体どのようにしてそんな大きな影響を与えることができるのでしょうか。それを理解するためには、そのユニークな特性から考える必要があります。 まず、その脂質二重膜のお陰で、本質的に安定しており、過酷な腫瘍の微小環境下でも巡回することができます。 この脂質二重膜により、免疫原性と毒性も最小化され、細胞外空間での安定化を補強しています。 また、内因性であることから、エクソソームは高い生体親和性も有しています。 そして決定的な特徴は、エクソソームは優れた組織・細胞浸透能力を持っているということです。 こういった特性により、他の薬物送達システムにある制約も、エクソソームなら乗り越えられる場合があるわけです。 実際、研究者たちは、他の薬物運搬システムと比較してエクソソームが持つメリットを認識し始めています。

エクソソーム研究に対するCASの見識

出版公表された科学知識を人手で収集したものとしては最大のCAS コンテンツコレクション™を使った分析では、エクソソームに関する論文のトレンドについて興味深い洞察が得られます。 現在、CAS コンテンツコレクションには、エクソソームや細胞外小胞に関連する科学論文(学術論文と特許)が4万件以上収載されており、しかも時間の経過に伴い指数関数的に増加しています(図2)

エクソソーム研究の論文トレンド

図2. 薬物送達と診断のエクソソーム研究に関する論文・特許発表トレンド、および研究資金との関連性。 (A) 薬物送達と診断におけるエクソソームに関連する論文数の推移(学術論文と特許を含む)。 (B)NIHの年間助成金と相関関係がある米国内の組織から発表された文献数。

ここ3~4年で、エクソソームは脂質ナノ粒子(LNP)よりも有望な薬物キャリアとして好まれるようになっており、そこでエクソソームの薬物送達への応用に関連した特許と学術論文を含む文献数は、同種のLNP文献数を大きく上回っています(図3)

エクソソームと脂質ナノ粒子の論文トレンド

図3 薬物送達への応用に関するエクソソームと脂質ナノ粒子の論文トレンド。 (A)エクソソームと脂質ナノ粒子に関する文献数のトレンドの比較。 (B)学術論文(JRN)と特許(PAT)におけるエクソソーム(EX)と脂質ナノ粒子(LNP)のそれぞれの文献比率の比較。

エクソソーム研究における中心的存在

CAS コンテンツコレクションによると、エクソソーム研究では米国、中国、韓国、日本が先行しており、このトピックに関連して発表された学術論文と特許の文献数が最も多くなっています。 また、エクソソームに関連した特許出願でも企業と学術機関で均等に分散しており、薬物送達や診断、そしてそれ以外の分野でのエクソソームの将来性が世界的に認識されていることが示されています。 全企業の中で最も特許数が多いのがMDヘルスケア社、コディアックバイオサイエンス社、そしてオンコセラピーサイエンス社で、大学や病院ではカリフォルニア大学、ルイビル大学、浙江大学が上位を占めています(図4)。 特許の分布に関しては、世界知的所有権機関(WIPO)への特許出願件数が最も多く、次いで米国と中国の特許庁、欧州特許庁(EPO)、そして韓国と日本の特許庁の順になっています。

 

会社 特許件数 大学や病院 特許件数
MDヘルスケア 51 カリフォルニア大学 43
コディアックバイオサイエンス 44 ルイビル大学 28
オンコセラピーサイエンス 33 浙江大学 26
Evelo Biosciences 26 中南大学湘雅医学院 24
ExoCoBio 24 テキサス大学 23
Evox Therapeutics 18 コーネル大学 20
Figene 12 国家ナノ科学中心 17
Orthogen 11 シダーズ=サイナイ・メディカル・センター 16
Arbor Biotechnologies 10 サウスイースト大学 15
Samsung Life Public Welfare Foundation 10 韓国カソリック大学 15
Unicyte 9 韓国科学技術院 14
Henry Ford Health System 8 PLA Air Force Medical University 14
Cavadis 7 Yeditepe Universitesi 14
Exosome Therapeutics 7 マサチューセッツ工科大学 13
ExoStem Biotechnic 7 Mayo Foundation for Medical Education Research 12
Reneuron Limited 7 Morehouse School of Medicine 12
Biorchestra 6 オハイオ州立大学 Innovation Foundation 12
Flagship Pioneering Innovations 6 The General Hospital Corporation 12
Isis Innovation Limited 6 済南大学 11
NanoSomix 6 順天郷大学校 11

図4. 企業(A)と大学・病院(B)における、エクソソームの薬物送達や診断への応用に関連した特許譲受人の上位。

エクソソームの将来性

エクソソームは、そのユニークな特性や広範囲な生理的・病理的プロセスで果たしているその役割から、薬物送達と診断の分野で期待の星になりました。 自然界に存在するこのナノキャリアは、化粧品食品への応用が期待されており、その応用は無限の可能性を秘めています。

本シリーズの次回のブログでは、エクソソームの薬物送達と診断への主な治療応用について、CAS コンテンツコレクションから得られる洞察なども交えて詳しく説明します。 本トピックに関しては、CASのExosomes Insight Reportでも取り上げられています。そちらも併せてお読みください。

ワークフロー最適化のためのカスタムソリューション

CASでは、世界中の特許庁や研究を主体とする組織と提携しながら、その戦略的目標と合致するカスタムワークフローのイノベーションを開発しています。 
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科学イノベーションのトレンド探索やオポチュニティーの発見のために新たにCAS Insightsを開設

CAS Insightsは、CAS コンテンツコレクションと科学的専門知識を活用し、科学技術分野の最新の開発動向をビジネスおよび研究のリーダーに提供します。
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予測的な化学デフォーミュレーションがフォーミュレーションでの課題を解決する

Andrea Jacobs , Senior Manager, CAS Product Management

photo of bottles depicting cosmetic formulations

デフォーミュレーションとは、既知の製品の正確な組成を解明するプロセスです。 原料の相対的な比率が分かっている状態から、各原料の正確な配合量を決定していきます。 デフォーミュレーションは、ケミカルリバースエンジニアリングとしても知られます。

化学製品のデフォーミュレーションにより、組織は以下のことができるようになります。

  • 既存のフォーミュレーションから新しい配合を推定する
  • 競合他社の情報を改善させる
  • 競合製品のベンチマークを行う
  • 模倣品を判別する
  • プライベートブランド商品を開発する

化学物質と材料の発見や最適化の場合には、研究者は機械学習を活用していますが、デフォーミュレーションでは、一般的には分析化学的手法の手助けを借りて、実験的に行われます。 化学フォーミュレーションの構造化データが比較的限られていることが、多くのAI主導のデフォーミュレーションの取り組みの妨げになっています。 フォーミュレーションのデータで広く利用可能なものの大部分は、その成分や量の記録が不完全であり、また一貫性もありません。 

予測モデルをトレーニングして、迅速でデータドリブンなフォーミュレーションの提案を可能にする

Industrial & Engineering Chemistry Researchの論文、『Toward Predictive Chemical Deformulation Enabled by Deep Generative Neural Networks』(深層生成ニューラルネットワークによる化学デフォーミュレーション予測に向けて)では、教師なし生成モデルである変分オートエンコーダー(VAE)をトレーニングし、データドリブンなフォーミュレーションを素早く提案できることが示されています。

CASの科学者が収集したフォーミュレーションデータを使用して学習させたVAEニューラルネットワークは、制汗剤やオーラルケアなどさまざまな製品クラスのフォーミュレーションについて意味ある表現を学習し、従来のアプローチより平均的に優れたパフォーマンスを発揮しています。 この論文によると、このアプローチは「近傍法より大幅に正確な推定が得られ、以前得られたフォーミュレーションとは大きく異なったより良いフォーミュレーションを推定し、大規模データセットを利用して産業的に関連ある機能をもたらす方法を提供する」としています。  

CAS コンテンツコレクション™に収集されたフォーミュレーションでは、一貫した、そして高度に構造化された表現として、フォーミュレーションとその成分の化学的特性を提供します。 CASは、専門技術と科学的知識を利用した独自のキュレーションプロセスにより、各フォーミュレーションの化学成分、その分類、そして量を一貫して特定することができます。 論文の著者らも、「CASのデータセットがなければ、これらのデフォーミュレーションの応用に向けた生成方法の実用的な検証は不可能でした」と報告しています。 

これらの成果の全文は『Toward Predictive Chemical Deformulation Enabled by Deep Generative Neural Networks』(深層生成ニューラルネットワークによる化学デフォーミュレーション予測に向けて)をご覧ください。

より正確なデフォーミュレーション予測に関心がある方は、 CASのカスタムサービスなら、特化した技術と科学的な専門知識、そして比類のないコンテンツをお客様独自のニーズに合わせてカスタマイズして提供することができます。是非ご検討ください。  

植物の生長に伴う隠れた温室効果ガスの排出

Lisa Babcock-Jackson, Information Scientist at CAS, Willem Schipper , Owner, Willem Schipper Consulting

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食料生産における温室効果ガス排出においては、もっぱら牛がその責任を負わされています。しかし、あまり話題にされていないものの、植物由来の食品でも温室効果ガスは排出されているのです。確かに家畜は大きな要因である一方、肥料の生産などの「隠れた側面」も、食料生産システムで発生する137億CO2換算トンに寄与しています。

つまり、肥料や植物の補助栄養素(窒素、リン、カリウムなど)、そして土壌管理などが隠れた原因になっています。窒素やリン、そしてカリウムは農業には欠かせません。ただ、その供給源や生産、そしてサプライチェーンが温室効果ガス排出の要因となっている訳です。


リンのリサイクリングやサステナブルな肥料生産に関する最新の科学と市場トレンドに関して、専門家はどう言っているのでしょうか。 11月9日午前9時(米国東部標準時)開催の、活発で有益なウェビナーにご参加ください。登録はこちらです


GHG排出量が非常に多いアンモニア

世界人口が増え続ける中、2019年のFAOの報告書では、当然のことながら肥料用の窒素の需要も増加を続けると予測されています。肥料生産において、従来のアンモニア製造方法(ハーバーボッシュ法など)はアンモニア肥料の可用性を高める一方、二酸化炭素を大量に発生させてしまいます。 ところが、需要を満たすために、多くの場合現在はこの従来のアンモニア製造方法が集中的に使用されているため、温室効果ガスの発生量は今後も増え続けることになるのです。

よりグリーンなアンモニア製造は可能

現在、より環境に優しいアンモニア製造方法の開発に向けて、数多くの研究が進められています。 これは、持続可能な電力を使用して原料の水素を電気化学的に生成することで可能になります。 ただ、化学では例えば窒素の光化学的あるいは電気化学的還元など、より高度なコンセプトも存在しています。 図1は、窒素の直接電気化学的還元を図解したものです。 Hoshman氏らの分析では、直接電極触媒法は、水の電気分解とハーバーボッシュ法を用いた代替手法よりも、低コストであることが判明しています。

サステナブルな窒素固定
図1: 再生可能エネルギーを動力源とする、水と窒素の直接触媒によるアンモニア合成(出典: Gal Hochman, Al. S, et al, Potential Economic Feasibility of Direct Electrochemical Nitrogen Reduction as a Route to Ammonia ACS Sustainable Chemistry & Engineering 2020 8 (24), 8938-8948)

グリーンなアンモニア製造の奨励

経済的な観点から見ると、欧州委員会は、輸入品に対して二酸化炭素排出量への関税を計画しています。 この関税案は、厳格な気候変動政策の対象となるEUの生産者よりも、輸入業者のほうが有利になることを防ぐためにEUがとった方策です。 これらの法律は、2023年1月から2026年末まで、3年かけて段階的に導入されることになっています。

ヨーロッパにおいて、天然ガスベースに代わるアンモニア製造法を発見しようという試みは、天然ガスの価格が不安定なこと、そして現在の地政学的情勢がイノベーションの強力な推進要因になっています。 そういった試みと、低コストで大規模な電気分解とを組み合わせることで、グリーンなアンモニア製造方法は、まもなく価格競争力を持つようになるはずです。

天然資源としてのリンへの依存

ここ数年、「リン資源の危機」が報告されています。農家にとって手の届く価格になっているかということをはじめ、公害、肥料の過剰使用、そしてリン資源の地政学的支配などは、すべてこの問題の一部として認識されています。 また、採掘可能なリン鉱石の量と、その質の問題もあります。  

これは、食料と水の安全保障の問題であり、人口増加に伴い確実に増加します。 リン酸塩による水質汚染の管理コストは高く、またその結果発生する藻類による有毒作用も見逃せません。

リンのリサイクリング - 循環型経済の機会

廃水は、第2資源としてのリンの主要な供給源になります。どうせ廃水から除去されなければならないため、その回収方法もすでに提供されていることになるのです。 廃水や汚泥、そして下水灰からリンを回収するためには、まず化学的沈殿や生物学的リン除去のために微生物の利用などの手法を用います。

2001年以降は、肥料の栄養素回収に関連した廃水処理法の科学文献の発表が全体的に増加しています(図1)。 これらの文献では、生物学的処理法が最も多く登場します。続いて、物理的方法と化学的方法となっています。 リンのリサイクルという複雑なプロセス全体における一側面として、栄養素の回収があります。

廃水処理の分類
図2: 肥料の栄養素回収に関連した廃水処理法の科学文献

ストルバイト沈殿法は、廃水中のリン酸塩を除去する方法として、人気が高まりつつある方法です。 廃水処理設備の性能を向上させる一方で、リンの回収能力は高くありません。

しかも、廃水からリン酸塩を除去できたとしても、それを利用可能な形に戻すという次の課題が存在します。特に、既存の肥料クラスを標的とした場合はなおさらです。 従来の肥料製造経路では、回収したリンをドロップイン市場製品にするだけの適用範囲がありません。

下水汚泥や汚泥焼却灰から肥料を作るためのさまざまな方法の開発が現在進んでいます。 これらのプロセスでは、バリューチェーンで利用可能な物質を得るためには、多くの場合リン酸塩を含む廃棄物から始めて、大幅な化学変換を行うことになります。 たとえば、リンの回収技術には大量のエネルギーを必要とする場合があり(集中的な乾燥や濃縮の工程など)、それを管理する必要もでてきます。

詳しい情報

よりサステナブルな肥料の生産のために、科学と市場のトレンドが今後どのように集束していくか、専門家はどう言っているのでしょうか。Willem Schipper ConsultingのWillem Schipper博士とCASのLisa Babcock-Jackson博士が、よりグリーンなアンモニア製造とリン酸塩リサイクリングに関する独自の洞察を提供します。

11月9日午前9時(米国東部標準時)開催の最新ウェビナー「サステナブルな肥料における市場と科学のトレンド」にご登録ください。

サステナブルな肥料生産における新たな市場と科学のトレンド

Lisa Babcock-Jackson, Information Scientist at CAS, Willem Schipper , Owner, Willem Schipper Consulting

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肥料やリン酸塩、またはその他の重要な農産物の生産に関わっている方なら、サステナビリティが大きな課題であることはすでにご存じのことでしょう。 ここでは、リン酸塩のリサイクルや持続可能なアンモニア製造、そして代替肥料製造に関する最新情報をお届けします。 最新の市場、科学研究、出版のトレンドを把握し、今後のビジネスチャンスを明らかにします。
 
Willem Schipper Consulting社のWillem Schipper氏とCASのLisa Babcock-Jacksonが、廃棄物管理と農業の取り組みに変化をもたらす今後の機会について考察します。

研究開発におけるダークデータ - ナレッジマネジメントで隠された価値を掘り起こす

Jennifer Sexton , Director/CAS Custom Services

cas data space knowledge management

研究開発におけるダークデータ - ナレッジマネジメントで隠された価値を掘り起こす

ダークデータとは、ガートナー社によれば、「組織が通常のビジネス活動において収集、処理、保管するものの、一般的に他の目的に使おうとしない情報資産」と定義されています。そこにどんなデータが存在するか、またはそれにどうアクセスするのかを誰も知らないため、存在するはずの洞察も闇のままになってしまうのです。

研究開発(R&D)チームは膨大な量の複雑なデータを長期間にわたり蓄積しています。このデータを正しく活用すれば、意思決定の改善やイノベーションの推進に役立つ豊富な情報となる可能性があります。 しかし、検索するにも制限があるような、複数の分断されたデータベースシステムにデータが区分化されてしまうこともあり、そうなると本当に必要なデータにアクセスするのは非常に困難になり、また時間もかかるようになります。

CAS知識管理の図
図1:構造化されていないアクセス不能なデータは、将来の発見を促進させるための活用ができない 

事実上、自社のデータを自社の研究者から隠すことになり、不必要に実験を繰り返して、時間とコストを浪費することにつながります。 データが隠れてしまうことに加えて、現在のデータ管理システムでは内部データと外部ソースとを接続させるのに困難が伴う場合があります。これは、より包括的で完全な知識管理を実現する機会を逸失することになります。

推定によると、組織に保管されているデータの55%がダークデータとされます。 にもかかわらず、世界中のビジネスおよびITのエグゼクティブとマネージャーの約90%が、今後成功するには、どの組織もこの非構造化されたデータから価値を抽出することが必要だと言っているのです。

要するに、このまま情報を収集し保存し、そして使わないまま放置し続ければ、それはただのダークデータとして存続し続けるだけになる、ということです。 では、この貴重な研究開発データに光を当てるには、どうすれば良いのでしょうか。 以下に、隠れた可能性を引き出す方法をいくつか紹介します。

1. 最も価値のあるR&Dデータがどこに隠れているかを見極める

研究開発データがサイロで眠り続けないようにするために重要な最初の手順は、見つけやすくするために、どのデータコレクションに最も価値があるかを判断することです。実験結果と知見に、組織内の関係者が直感的にアクセスできるようにすることが重要です。

時間や資源を投入して収集しているにもかかわらず、将来にわたって再利用せずにダークデータとして保管されている知識はないでしょうか。 過去の実験データと研究結果に光が当たれば、賢い投資を進めることができ、また同じ実験を繰り返さずに済みます。

2. 知識管理戦略を通じてR&Dデータを可視化する

研究開発における知識管理には、情報の収集だけでなく、意思決定を導くための意図的なデータ管理も含める必要があります。 データは、検索可能になっていて、連携されていて、そしてアクセスしやすく体系化されている場合にのみ、それを役立つ知識に変換することができます。 常時使用されるわけではないデータでも、関連性がある際には発見できるようにしておく必要があります。

所有している洞察を活用するためには、R&Dデータを体系化するデータ管理フレームワークを構築するための、適切なITソリューションや専門知識が必要です。 そこで一般的な課題として、複数の情報源の中で、科学用語を一致させることが挙げられます。 科学的な文脈に一貫性がないと、データベース検索時に重要な情報を見逃す可能性があります。

CASでは、専門的な用語集、オントロジー、そして分類法と、独自の物質比較テクノロジーおよび科学者の専門知識とを組み合わせることで、科学用語の標準化を図っています。 これにより、研究者が必要とする重要な情報に、すぐアクセスできるようになります。

3. 体系化されアクセスしやすいR&Dデータをフルに活用する

良く構成され、そして容易にアクセス可能なR&Dデータは、効率を向上させます。 必要なデータの検索時間を短縮できるだけでなく、不要な実験の繰り返しも回避できるため、時間とコストの削減につながります。 また、戦略的な意思決定が加速化され改善され、組織の競争力を維持できることも大きなメリットです。

CASなら、単にデータを見つけるということから一歩踏み込みます。情報を、貴組織内部だけでなく、世界の科学情報とも結び付けます。 例として、このケーススタディをご覧ください。ここでは、あるカスタム知識管理ソリューションにおいて、組織内の文書がいかにCAS コンテンツコレクションTMや特定の業界で独自にキュレーションされたデータに安全にリンクし、そしてそうすることでそれが拡張されるか、つまり内部データがより堅固になるかがわかります。 内部で実施した研究のコンセプトも、世界中の類似論文や特許と結び付けることによって、トレンドや共同研究者、そして競合が特定できるようになります。

CAS知識管理の図
図2.組織の内部データと世界中で公開されている科学のデータとを結び付ける。

カスタム知識管理設計の実例

CAS Custom ServicesSMでは、既存データを構造化された形式で保存、そして接続するソリューションを開発しています。これにより、すべての従業員が価値ある研究開発データに直接的に、そして効率的にアクセスできるようになります。


弊社ソリューションで貴組織にどんなメリットがもたらされるのか
貴組織独自の知識管理ニーズにどうお応えできるのか、CAS Custom Servicesに是非ご相談ください。
 


CASは、組織のデジタル資産に対して、世界中の科学情報をキュレーションするのと同様のプロセスを用いることで、そのポテンシャルを最大限に引き出します。 弊社の知識管理ソリューションは、一般的なキーワード検索を超え、科学コンテキストを利用可能にします。 内部文書のキュレーションをし、それを関連付けして分析することで、これまで隠れていた文書の全文検索ができるようになるほか、類似したコンセプトや物質を関連付けたり、特定の発見に合わせてコンセプトを検索することなども可能になります。

組織内のデータを世界中の科学データと結び付けることで、意思決定が改善され、イノベーションのペースが上がり、そして貴組織のデータの価値も向上します。

知識管理の図1
図3. 洞察を引き出し、R&Dデータのポテンシャルを解き放てば、データドリブンな意思決定ができるようになる。

弊社の画期的な情報ソリューションが、大手医療機器メーカーにおいてどのように発見の推進に貢献したでしょうか。 詳細は、弊社ケーススタディ、『貴組織の研究開発データのポテンシャルを解き放つ - キュレーションとデータ接続で掘り起こす検索可能な洞察』をダウンロードしてお読みください。 

原子力はグローバルな排出量削減の鍵になれる

Tatyana Konovalova , Information Scientist/CAS

原子力エネルギーのインフォグラフィック

 

原子力は、怖くて危険なエネルギーと思われている傾向がありますが、そのリスクを減らし、核廃棄物のリサイクル性を高め、そして低排出量を実現する新しいアプローチが存在します。 こういった新しいトレンドやリサイクルの取り組みが、なぜ将来の原子力エネルギーを再定義しているのか、その詳細は最新の記事をご覧ください。

分子接着剤と標的タンパク質分解に関するACSウェビナー

Janet Sasso , Information Scientist, CAS

分子接着剤と標的タンパク質ディグレーダーは、創薬の状勢を変えつつあります。 この方法は、ユビキチンプロテアソーム経路のE3ユビキチンリガーゼに目的のタンパク質を「付着する」させることで、タンパク質のターンオーバーを助長し、体内のタンパク質で過剰なもの、または損傷したものを除去できるというものです。 CASの最新の記事では、がんや炎症、そして免疫疾患の治療でこの方法が増えていることについて、そのトレンド、タンパク質の標的、科学的メカニズムなどを通じて詳しくご紹介しています。

分子接着剤ウェビナー画像

パネリストJanet Sassoによる専門的見解

Angela Zhouの司会による本ウェビナーは、外部の専門家を複数招いて2022年10月5日にライブ開催されたものです。

Philip Chamberlain博士とBenjamin Ebert博士

このウェビナーの冒頭では、状勢の分析と研究トレンド、対象になった主要リガーゼなどのほか、新たに登場してきた関係者と治療領域との関係性といったことに焦点が当てられました。 詳細は、Insight Reportをお読みください。 

ウェビナーの主なハイライト

最初にEbert博士が、シクロスポリンなどの天然の分子接着剤と、タンパク質を破壊するE3リガーゼを利用しないFK-506などの分子接着剤について述べました。 また、この分野やダナ・ファーバーで詳しく研究されているサリドマイド類似体についても詳しい説明がありました。 さらに、これらの新規構造の同定と機序の理解に役立てるために遺伝子ライブラリーとスクリーニングを活用することにおける現実的な課題についても言及しました。

次に、Chamberlain博士が、分子接着剤がどのように身体の細胞機構に新形態の機能を与えるかについてプレゼンテーションしました。 プロトタイプの接着剤としてのサリドマイド類似体に焦点を当て、転写因子IKZF1に対する種耐性や、催奇形性の主要因としてのSALL4の同定といったことがある中、これを推進することの課題を語りました。 さらに、ライブラリー設計やスクリーニング、そして検証といった分子性接着剤特有の課題に関連して得た教訓から、実践的なポイントをいくつか紹介しました。

最後に、基本的な分子接着剤の構成からより高度なモデリングに至るまで、参加者から幅広く質問が寄せられました。 今回のウェビナーは分子接着剤や標的タンパク質ディグレーダー、アンメットニーズが高い疾患の治療など、将来の可能性を示唆する興味深い議論でした。 ウェビナーの動画や関連スライドは、こちらでご覧ください。

インフォグラフィック - 生体直交化学がノーベル化学賞を獲得するまでの道のり

CAS Science Team

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