気候変動の解決に核エネルギーは不可欠か

Gilles Georges , formerly served as Vice President and Chief Scientific Officer at CAS

 

グリーンエネルギーは、世界的なエネルギーミックスの枠組みの中で最も急速に成長している分野としてその普及が進んでいるものの、効率と生産能力というハードルもあり、従来の高炭素型エネルギー選択肢には到底及びません。 こういった制約が、グリーンエネルギーが主流のエネルギー選択肢になることを阻んでいます。 では、グリーンエネルギーの大規模導入が実現するまでの間、そのギャップを縮めることのできる、CO2を排出しないスケーラブルエネルギー源としては、他に何があるでしょうか。 核エネルギーは、そのカーボンフリーの特性や実証済みの効率とスケーラビリティから、移行段階での候補のひとつとして、またはもしかすると将来的に広く受け入れられる可能性のある代替エネルギーの選択肢となり得るでしょうか。 

排出ガスゼロということに加え、現在約450基の原子力発電所がフル稼働している期間は90%を超えています。それに対し石炭は50%、そして太陽光発電は25%になっています。 にもかかわらず、世界の総電力需要のうち、原子力発電所による電力供給はわずか10%に過ぎません(図1)。 なぜ核エネルギーはこの間、もっと早い成長をしてこなかったのでしょうか。

2021年の電力供給源を示すグラフ
図1. 供給源別の電力生産の割合、2021年。 

エネルギー生産の選択肢として実績があり経済的でありながら、放射能によるリスクや環境への影響などから、核エネルギーには物議を醸すイメージがつきまといます。 チェルノブイリや福島の事故により、核分裂には完璧な管理と警戒が必要とされること、そしてごく小さな事故でも大惨事になり得ることを思い知らされました。 

核反応と放射能 

18,000を超える原子炉・イヤー(年)の実績を踏まえると、原子炉テクノロジーは十分に確立され、多様化されているだけでなく、数十年にわたる技術改良の恩恵を受けて、現在の原子炉はより安全で信頼性も耐久性も高く、効率的になっています。 

原子力発電では、ウランの同位体、主に238Uと235Uの混合体を燃料として使用しています。ほとんどの商用原子力発電所では、燃料として235Uの濃度が3~5%程度の低濃縮ウラン(LEU)が使用されています。これに対し、兵器級の用途に必要な高濃縮ウラン(HEU)は、235Uの濃度が~90%になっています。  

ウラン濃縮の反応図
図2. ウラン濃縮 - ウラン235同位体の濃度が0.3%から3%に増加する。

原子炉にLEU燃料として入った235Uと238Uは、図3に示すように2つの異なった原子変換経路をとります。燃料、この場合238Uですが、これが中性子を吸収すると核分裂性物質239Puに変化します。同様に、239Puと235Uも核分裂してより小さな原子核、すなわち核分裂生成物になります。 核分裂反応によってそれぞれ3個の中性子が放出され、同時に熱と電離放射線という形で大量のエネルギーが放出されます。

核分裂反応の図
図3. 核燃料の核分裂反応。

この原子の変換や崩壊は恵みであり、呪いでもあります。 恵みなのは、その少ない量の燃料の割に、膨大なエネルギーを生み出され、それを熱交換器や高圧水力タービンで取り出して電気を生み出せるためです。 そして呪われているのは、変形に伴う原子崩壊が電離放射線や粒子、つまり総称して放射能と呼ばれるものを生成させるからです。 発電のための原子炉内の放射能は望ましいものですが、この放射能は「使用済燃料」と呼ばれる燃料廃棄物の中に残留するため、これをきちんと封じ込めて制御しないければ、有害なものになります。 

原子炉内で3~5年間核反応を続けると、核分裂性同位体の燃料の濃度は、やがて発電目的の連鎖反応を維持するのに必要な最低レベルを下回るようになります。 使用済燃料は原子炉から抜き取られ、「高レベル」放射性廃棄物(HLW)として分類されます。 HLWは放射性廃棄物総量の3%に過ぎませんが、廃棄物全体の放射能の95%を占めています。 そこで、HLWは世界中の放射性廃棄物管理戦略の大きな焦点になっています。   

1000MWeの平均的な原子力発電所(これは100万人以上の需要を満たすのに十分な供給量です)では、年間25〜30トンのHLWが生成される一方、炭素排出はゼロです。 それに対し石炭火力発電所では、年間30万トンの灰と600万トン以上のCO2が大気中に放出されます。 ただし、使用済燃料の再処理と再利用で核廃棄物の量と放射能レベルを減少させれば、有害廃棄物管理というこの複雑な課題の対策になるのです。

使用済核燃料のリサイクル選択肢

使用済核燃料の再処理技術は、1940年代後半から存在しています。 十分に理解されており、また技術的にも実績がありますが、再処理に投資を行っている国はごくわずかです。 使用済核燃料の再処理と再利用を行っている主要2か国は、フランスとロシアです。 平均して、使用済燃料廃棄物の約95%がウラン(大半が238U)、1%がプルトニウム、残りは原子番号が小さい多種多様な核分裂生成物とマイナーアクチニドです(図4)。 使用済燃料の再処理技術により、ウランとプルトニウムの同位体を他のアクチニドや核分裂生成物から分離することができます。  

PUREX核分離プロセスの図
図4. PUREXは使用済燃料を3つの相に分離する。 


再処理の選択肢における主流はPUREX(プルトニウムとウランの還元抽出)と呼ばれる方法です。 PUREXでは、湿式製錬分離技術により使用済燃料を3つの相に分離します。

  1. ウラン同位体
  2. プルトニウム同位体
  3. マイナーアクチニドを含む核分裂生成物 

この第3相は、これらのマイナーアクチニドと高放射能の中寿命核分裂生成物(つまり半減期が約30年の90Srと137Cs)が存在するため、HLWとみなされます。 PUREXの最大の利点は、従来は廃棄物とされてきた使用可能なウランを大量にリサイクルし、HLWの量を大幅に削減できることです。 

PUREXは廃棄物の量を減らす一方、その放射能には対処しません。 また、239Puを他のアクチニドから分離するため、核兵器拡散の懸念も発生します。 

このHLWの放射能とプルトニウム拡散のリスクに対処するため、改良型のPUREXプロセスが世界中で提案され、実施されています。 これら改良型のPUREXは、239Puをマイナーアクチノイドと混合することで兵器への転用を防ぐ一方、燃料として許容可能なレベルの再処理アクチノイドの混合物にします。 また、他の改良型として、ウランやプルトニウム、そして超ウラン(ウランより原子番号の大きい元素)を混ぜ合わせ、廃棄物は核分裂生成物だけになるようなものもあります。

使用済燃料棒を原子炉から取り出しても、そのウランの90%以上がまだ「不焼成」であることを考えると、HLWリサイクルは理にかなっていると言えます。 未使用のウランやプルトニウムをリサイクルすることで、最高25~30%の電気が得られます。 2020年末時点で、商用原子炉から全世界で40万トンの使用済燃料が発生し、そのうち約12万トン(30%)が再処理され、核燃料として再利用されています。  


原子炉設計の進展

最近の原子炉設計の進歩により、エネルギー生産効率と安全性は向上しています。 CAS コンテンツコレクション™ では、特許と文献における活動が2018年以降大幅に増加し、新たな関心が高まっていることを示しています。これは、主にアジアの組織が牽引してきています(図5aと5b)。  

原子力技術の特許譲受人の上位
図5a. 2000年以降の原子力技術の特許譲受人の上位。
2000年以降で原子力関連文献の出版件数が最も多い組織
図5b. 2000年以降で原子力関連文献の出版件数が最も多い組織。


図6は、新しい先進的な原子炉の設計に関連する出版物の量を示しています。 このデータから、新しい原子炉技術に関する研究活動が活発になっていることが確認できます。  

原子炉設計の種類別の文献出版量のグラフ
図6. 先進的な原子炉の設計とその文献出版量の関連性。

 

核エネルギーの将来性 

核エネルギーの復興は長年のテーマですが、いくつかの障害や課題がまだ残っており、数十年前の核エネルギーの希望と約束を果たすことを、今もなお困難にしています。 多額の初期投資、変化する規制、コスト超過、政治の分極化などにより、新規原子力発電所の実現は10年に及ぶ紆余曲折の道のりになっています。 原子力の利点と可能性が証明され否定できないものであるにもかかわらず、政府や投資家にとっては、こういったことが核エネルギー推進への大きな妨げとなっています。  最近のウォール・ストリート・ジャーナルの記事でもこの課題が論じられているほか、原子力技術分野の最近の進展も紹介されています。

カーボンフリーなエネルギー源の必要性、新しい原子炉技術の進歩、使用済燃料の新しいリサイクルと再利用の方法などにより、グローバルな気候変動という課題に立ち向かうために、まだ核エネルギーは重要な武器として台頭してくる可能性を秘めています。 



(科学的な助言をしていただいたElaine McWhirter氏に謝意を表します )


原子力アニメーションの参考文献

IAE, World Energy Outlook. https://www.iea.org/reports/world-energy-outlook-2022 (アクセス日 2023-01-09)

World Nuclear Association. https://world-nuclear.org/nuclear-essentials/how-can-nuclear-combat-climate-change.aspx (アクセス日 2022-09-09)

NEK. https://www.nek.si/en/longevity-for-sustainability/production-performance/high-energy-density-of-uranium-is-one-of-key-advantages-of-nuclear-energy (アクセス日 2022-09-09)

World Nuclear Association. https://www.world-nuclear.org/information-library/nuclear-fuel-cycle/fuel-recycling/processing-of-used-nuclear-fuel.aspx (アクセス日 2022-09-09) IAE,

World Energy Outlook. https://www.iea.org/reports/world-energy-outlook-2022 (アクセス日 2023-01-09)

 

現在の手法のレビューと​ 世界の動向

CAS Science Team

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現在のリサイクル方法とグローバルな開発努力に関する考察

今日、世界のリチウムイオン電池のうちリサイクルされているのはわずか5%と考えられており、今後予測されている800万トンの廃棄物は、環境と経済に多大な影響を及ぼすことが推測されます。 リサイクルには、経済的なものから政策立案まで多岐にわたる課題がありますが、本ホワイトペーパーでは、この大きなチャンスを取り巻く科学的な課題と新たな研究環境について深く掘り下げます。  

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化石燃料由来プラスチックの代替品としてのバイオベースポリマー

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世界の化石燃料の約10%がプラスチックの生産に消費されているため、化石燃料を原料とするプラスチックに代わる、実現可能な代替品を生み出すことが、過去20年の重要な目標でした。 再生可能なバイオマス資源より得られるバイオベースポリマーは、理想的な代替品として幅広く注目されてきました。 これらのポリマーは、石油由来のプラスチックに代わる有望そしてサステナブルな代替品としてのバイオプラスチックを作るために使用されてきており、外国産の石油に大きく依存している国にも利益をもたらす可能性を秘めています。

ChemRxivに掲載された本ジャーナル原稿では、3種類のバイオベースポリマーと、その長所と短所、最新の研究動向、ならびにこの分野の研究トレンドについて詳しく解説します。 バイオプラスチックは、誤った情報に基づいて懐疑的な見方をされることが多いため、この記事では、バイオプラスチックの誤解を解き、そして持続可能性の実現のためのバイオベースポリマーの重要性について認知度を高めることを目的としています。

新しい化学の予測 - 高品質なトレーニングデータがもたらす反応結果の予測への影響

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合成プランニングアプリケーションを支える機械学習モデルは、トレーニング段階で認識した化学物質に大きく制限されており、化学の下位領域に入力された情報が少ないため、その予測の精度と多様性が往々にして低下します。 トレーニングを行ったモデルの性能に、さまざまなデータセットがどのような影響を与えるかを測定することで、合成計画ソリューションの予想対応範囲と新規性に関してより確固たる判断を下せるようになり、また従来は困難だった科学分野に対する可能性を広げるデータセットを設計できるようになります。

このバイエル社の科学者による研究では、CAS コンテンツコレクションから科学者が収集した反応情報が、合成プランニングモデルの予測能力に対していかに多大な影響があるかを明らかにしています。 希少な反応クラスにおける結果の予測精度は大きく(32%)向上しており、新しい有用な化学反応への理解を深めることに寄与しています。

新しい化学の予測ホワイトペーパーのカバー

困難な科学分野の可能性を広げるには、CAS Insights Reportをご活用ください。または、専用データセットの設計には、Custom Servicesチームにお問い合わせください

本CAS Insights Reportはバイエル社の科学者の皆様との協力のもと公開されています。

著者:

  • Miriam Wollenhaupt博士、 Bayer AG社計算化学者
  • Martín Villalba 博士、 Bayer AG社応用数学専門家
  • Orr Ravitz博士、 CAS合成プランニングソリューション部門

生体直交化学 - 科学や医学での多様な応用に関する考察

CAS Science Team

Hero image bioorthogonal chemistry white paper

本CASホワイトペーパーでは、新たな科学分野に対する独自の洞察を得るために、CAS コンテンツコレクション™に見られる各種の生体直交反応、応用およびトレンドを取り上げます。 生体直交化学は、生物学的システムの構造と機能をより深く理解することを可能にします。そして将来的に、創薬、薬物送達および画像撮影への応用が最適化される可能性を示唆しています。

生体直交化学ホワイトペーパーのカバー

よりグリーンなプラスチック代替品、バイオベースポリマー

CAS Science Team

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世界のプラスチック生産の90%以上が化石燃料を必要としている状況の中で、再生可能な資源から作られるバイオベースポリマーは、従来のプラスチックに比べてCO2排出量の削減、生分解性の向上、化石燃料依存度の低減など、大きな利点があります。 本ホワイトペーパーでは、この新しい分野における状勢を解説します。

バイオポリマーホワイトペーパーのカバー画像

国際特許システムの持続可能性への取り組み - 生産性向上におけるAIの役割

CAS Science Team

Global Patent System Sustainability white paper thumbnail image

特許出願件数と特許の複雑さが急増している中、グローバルな特許システムの持続可能性は圧力にさらされています。 現在急成長を遂げている国では、その結果発生する出願件数と処理能力のギャップにより、場合によっては数年もの遅延が特許審査で発生しています。そのため、特許品質が脅かされているほか、イノベーションと投資のペースが落ちてしまう恐れがあります。

本ホワイトペーパーでは、世界中の特許庁が持続可能性を確保し、そして将来の成長を計画しようとする中、そこにはどんな課題が立ちはだかるのか、またどんな機会が創出されるのかなどを考察します。特に、AIを活用したワークフローソリューションによって生産性を向上させることに焦点を当てます。 CASとブラジル国立工業所有権機関(INPI)との提携から得られた洞察と経験なども紹介します。そこでは、申請のバックログに対処し、そして審査のワークフローの効率を向上させることで、以下のように運用を大幅に改善させることに成功しています。

  • 審査時間を最大50%短縮
  • 処理されたすべての国内出願の77%において、審査官のサーチ時間を短縮
  • 処理されたすべての国内出願の29%において、追加のサーチがほとんどまたはまったく不要になります
  • スタッフを追加することなく作業負荷を効率的に管理
  • 審査官の負担軽減により、他の優先的業務に専念
  • 生産性の向上でバックログを80%削減

特許システムの持続可能性ホワイトペーパーのカバー

バランスへの取り組み - 二酸化炭素の隔離をめぐる研究動向

CAS Science Team

smokestacks with emissions and importance of carbon capture

2050年まで炭素排出量ゼロを目指す「Race to Zero」が広く報じられている状況で、 炭素の回収・貯留・削減と、気候変動への対処は、これからの世代に重大な影響を与える科学の新分野として注目されています。 本ホワイトペーパーでは、この新しい研究の状勢を、ユニークな洞察や将来の可能性などと共に解説します。

炭素回収ホワイトペーパーのカバー画像

分子接着剤の研究でいかに標的タンパク質分解が診療に役立つようになるか

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標的タンパク質分解は、新規に登場した、そして急速に広がりつつある創薬戦略です。 これは疾患を引き起こすタンパク質を利用して重症疾患を攻撃する新しい方法で、がんや神経変性疾患と言ったより深刻な疾患で利用できる可能性を秘めています。

米国化学会によるこの研究論文は、CAS コンテンツコレクションとタンパク質分解酵素に関する最近の研究を活用し、新薬発見のツールとしての分子接着剤についてより詳しい洞察を提供するものです。 さらなる研究に役立てるための参考資料として、分子性接着剤のメリットとデメリットの分析を行っています。

化学分野における機械学習の探求 - トレンドと機会

Zach Baum , Information Scientist, CAS

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この20年間で、人工知能(AI)、特に機械学習の進歩は、科学研究に対するアプローチの方法を大きく変革しました。 ゲノム配列のマッピングから、新しい抗生物質の発見、気候変動が地球に及ぼす影響のモデル化、さらには地球に似た惑星を探す銀河系マッピングに至るまで、AIはさまざまな分野の研究を一新しています。

化学も、AI導入で大きく飛躍している科学の分野のひとつです。 弊社の最新ホワイトペーパー『化学における人工知能 - 現在の展望状況と今後の機会』では、AIと化学の関連性について、独自技術を使って出版と特許の状勢を考察しました。 そしてAIを先導している化学の分野、あるいは今後AI技術を採用することで飛躍的な発展の可能性を秘めている分野はどれなのか、などを明らかにしました。

化学におけるAIはどこが成長したのか

AIに関わる化学の論文や特許は爆発的に増えており、2015年から2020年までの間に6倍に増加しています。 私どもは、主にどの分野でAI関連の論文や特許が多いのかを特定しました。そして、それらを比較することにより、この新しい技術が活用されている分野を把握することができました。 その結果、AI導入が進んでいる分野は、分析化学、生化学、工業化学・化学工学などでした。一方、AIを導入する機会がある分野には、天然物および有機化学などが挙げられます(図1)。

機械学習を使用している化学分野を示す複数グラフ
図1:全分野の中でAI関連論文の割合が最も高い分野

2000年から2020年にかけて、AIの利用が研究者の問題解決にどのように役立ったかを理解するために、これらの論文と特許の関係を調べました(図2)。 例えば、2000年代初頭から2014年にかけては、AIの論文や特許の焦点は、ヒトにおける疾病診断の探求から、遺伝的アルゴリズムそしてそれを創薬やマイクロRNAに応用することに移っていきました。

最近では、解決すべき問題の種類の変化に伴い、論文や特許もDNAメチル化、およびがん症へとシフトしています。 さらに最近では、COVID-19に関連した創薬に注目が集まっています。

2000年から2020年までのAI関連化学誌の論文と共起する概念の変遷を示したタイムライン
図2:2000年から2020年にかけてのAI関連化学ジャーナル出版物における共起概念の変遷

また予想通り、分析したAIの論文や特許の中では、低分子化合物が最も注目されていることがわかりました。 これには創薬、逆合成、反応最適化など、一般的に製薬会社による投資が多い分野が反映されています。

化学ではどんなところに機械学習の可能性があるのか

7万件以上の論文の分析では、第一研究分野と第二研究分野に注目し、学際的な貢献について調査しました(図3)。 これにより、各分野をヒートマップ上にプロットしました。色の濃さが各分野の貢献度の強さを表しています。 化学の分野内でAIを先導している分野と未開拓の分野が一目瞭然です。

プロセスに人工知能を使っている第一研究分野および第二研究分野のヒートマップを示す図表
図 3:ジャーナル文献に掲載された学際的研究の相対的普及率(列は第一研究分野、行は第二研究分野、各マスはそれぞれ第一研究分野と第二研究分野の学際的な組み合わせを示す)

例えば、分析化学や生化学では学際的な論文がより一般的になっています。これは、機械学習アルゴリズムがタンパク質、ペプチド、脂質、核酸の分析の向上をはじめ、化学反応の予測にも活用されていること、さらには新しい分子の発見にまで利用されているためです。 材料科学や物理化学の分野でもAIは広く活用されています。この2つの分野は、機能材料の予測や、構造特性関係、そして化学プロセス最適化などを目指しているためです。

化学分野へのAI導入の障壁

弊社ウェビナー『化学における人工知能 - 現在の状況と今後の機会』では、第一線の専門家がAI導入の潜在的な障壁について議論しました。 そこで特定された科学分野におけるAI導入の壁は次の3つです。

データ品質。最適な予測は、肯定的な例と否定的な例の両方をトレーニング用として提供できる、堅牢で高品質なデータセットに依存します。 現在の多くの組織にとって、データへのアクセス、データの正規化、そしてデータ準備は、深刻な課題になっています。

テクノロジー。コンピューティング処理能力は向上している一方(量子コンピューティングやクラウドベースのものなど)、ユーザーの視点からはまだ制限があると認識されています。 しかし、最近のソフトウェアやユーザーインターフェースの進歩によってプログラミング要件を必要としなくなり、その結果より多くの科学者が研究に機械学習を活用できるようになっています。

人材不足。データサイエンスの分野は、人材不足で有名です。そのため化学者は、現在のAIがいかに親しみやすいものであるかを理解していないかもしれません。 化学と他の科学分野との協力関係が深まることで、AIの統合が加速される可能性があります。

化学分野において機械学習が発達する機会

AIとトレーニング用データセットは、世界中の科学機関で問題解決やイノベーションに活用されており、データ解析や創薬に大きなチャンスをもたらしています。

CASの最近のホワイトペーパーでは、AI技術への投資によって恩恵を受ける可能性のある化学分野をいくつか明らかにしています。 導入の障壁はかつてないほど低くなっており、CASなどのパートナーも、分析に必要な大規模で高品質のデータセットへのアクセスを支援できます。 科学研究に人工知能を取り入れることで、早急に対応が必要な課題を解決できるほか、従来のデータ分析で可能ではなかったことまで大きく前進させることができます。

CASの分析結果とその考察については、ホワイトペーパーをご覧ください。また、AI技術による研究支援についてご質問がある場合は、CASにお問い合わせください。

 

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