エイジングの再考 - アンチエイジング治療戦略の可能性を探る

Rumiana Tenchov , Information Scientist, CAS

Senior couple doing Tai Chi outdoors

歴史を通じて、人類は老化のプロセスに興味を抱き、それを理解し、それに立ち向かおうとしてきました。 例えば古代中国の医学には、健康と長寿を促進するために考案された漢方薬や鍼治療法が含まれていました。 そして1930年代に、主要なマイルストーンがありました。カロリー制限によってマウスやラットの寿命が延びることがわかったのです。 20世紀は、さらに遺伝学や細胞老化などの要因の役割を探る画期的な研究が行われます。

CASでは、加齢の生理学とアンチエイジング戦略に関連した50万件以上の科学文献(主に学術論文と特許)が特定されています。 こういった文献は時間の経過とともに着実に増加しており、特に最近10年間で研究への取り組みが活発化しています(図1)

CAS_Anti Aging Agents_Blog_graphics_0.1_230613
図1 - CAS コンテンツコレクション™ に登録されている老化の機序とアンチエイジング戦略に関連する文献(特許と特許以外の両方)の数の年次推移。

アンチエイジングの研究のトレンドを見ると、これはますます活発になる一方です。 世界保健機関(WHO)は、2050年までに世界の60歳以上の人口が20億人を超えると推定しています。 この人口統計の高齢化により、加齢に伴う病気に対抗し、そして健康的な老化を促すためのアンチエイジング研究に対する関心と投資が増加しています。 国連(UN)は、2021年から2030年を「健康長寿の10年」と定め、高齢者の健康寿命を延ばし、生活の質を向上させる介入策を見出すため、世界的な協力を推進することを宣言しました。

老化は多くの慢性疾患の危険因子のひとつです。一方、全般的な健康と幸福に焦点を当てた、「サクセスフル・エイジング」を促進させることに対する関心も高まっています。 本記事では、老化のプロセスを掘り下げ、サクセスフル・エイジングと長寿を促進することを目的としたさまざまな介入方法を探索します。 これらアンチエイジング治療戦略のうち、サクセスフル・エイジングの促進で最も有望なのはどれなのでしょうか。

老化は肌に留まらない

「アンチエイジング」という言葉は、往々にして、しわやたるみなど目に見える肌の老化現象を連想させます。 皮膚の老化は、その社会的・心理的影響の大きさから、広く研究されています。 身体における最大の臓器である皮膚は、身体を環境要因から保護する重要な役割を果たしています。 皮膚のこの機能は、老化に伴って低下し、健康全般に影響を及ぼします。 皮膚の老化は自然なプロセスではあるものの、その老化を遅らせ、皮膚の健康を維持する対策を講じることはできます。 ロレアル社やアモーレパシフィック社といった化粧品業界やスキンケア業界は、この分野に大きな関心を寄せており、数多くの特許も取得しています。 こういった企業の製品は、ヒアルロン酸やビタミンEなど皮膚の表層に作用する成分を使用しています。

老化のプロセスは表面で見えるものよりも、はるかに複雑です。 老化とは、広義の定義として、自身を守り、維持し、修復して効率的に働き続けるという、生体が本来持っている能力が徐々に機能的に低下していくことを指します。 は特に老化の影響を受けやすく、その大きさ、血管系、認知能力に変化が生じます。 そのため、アルツハイマー病など、加齢に伴う特定の神経疾患を発症するリスクが高くなります。

老化はまた、生理学的なフィットネスの漸減によって特徴付けられます。これは身体全体に影響し、機能の低下や脆弱性の増大につながっていきます。 老化だけでは、がんや糖尿病、または心血管障害などの重篤な疾患の直接的な原因にはならないものの、これら疾患やその他の病状の大きな危険因子にはなります。 この関連性が認知された結果、急成長しているこの老化研究の分野は、今や最前線に躍り出てきています。

老化の特徴

老化とは、つまり時間の経過によるダメージの蓄積です。それが、老化の特徴として知られる特定の生理学的変化を引き起こします。 これは、2013年に分子および細胞における9つの特徴、つまり 老化の特徴 として定義され、それ以降の研究の枠組みとして定着しました。 この9つとは、ゲノム不安定性、テロメア短縮、エピジェネティクスの変化、タンパク質恒常性の喪失、栄養感知の制御不全、ミトコンドリアの機能不全、細胞の老化、幹細胞の枯渇、そして細胞間コミュニケーションの変化です(図2)。

CAS_Anti Aging Agents_Blog_graphics_0.1_2306132
図2 - 老化の特徴とされているスキームとその分類。

さらに問題を複雑にしているのは、 それぞれの老化の特徴は相互接続しており、互いに影響し合っているということです(図3)。 実際、これらがあまりに相互に絡み合っているため、研究者によっては老化というものを4つの層のプロセスとして考えるべきであり、そしてその層はそれぞれが異なった生物学的尺度で進行していると主張する者がいるほどです。 いずれにしても、老化について考えるにあたり、こういった異なる特徴同士の関係を理解することは、老化関連の疾患を予防・治療するための効果的な介入の開発をするうえで役に立つことは明らかです。  

CAS_Anti Aging Agents_Blog_graphics_0.1_2306133
図3 - 老化の特徴間の相互関係。

最も期待できるアンチエイジング治療戦略とは

これまで 老化の特徴を標的としたさまざまなアンチエイジング治療戦略が検討されてきました。そしてその多くは、複数特徴を標的としています(図4)。 ここで、そのうち5つの治療介入を概観します。そして各アプローチの現在のエビデンスから、どれが特に可能性が高いかを判断します。

CAS_Anti Aging Agents_Blog_graphics_0.1_2306134
図4 - アンチエイジング戦略と老化の特徴との関係 アンチエイジング戦略としての身体運動

身体運動は、多大なアンチエイジング効果を細胞レベルで示し、また老化の特徴 それぞれすべてに関係しています。 「老化の兆候に対する介入としての身体運動」に関しての研究は十分に確立されており、また臨床試験でも有望な結果が得られています。 現在進行中の注目すべき臨床試験では、アルツハイマー病、不安定歩行、認知機能、そしてPTSDに対する身体運動の効果が探索されています(表1)

CAS_Anti Aging Agents_Blog_graphics_0.1_2306135
表1 - 身体運動によるアンチエイジング臨床試験のハイライト。

 

アンチエイジング戦略としての食事治療

近年、カロリー制限と断続的絶食という関連した2つの食事治療法が、長寿を司る基本的な代謝と細胞シグナル伝達経路に影響を与えることで、神経系の健康寿命を効果的に延ばすことが報告されています。 この手法は動物モデルでの成功が証明されているものの、カロリー制限は高水準の決意と自制心を必要とするため、人間に適用するのは難しい戦略です。 代替策として、「カロリー制限模倣物質」を用いることにより、その効果を模倣するという方法があります。 運動と同様、カロリー制限もよく研究されているアンチエイジング治療戦略であり、現在いくつかの臨床試験が進行中になっています(表2)。  

CAS_Anti Aging Agents_Blog_graphics_0.1_2306137_0
表2 - カロリー制限によるアンチエイジング治療戦略のハイライト。

アンチエイジング戦略としての代謝操作

細胞代謝に重要な役割を果たしていると同定されているものとして、哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)シグナル伝達経路があります。これは、細胞の成長と増殖を活性化する重要な細胞プロセスと、栄養感知とを関連付けているものです。そこでラパマイシンなどの薬剤によるmTOR阻害が、加齢による虚弱から加齢に伴うサルコペニアにいたるまで、さまざまな適応症におけるアンチエイジング臨床試験で広く探索されています(表3)

 

CAS_Anti Aging Agents_Blog_graphics_0.1_2306137_0
表3 - mTOR阻害によるアンチエイジング臨床試験のハイライト。

アンチエイジング戦略としてのセノセラピー

セノセラピーとは、老化や年齢関係の病態と関連付けられている細胞老化に対して、それを明確に標的とした潜在的な治療薬や手法を開発することを指します。 現在、様々なセノセラピー戦略が研究中です。 特に画期的な薬理学的戦略として、セノリティックスの使用が挙げられます。これは、複数の加齢関連疾患の原因となる老化細胞を選択的に除去できる低分子化合物です。 老化細胞をこのようにして標的にする方法は、すでに臨床試験で評価中になっています(表4)

CAS_Anti Aging Agents_Blog_graphics_0.1_2306138_0
表4 - セノセラピーアンチエイジング療法の臨床試験のハイライト。

アンチエイジング戦略としての細胞のリプログラミング

細胞レベルで、時計の針を戻すことは可能なことでしょうか。 細胞のリプログラミングは、まさしくそれを行おうとするもので、最終分化した成熟細胞を人工多能性幹細胞に変換します。 この方法で細胞をリプログラミングすると、ミトコンドリア機能不全やテロメア短縮、エピジェネティクスの変化、ゲノム不安定性、細胞の老化など、いくつかの老化の特徴を効果的に改善できるようになります。 研究はまだ初期段階にあるものの、この手法は前臨床モデルでは有望視されています

高齢化社会の課題に真正面から取り組むことで、アンチエイジング研究は、人々の老いの在り方を変え、わたしたちの全般的な健康を向上させ、より健康で活気ある国際社会を育む可能性を秘めています。

この有望でダイナミックなアンチエイジング研究分野についてさらに詳しく知るには、弊社の最新ジャーナルをこちらでご覧ください。

 

 

特許調査 - 高度な検索で効率を向上させよう

Carousel Workflow

現在の情報化時代においては、研究者や法務チーム、そして企業にとって、包括的な特許調査は極めて重要です。 タイムリーかつ費用対効果の高い方法で関連文献を参照できなければ、残念な結果を招きかねません。 とは言え、徹底的な特許調査を行うのは困難で時間がかかります。特にリソースが限られている場合はなおさらです。 幸い、知的財産(IP)検索用に設計された高度なツールやテクノロジーを使えば、この負担は軽減され、また効率も向上します。 本稿では、さまざまなツールや戦略を活用することで、包括的な特許調査と、特許に関するより良い洞察の獲得を加速させるための以下のコツを解説します。

  • アドバイス1 - 専門家が精選した包括的なデータベースを使用する。
  • アドバイス2 - AIツールや精密検索技術を用いて検索方法を強化する。
  • アドバイス3 - 特許ファミリーの検索を最適化する。
  • アドバイス4 - 新規の特許出願や既存特許の変更に関するアラートを設定する。
  • アドバイス5 - 知的財産や自組織の専門分野に精通したパートナーと協働する。

アドバイス1 - 専門家が精選した包括的なデータベースを使用する

知財リサーチャーは、検索の包括性を確保し、関連する情報を確実に捕捉するため、一般的には複数のデータベースを対象に検索を行います。 検索結果は、専門分野、文献網羅範囲、そしてインデックスの付け方における差異によって変わってきます。 複数のデータベースを横断的に検索する強力な検索方法を用いれば、包括性を高め、結果セットを理解し、重要な文献を見逃すことなく必要な情報を得られるようにクエリを絞り込めるようになります。

CASができること 

CASでは、世界有数の出版社やデータベースが提供するコンテンツの包括的なコレクションを、単一のプラットフォーム、CAS STNext®としてサーチャーに提供しています。

CAS STNextには、科学者により精選された信頼性の高いCASの化学コンテンツをはじめ、特許情報および特許全文の包括的なコレクションや、化学や生物医学、薬学、知的財産そして工学の分野を網羅する130以上のグローバルなデータベースが統合されています。

サーチャーは、付加価値が付いたデータベース、フルテキストのデータベース、特定のテーマや機能に特化したクラスターを活用することで、それぞれの要件に合った包括的な検索方法を確立できます。

CAS STNextのユーザーは、CASが収集して精選したデータベースも利用できるため、精密検索が可能になっています。 例えば、化学の知的財産を調査する際、特定の分子に絞って検索することもあるでしょう。 しかしその際、マルクーシュ構造の特許請求項に隠された物質を考慮に入れているでしょうか。 知的財産を検索する際は、マルクーシュ構造を考慮に入れ、また十分に理解する必要があります。これは、一般的な省略記法の一種で、多くの構造的に類似した物質を簡潔に記述するために使用されるものです。

一般的な化学構造検索を行うと、異なる物質が何千もヒットしますが、検索しようとしている物質と正確に一致するのは一部に過ぎません。 特定の化学物質のデータベースに対して広範かつ一般的な検索を実行するときは、同一の化学物質に一致する結果のみが返されるため、マルクーシュ構造でカバーされる重要な特許請求項を特定できません。 CAS STNext内のツールを使用すれば、130万件以上のマルクーシュ構造を検索することができます。

アドバイス2 - AIツールや精密検索技術を用いて特許調査の側面を強化する

EPOによると、包括的な特許調査には、179のデータベース内の13億件の技術レコードが使用され、毎月の特許検索で約6億件の文献が参照されています。 そこで、最新で徹底した特許検索を可能にするソリューションが必要とされています。 高度な検索プラットフォームが利用可能でも、そのデータベースの機能は制限されています。 結局、包括的な検索を行うには、検索に多くの時間を費やすしかないのです。

AIアルゴリズムは、関連性のある結果なのに今まで見逃されていたかもしれないものを活用するなど、検索方法の側面を補強することで、効率を向上させることができます。

CASができること 
CASでは、独自にAI強化された先行技術検索技術を、CAS STNextにて提供しています。 弊社独自の特許類似性エンジンにより、指定された特許文献を開始点として、それ以前に発行された関連特許および非特許文献のリストが作成され、元の検索では登場しなかった洞察が提供されます。

CASのAI支援機能の例として、以下が挙げられます。ブラジルのNational Institute of Industrial Property(INPI)との提携により、CASは10個でセットになったAIベースアルゴリズムを開発しました。それらにより、高精度に順序付けられた先行技術の検索結果の統合リストが作成されました。 ブラジルINPIは、このようにAIベースのアルゴリズムを検索ワークフローに組み込むことで、特許検索の効率を次のように向上させることができたのです。

国内特許申請の処理の77%において、検索に要する時間が短縮された。 
この処理のうち29%は、AIによって補完された検索結果外の調査が不要だった。

Fig1-customized-workflow

アドバイス3 - 特許ファミリーの検索を最適化する

特許ファミリー内の関連特許は、異なる管轄区域や地域で出願されたとしても、優先権出願(基本特許)によって結び付けられています。最初に特許出願されたものが、そのファミリーの優先日になり、関連特許のクレームと仕様の基礎となります。

特定の特許ファミリー内の関連特許の領域と適用範囲を理解することで、特許権者、特許申請者、使用許諾取得候補者は、ライセンスを求めるべきか、特許の有効性に異議を唱えるべきか、そして長期の研究開発イニシアチブにリソースを配分するべきかなどについて、十分な情報に基づいた意思決定を行うことができるようになります。 ただし、特許ファミリーの完全な調査には時間がかかり、困難も伴います。 これは、複数の管轄区域にまたがる出願の複雑さをはじめ、複数データベース間のインデックスでの不一致、言語の壁、そしてそのイノベーション自体が科学的に複雑であることなどに起因します。

ただでさえ複雑なこのタスクの難易度をさらに高めているのが、請求項におけるばらつきです。 一般的には、特許出願で最初に提示される請求項は、特許ファミリー内のすべての関連特許で同一です。 ただし、出願人と特許庁とでやりとりする審査過程において、審査官からの異議に対応するため、あるいは先行技術を克服するために、請求項が修正されたり、狭められたりすることはあります。 その結果、同じ特許ファミリー内の関連特許の請求項でも、審査後は互いに異なるものになる場合があるのです。

こういった課題を克服するため、特許サーチャーは、往々にしてキーワード検索、分類検索、引用文献検索など含む、複数の検索テクニックを組み合わせます。 また、特許の検索で利用可能なデータベースや検索ツールのほか、さまざまな管轄区域における特許法や規制にも精通している必要があります。 さらに、特許ファミリー内の関連特許をすべて特定できるよう、特許サーチャーは弁理士や技術専門家と協力することもあります。

CASができること

CAS STNextは、世界有数の特許ファミリーデータベースから信頼性の高いデータを提供します。そして、包括的な検索を確保するため、以下の機能も提供します。

  • マルチファイル検索機能
  • 簡単なコマンドで、該当特許と関連特許を含む、追加の特許ファミリーのレコードを検索
  • 操作しやすい画面による、特許出願内の請求項間の関係性を示す概要

CAS STNextでの特許検索に関する詳細は、こちらをご覧ください。

アドバイス4 - 新規の特許出願や既存特許の変更に関するアラートを設定する

米国特許商標庁によると、2020年に米国で出願された特許は646,244件にのぼります。 特許サーチャーは、投資市場の拡大や新たな競合相手への対応の必要性を示す革新的な進歩を見逃さないよう、新しく公開された特許文献を常に把握しておく必要があります。

高度な検索ツールに、検索条件に一致する新しいエントリーが追加されたらアラートを発信する機能があれば、特許の現状を常に把握し、反復的な検索プロセスを減らすことができるようになります。

CASができること 
STN IP Protection SuiteTMのソリューションには、保存されたクエリと一致する関連結果が登場したらアラートで通知するカスタムアラート機能があります。

さらに、STN IP Protection Suiteの一部であるFIZ PatMonでは、以下などの活動に対してもアラートを発信する機能があり、より効率的な特許の監視ができるようになっています。

  • 特許審査プロセス全体を通しての特許出願
  • 特許の有効性の変化
  • 国内または他の国での競合特許の登場
  • 関連特許の異議申し立てや取り下げ
  • 特定の国における特許付与

こういった機能により、組織内の全ユーザーが自分の設定した検索条件でカスタマイズされたアラートを簡単に受け取れるようになり、その結果、時間のかかる手作業による特許チェックの必要性が軽減されます。

アドバイス5 - 知的財産や自組織の専門分野に精通したパートナーと協働する

進化する知的財産検索の需要に対応し続けるのは、負担が重くなりがちです。 ここで遅れが発生すると、将来の投資決定に影響を与える競合他社の活動を見落としたり、会社の業績に影響を与える重要な文献を見落としたりすることになりかねません。

そんなときは、同じ業界の専門サーチャーと提携することにより、必要としているコンテンツや最も効率的に検索するツールにアクセスして、知的財産検索のニーズに対応した効率的な支援が得られるようになります。さらに、トレーニングや専門知識を通して、すき間があればそれを埋めることで、成功を確実にすることができます。

CASができること
CASのチームは、知的財産やさまざまな科学分野において、専門的な技術的知識を有しています。

弊社のチームなら、他者では不可能な情報も明らかにすることができます。

貴組織の検索ニーズには、是非CASとの提携をご検討ください。包括的かつ詳細な特許調査の実現をお約束します。

まとめ

  • 知的財産検索を実施し、最新の動向を常に把握することは、投資や新たな競合相手に対する意思決定を左右するため、あらゆる組織にとって不可欠です。 特許調査の効率を改善させるには、以下の方法があります。
  • 専門家が精選した包括的なデータベースを使用することで、複雑なデータの横断を簡素化し、コンテンツのソースの見落としをなくす。
  • AIを活用した検索サポートと他の精密検索ソリューションを組み合わせた方式を採用することを検討する。 AIは関連イノベーションを認識できるだけでなく、追加の用語や特定事項も識別できるため、より強力な検索方法を構築するのに役立てることもできる。
  • すべての管轄区域の類似特許を検出し、グローバルな網羅範囲を確実に把握することで、特許ファミリー検索を合理化する。
  • 新しいエントリーがクエリと一致する際に通知で知らせる高度な検索ツールを使うことで、常に最新の特許出願状況を把握する。 そうすることで、反復的で面倒な検索が不要になる。
  • 知的財産や貴組織と同じ業界の専門家と協働することで、特許調査のプロセスを合理化、強化する。 
     

STN IP Protection Suiteに関する詳細は、こちらをご覧ください。

(エグゼクティブサマリー)アンチエイジング治療の今後の展望

CAS Science Team

Senior couple enjoying the views on a mountain hike

幹細胞治療やヒアルロン酸から、臨床試験パイプラインにある医薬品の新たな波まで、アンチエイジング治療は実に種類が豊富です。 これらの新しいアプローチは、古くからある食事や運動、抗酸化物質などと比較して、どう違うのでしょうか。 本サマリーでは、新たなトレンド、新しい研究やビジネスチャンスに関して、特に重要なポイントをまとめて紹介します。 アンチエイジング治療の状勢に関するさらに詳細な分析については、最近発表されたジャーナルをこちらでご覧ください。

CAS-Insights-Executive-Summary-Anti-Aging-Agents-Fanned-Image

 

科学特許調査におけるパートナーシップ - 重要性と方法

Gain a competitive edge with IP Insights from CAS

知的財産権を保護しながらすばやく技術革新を行い、そして健全なビジネス判断を行うためには、徹底的な特許調査は不可欠です。  

特許調査には、以下のメリットがあります。

  • 新たなビジネスチャンスの特定 特許の現状分析を実施すると、貴組織が従事する分野におけるすき間や、特許が付与されていない領域を特定できるようになります。 これにより、どこに投資を集中させるべきかがわかるようになり、利益の最大化につながります。
  • 競合分析の強化 競合他社の活動を常に把握していれば、関連するイノベーションを早期に発見し、どの市場、地域、そしてイノベーションを追求すべきかの判断ができるようになります。
  • 新たな脅威に対する防御 知的財産アセットを保護し、競争力を維持するには、外部環境の継続的なモニタリングは不可欠です。 多くの場合、企業は競合他社が保有している特許やそれに関連する活動は把握しています。ところが、その競合他社が特許の取得に動いていなくても、実際は貴組織の既存の知的財産侵害にあたるようなイノベーションを追及していることもあります。そういったことまで含めて調査をする戦略は、往々にして欠けているものです。

イノベーションのペースが加速している今、特許調査のニーズも進化しています。 競争の勢力図がますます複雑さを増している中、事業戦略や研究開発戦略に必要な情報を得るためには、包括的で信頼できる知的財産の洞察が不可欠となっています。

同じ業界のサーチ専門家と提携し、そして貴組織のイノベーションに見合うような、洗練されたツールを利用することで、知的財産情報を貴組織全体でアクセスそして活用できるようになります。

その重要性 - 知的財産と研究開発との間に、調和と効率化をもたらす

科学分野における徹底的な特許調査と現状分析は、相当な時間とリソースを要します。これは、イノベーションの量、速度、複雑さに加え、テクノロジー自体も急速に進化しているためです。  

企業における知財の検索方法に穴があったり、または不完全なデータソースに依存したりすると、重要な投資や研究開発の意思決定に役立つ情報を見逃してしまう可能性があります。

知的財産検索の包括性と信頼性は、それを行うアナリストの専門知識や余力、そして検索ツールに制限を受けてしまうことが多々あります。 こういった制限は、コストがかかる遅延や、研究開発と知的財産戦略との間にギャップを生じさせてしまいます。 そこで、その分野で実績のある専門家と提携することで、知的財産調査活動を徹底的、一貫的、効率的に行うために必要な情報を確実に入手することができます。

課題はもうひとつ、研究開発のレベルでも存在します。研究者は、往々にして知的財産検索にかける時間やアクセス、または経験が不足しているということです。 機会を最大限に生かし、知財イニシアチブの合理化を図るためには、研究開発チームのメンバーは、組織内特許アナリストの洞察にアクセスできるようになっており、また知財に関するインサイトを研究開発サイクルを通じて活用できるようにしてくれるツールも使えるようになる必要があります。

そこで、信頼できるパートナーは以下のサービスを提供します。

特許の現状調査の加速化 化学やライフサイエンスの分野は絶え間なく変化しているため、ビジネス上の意思決定のために市場の勢力図を見極めるには、時間は重要です。 貴組織の技術、用語、そして業界に精通した知的財産検索の専門家パートナーと協働することで、この調査プロセスがスピードアップします。

このパートナーには、科学検索と知財検索のために設計された包括的なコンテンツとワークフローソリューションがあること、そしてそれを使って包括的な検索の遂行と実行可能な洞察が形成できることが望ましいでしょう。

研究開発の支援 パートナーは、貴組織が従事する分野でのすき間、リスク、または機会などに関する洞察を貴組織が活用できるようにすることで、有望な機会を特定できるよう支援するべきです。 さらに、信頼できるパートナーは、より効果的に検索を準備し、結果セットを利害関係者と共有し、変化を先取りできる監視プログラムを設定したりなどの支援を行うことができるようでないとなりません。

貴組織のワークロードの軽減 特に化学とライフサイエンスの分野では、包括的で効率的な検索を実行するのは困難です。 信頼できるパートナーと一緒であれば、能力や専門分野のギャップに対応しなければならないときに、信頼できる専門知識を得ることができます。 パートナーは、貴組織に既に存在している特許サーチャーと協力して、貴組織側が手薄になることなく取り組みを迅速化させることができないとなりません。

その方法、第1段階 - 理想的な特許調査パートナーとは何かを理解する

適切なパートナーと一緒であれば、自信をもって研究開発の取り組みに必要な調査を実行できるようになります。

理想的なパートナーとは、以下であることが望ましいでしょう。

貴組織の研究分野の専門家であること そうすれば表面的なレベルだけでなく、その分野で価値の高い洞察を得ることができます。

ソース情報の包括的なコーパスに接続させてくれること 知的財産検索の価値は、その情報のソースと、関連性のある結果を的確に絞り込む能力に左右されます。 理想的なパートナーは、この作業の重要性を理解したうえで、広範囲にわたる関連情報のグローバルなコレクションにアクセスできるよう支援してくれないとなりません。

科学知的財産検索を念頭にツールを設計・提供すること 専門知識やコンテンツにアクセスできるだけでは、達成できることにも限りがあります。 まず、そのコンテンツにアクセスするのに使用する技術こそ、特許調査の効率を大幅に向上させることができる部分なのです。 理想的なパートナーは、貴組織のワークフローを強化し、最新の関連コンテンツへのアクセスを可能にし、効率的で徹底的な検索と複数チーム間の洞察の共有を可能にする機能や性能を備えた知的財産検索ツールを提供する必要があります。

その方法、第2段階 - 決めてしまう前に質問する

特定のパートナーとの提携や、特定の特許調査用ツールを決めてしまう前に、最良の結果を得るためには、必ず以下の質問をするようにしましょう。

  • どの特許情報と非特許情報ソースやデータベースにアクセスできるようになるのか。 それは自分たちの科学・技術分野では十分に豊富で広範囲なものなのか。  
  • パートナーから提供されるツールやサービスは、主要利害関係者に特許調査の結果を伝える際に、どう役立つのか。   
  • 自分たちのイノベーションの機密保持のためには、どういった対策が取られているのか。

知財調査のための理想的なパートナーをお探しなら、是非CASをご検討ください。弊社は、貴組織が求める能力とツールを提供します。

CASなら競争で優位に立てます

確実に包括的な検索を実行する
  検索結果の信頼性は、アクセスできるデータの信頼性に依存します。 CAS STNext(STN IP Protection SuiteTM内のソフトウェア)なら、特許アナリストは、強力な精密検索・分析ツールと共に、最も包括的でグローバルなデータベースのコレクションと、科学者が収集したコンテンツおよび特許情報を活用することができます。

医薬品やライフサイエンス、化学工学、機能性材料、そしてパーソナルケア製品など、複数の領域にわたる知財検索は、CAS STNextを利用することで、より信頼性が高く、完全で、また洞察に満ちたものになります。

CASのように科学と知財の知識を持つパートナーでチームの専門性を拡張すれば、知識のギャップを埋めることができます。それにより、特許調査の戦略を立てるときに役立つだけでなく、貴組織の科学分野特有のニーズを満たす特許調査ツールやデータコレクションを開発することもできます。

また、STN IP Protection Suiteのユーザーは、特許の準備・出願、訴訟、知的財産の金銭的価値の設定、競合分析、製品と安全性のモニタリング、ホワイトスペース分析、そしてその他の特許プログラム活動のための検索方法の管理経験を持った、信頼できる知的財産検索の専門家の支援も受けることができます。

特許調査の結果の検索とレビューにかかる時間を短縮。貴組織の業界向けに構築されたツールやデータベースには、コンテンツや検索、そしてワークフロー機能が含まれているので、最初の検索から意思決定までが加速化されます。

例えば工学分野の発明を分析する場合、粘度、電気伝導性、光度などの特性は、しばしば範囲によって表されます。 このため、関連特許の精密な検索の実行は困難になります。 STN IP Protection Suite内のCAS STNext の数値特性検索では、必要に応じて単位も変換したうえで、数値や範囲を細かく入力することができます。 このように特定技術に特化した高度な検索機能を備えたツールにより、関連性のある情報を見つけるプロセスが迅速化します。

グローバルな特許状況を効率的に監視する
訴訟や侵害は、可能な限り回避、予測し、必要な場合には効果的に対処したいものです。 STN IP Protection Suite™の一部であるFIZ PatMonなら、業界における特許の変化を常に把握することができ、競合他社の動向を追跡して知的財産ポートフォリオを保護することができます。 包括的なモニタリングから具体的なフィルタリングまで、その高度なアラートオプションにより、新たな出願や活動の動向を注視できます。

CASなら、イノベーションや研究開発、または知財保護に関する重要な意思決定を行う際に、必要な情報にアクセスできるという安心感が得られます。

研究開発組織のリーダーが頼りにするCAS

さらなる情報をご希望であれば、 こちらのリソースもご覧ください。

(インフォグラフィック)マイクロプラスチックに対して何ができるのか?

CAS Science Team

マイクロプラスチックは、問題が大きすぎて圧倒されるように感じるかもしれません。しかしそれを除去するため、新しい革新的なアプローチが登場してきています。 これまでにどんな種類のポリマーが発見されてきているのか、健康面でどんな懸念があるのか、そして今、この台頭する問題に対して出現しているさまざまな解決策はどういったものなのかなどについて解説します。是非SNSでもシェアしてください。また、購読することで、科学の最新トレンドを知ることができます。  

さらに詳しく知るには、CAS Insight Reportもご覧ください。マイクロプラスチック研究の最新トレンドや新たなビジネスチャンス、そして特許などを掘り下げて考察します。

CAS - Microplastics Infographic@1278x-20

 

創薬における配列解析 - その課題と可能性

jefferson parker

NullSet Informatics Solutions社創設者、ジェファーソン・パーカー博士との対談

創薬で計算生物学が進歩し続けている中、新しい課題や可能性も絶えず発生しています。 配列解析は、長い間、バイオインフォマティクスの主要な側面でした。 本記事では、ライフサイエンス分野におけるデータ解析の専門家であるNullSet Informatics Solutions社創設者のジェファーソン・パーカー博士に、創薬での配列解析の新境地についてお話を伺いました。

CAS:計算生物学者として、博士は創薬において今までどういった役割に携わってこられたのですか。

ジェファーソン:創薬ラボの支援からトランスレーショナルリサーチのグループまで、あらゆることをやってきました。 最近では、臨床チームの運営や開発に携わりました。 医薬品安全対策チームを安全性データ分析でサポートしたり、事業開発や競合情報にも携わりました。 また、バイオインフォマティクスのアナリストとして、ソフトウェア開発チームの一員になったこともあります。これは、言うなればウェットラボの科学者とソフトウェア開発者の間の通訳のような立場です。

CAS:創薬における配列解析の役割について教えてください。 それが重要なのはなぜですか。

ジェファーソン:まず探索では、ターゲットの探索スクリーニングに配列解析が使用できます。 転写学レベルで何が起こっているかを調べて、把握している経路の知識をもとに、それをマッピングして「上流の原因で最も可能性の高いのは何か」と聞きます。それが創薬ターゲットの候補、あるいはシグナル伝達の意味合いで創薬ターゲットに近いものになります。 特定の標的のために設計された薬剤であれば、その標的が当たっているかの確認に役立つかもしれません。

また、患者選択バイオマーカーを探索することもできます。 発現レベルまたはDNA配列レベルで、さまざまな変異を有する特定の遺伝子プロファイルは存在するのか。 薬が効きやすくなったり、効きにくくなったりするような特定の変異は患者に存在しているのか。 これは製薬業界において非常にエキサイティングで、活発に研究されている分野です。 治療を始める前に、この薬は効くのか、それとも効果はないのか。これがある程度わかっていると、治療の結果が大きく左右されます。 さらに、患者の貴重な時間を無駄にすることもありません。 特に腫瘍学のように、患者に残された時間が少ない分野では、試行錯誤や、効かない薬を何度も投与して時間を無駄にすることがなくなります。

これらすべてが配列解析に関係しているのです。 医薬品開発プロセスのあらゆる側面に関わることなのです。

CAS:配列解析における最大の課題は、どこにあると思いますか。

ジェファーソン:技術は年々進歩しているので、課題は急速に減少していると言えるでしょう。 以前は、ショートリードしかなく、そこからのアセンブリは大変でした。 現在ではロングリードもあり、アセンブリは今でも難題ですが、以前ほどではありません。

例えば『戦争と平和』をシュレッダーにかけたとします。 ページの断片は数ミリx数センチになってしまっています。そんな断片から本に戻すのは非常に困難です。 でもページの断片がもっと大きく、長く、単語の断片ではなく段落の塊が見えるなら、物語を正しい順序で組み立てるのはずっと簡単になります。 それが、ますますロングなリードに移行してきている現在の状況です。

ただ、ストレージはいまだに問題です。 最近私が担当した仕事でも、配列データを移動する必要がありましたが、ハードディスクに保存したうえでFedExの箱に入れて郵送するのが最も速い方法でした。 何百ギガバイト、何テラバイトものデータをインターネットで移動させるよりも、箱に入れて発送した方が早いのです。 ローカルストレージは問題ではありません。大変なのは膨大な量のデータを別の場所に転送するときです。 最近では、データを移動さえしてしまえば、配列解析のための演算のパワーはなんとかなります。でもそのデータをそこまで持ってくる移動のほうがボトルネックになるのです。

患者由来の検体も課題のひとつです。 それは苦痛であり、生検は侵襲的であるため、病人は何度も検体を提供することを望んでいません。 いったん採取された検体は、一般的にホルマリン固定され、パラフィン包埋されるため、核酸物質はどうしてもある程度分解してしまいます。 そういう状態の検体組織からなんとか抽出して、それを使って配列解析する方法はあるわけですが、配列の質は必ず劣化します。

それに小規模な会社の場合、この技術は高価です。この機械はものすごくお金がかかるのです。 同様に、計算生物学者はかなり一般的になりつつあると言っても、どこにでもいるわけではありません。大体みんなが、一番大きくと一番優秀で、一番高収入の研究所に行きたがります。 人材は増加しているのに、まだ限られているのです。

ある意味、誰も配列解析に取り組みたいと思わなくなってきているというわけです。 みんな、次のすばらしい学習モデルを開発したいのです。 数値計算やデータ解析よりも、今は高度なAIやMLというわけです。 誰もがホットな、最新のピカピカの技術に取り組みたがっている。そしてそれは、配列解析ではないのです。 だからこれも、今後の課題となるでしょうね。

CAS:配列解析をするのに、いま本当に計算生物学者が必要なのでしょうか。

ジェファーソン:もし、型にはまった、十分に確立された方法論をやるだけであれば、十分に開発済みで、検証済みで、そして文書化済みのことをするだけなら、必要はないです。 革新的な方法を生み出せる人材は必要ないのです。 いろんな種類のシーケンサーから入力データを取り込める、既製のソフトウェアソリューションもたくさんあります。 データを読み込んで、処理したいパイプラインのアイコンをドラッグアンドドロップして、実行ボタンを押すだけです。 で、後はコーヒーを飲みに行ったり、ランチをとったり、あるいは機械の規模によっては、いったん家に帰って翌日また戻ってくれば、処理は完了しています。 私みたいな人間は必要ないのです。 技術に詳しい研究員なら誰でもできます。

ただし、その一方で、最先端のシーケンサーを使って、今まで行われたことがないような新しい解析手法を導き出そうとするのなら、既製のソリューションでは対応できません。 そこには、生物学を理解している人、入力データと出力データと数学と、そしてその他もろもろを理解している人が必要になります。 そういったことをすべてまとめて、既存のソリューションにはない新たなソリューションに統合するには、そのときには断片をすべて理解している「私」、または私のような人間が必要になります。

CAS:今は、みんなAIやMLを使いたがっているという事ですが、 これらの技術は配列解析に役立つのでしょうか。

ジェファーソン:適切に精選されたデータセットがあれば、AIやMLは間違いなく役に立ちます。 実際に、機械学習技術を応用して文献を消化し、ナレッジグラフを構築している組織を知っています。ですから間違いなく何らかの役割を担うでしょう。 AIと機械学習は、配列のアセンブリには役立つでしょうか。 おそらく。でもそれが過剰かどうかは私にはわかりません。

CAS:AIといえば、タンパク質の構造をAI予測するAlphaFoldについてはどう思われますか。

ジェファーソン:AlphaFoldはまったく画期的だと思います。 これで構造への道が格段に縮まり、それをコンピューター支援の薬剤設計などへ、従来よりずっと速く渡すことができるようになります。 もうNMRや結晶構造から始める必要もありません。 それは、結晶構造と同じくらい良いものなのでしょうか? おそらく違います。 実際に測定されたものは、シミュレーションよりも絶対に良い。 しかし、時間の面で考えると、これならすぐに利用可能なものが手に入ります。 これは今後、わたしたちが見たこともないような影響を与えるでしょう。 私が感じているのは、AlphaFoldは一石を投じた。そして、それは確かに影響があった。でもそれは最初の波紋にすぎないだろうということです。

CAS:創薬におけるAIとMLの最先端とは、何のことを指すのでしょうか。

ジェファーソン:空間的なものでしょう。次世代の単一細胞のようなものです。 マルチオミクス解析です。 DNA、RNA、タンパク質、メタボロミクスを集めてきて、そしてそれらすべてをまとめるということです。 さらに細胞経路や細胞間コミュニケーションとの統合すら可能です。 もはや単一の細胞だけではないのです。 ひとつの細胞、そしてその隣の細胞、さらにその隣の細胞。それらがどう相互作用しているのかということです。 それが今後進む方向です。現在すでにその方向に進んでいます。

CAS:生物システムのモデルを作ることになると思いますか。

ジェファーソン:私が大学院にいたときにそう聞かれたら、私はきっと、人類は生物学的システムを記述できる数学など保有していない、と答えたでしょう。 生物学は複雑な化学であり、化学は複雑な物理学であり、物理学は複雑な数学です。 それがすべての基本になっています。 物理学は数学的に解決可能な問題です。膨大なデータを必要とするだけです。化学も、ある程度は、同じです。 しかし生物学は…。 私は以前信じていたことは、生物学的システムを数学的にモデル化する能力は人間にはなかった、今後もないだろう、ということでした。

しかし今は、きっと私たちは、その方向に進まざるを得ないと思います。 それには、量子コンピューターが必要になるでしょうか。 そうかもしれません。 私が生きている間ではないかもしれませんが、ある時点で人類は生体システムの正確かつ信頼できる計算シミュレーションを実現するだろうと、ある程度の自信をもって言えます。 そしてこの自分の発言が、少し恐ろしく感じます。 現在、デジタルツインの分野では数多くの研究がなされています。 限定的な最初のステップではあります。でもデジタルツインはオンラインになっていて、そして現在臨床試験で使用されているのです。 これが始まりのようなものです。

CAS:これらの最先端をさらに前進させるには、何が必要だと思いますか。 新しいアルゴリズムや新たなフレームワークは必要でしょうか、 それとも、まだすべてをまとめようとしているだけなのでしょうか。

ジェファーソン:全部だと思います。この問題に対する新しい考え方は必要です。 答えは、古いアルゴリズムを新しい設計方法に当てはめることかもしれないし、あるいは新しいアルゴリズムを実施することかもしれません。 エピゲノミクスやDNAダイナミクスの研究、またはノンコーディングRNAの研究、エクソーム対その他すべてなどは、ただの配列解析とは違います。 考え方が違うのです。 それはまだ配列という枠組みの話ではあります。でも配列だけでもないのです。 こういった、問題に対する異なった考え方には、異なった道具が必要になるのです。

CAS:魔法の杖を使えるとして、そして配列解析と創薬での問題を何かひとつ解決できるとしたら、何を解決しますか。 そして、それはどのような影響をもたらすでしょうか。

ジェファーソン:すべてのデータを注釈付きで誰でも利用できるようにしたいです。 企業、研究機関、大学など、あらゆる所からのすべての専有データです。 十分に注釈が付いていて、十分に文書化されていて、統一されたストレージプラットフォームにあって、そして誰でも自由に使える。 そうすればそれで十分になります。そして大きな問題を解決できるようになるでしょう。

 

Jefferson began his research career at MIT, exploring xenobiotic metabolism in the gram-positive soil bacterium Rhodococcus aetherovorans. He got into computing when faced with an overload of data trying to annotate the genome to develop DNA microarrays, and he’s been working at the intersection of biology, computing, and mathematics since. His career has taken him through small pharma, large pharma, and consulting organizations, including Novartis and Thomson Reuters. Along the way Jefferson acquired his Graduate Certificate in Applied Statistics from Pennsylvania State University and a master’s degree in computer science from Boston University.

Now, Jefferson is forging a new path with his own bioinformatics consulting company, NullSet Informatics Solutions providing data and analytics, data modeling, and technology project management services.

スーパーキャパシタ技術 - グラフェンは遂にその潜在能力を発揮するのでしょうか

CAS Science Team

Technicians are assembling batteries for use in electric vehicles

スーパーキャパシタは、リチウムイオン電池(LIB)の代替品だと言われることがあります。それは、安全性の向上や、より速い充放電、より長い寿命など、さまざまな魅力的メリットがあるからです。 技術的には進歩してきたものの、2つの技術には根本的な相違点があります。グラフェンをベースとするスーパーキャパシタ技術のエネルギー密度には限界があり、将来的にリチウムイオン電池に取って代わることは起こりそうもありません。 ただ、他の応用では、補完的なエネルギー貯蔵装置として、特に輸送分野において実世界での準備は整っています。

Figure1-supercapacitor
図1.スーパーキャパシタの一般的構造

スーパーキャパシタ技術 vs 電池

スーパーキャパシタがなぜ電池を駆逐していないのかの理由を理解するには、この2種類の機器の違い、特にその構造の違いを理解することが重要です(図1)。

  • 電池は、エネルギー密度は高いものの出力密度は低い(エネルギーの放出が遅い)ため、一貫してゆっくりとエネルギー放出が必要な、長期的な用途に適しています。
  • スーパーキャパシタは、それに対してエネルギー密度が低くて出力密度が高い(エネルギー放電が速い)のが特徴です。 その結果、電池ほど多くのエネルギーを蓄えることはできない反面、より高速に充放電を実行できます。 この特性により、素早い大量のエネルギー放出が必要で、しかも簡単に再充電できる用途に適しています。

エネルギー密度と出力密度の違いは、それぞれの技術が電荷を蓄える方法に起因しています。それが、それぞれの静電容量とエネルギー密度に影響しています。

  • 電池では、エネルギーは電気化学的に貯蔵・放出されるため、充放電の速さは、対応する電気化学反応の速度に制限されます。 イオンは電極の表面ではなく、電極内にインターカレーション(挿入)されているため、電極内で拡散します。これにより、さらに充放電速度が遅くなります。
  • スーパーキャパシタは、それに対して電極表面に静電的にエネルギーを蓄えます。 エネルギーは、ゆっくりとした電気化学反応ではなく、単純なイオンの動きによって放出されます。 電荷(イオン)は電極表面にのみ蓄積され、活物質内にインターカレーションされていないため、充放電プロセスには表面のみが関与し、電池より遥かに低いエネルギー密度になります。

スーパーキャパシタ技術のエネルギー密度向上の最前線にあるグラフェン

その根本的な相違点から、スーパーキャパシタが電池に取って代わる可能性は低いものの、研究はいまだにエネルギー密度の向上に焦点を当てています。 電荷の主な蓄積場所が活物質の表面であるため、研究の中心となっているのは、表面積の大きい活物質の開発です。表面積が大きければ吸着されるイオンの数も増え、最終的にはスーパーキャパシタの静電容量とエネルギー密度が高くなるからです。

炭素質材料、特に活性炭とグラフェンは一般的な活物質であり、グラフェンはその高い電気伝導性により人気が高まっています。 ただし、グラフェンは製造が難しく高価であり、一般的に活性炭よりも理論上の表面積が小さいため、工業規模のスーパーキャパシタに使用するのには困難が伴います。 グラフェンはスーパーキャパシタの活物質イノベーションの中心的存在であるため、その採用に不利に働くさまざまな要因を理解しておくことは重要です。

グラフェン電極の採用を阻む主な障壁

高品質のグラフェンを工業規模で確実に合成することは、依然として困難です。

グラフェンをスーパーキャパシタ技術に適した材料にしているその特性こそ、その合成に非常に厳格な条件を必要としているものでもあります。 それがグラフェンを、特に工業規模で、確実に合成することを困難にしています。 さらに懸念されるのは、たとえ工業規模で合成できたとしても、スーパーキャパシタに使用するには不十分な品質になってしまう可能性があることです。 2018年に行われたある調査で数十種類のグラフェン製品を分析した結果、グラフェンを50%以上含むものはありませんでした。 2020年にも行われた同様の、ただしより限定的な調査では、グラフェンと活性炭を比較した結果、グラフェンをベースとしているスーパーキャパシタは、活性炭のものより比静電容量が著しく低いことが示されました。これは酸化グラフェンの存在に起因する可能性があります。 これらの調査は2021年にISOグラフェン規格が発表される前に行われていることから、現在の市販グラフェンの品質を詳しく分析するには、追跡調査が必要です。

製造コストが高いグラフェン

グラフェンの合成条件を厳密に管理するには、特殊な設備やプロセスを使用する必要があり、工業生産には不向きです。そこで、グラフェンをベースにしたスーパーキャパシタではスケールメリットを実現しにくくなっています。 生産されたグラフェンは、その品質がISO規格に沿ったものであることを確認しないとならないため、高価かつ高感度の特性化技術を必要とします。 これは、特に中小企業にとっては、大きなの参入障壁がもうひとつ存在することになり、グラフェンベースのスーパーキャパシタ技術の発展を妨げている要因になっています。

凝集しやすいグラフェンシート

合成後、強いπ-π相互作用によって個々のグラフェンシートは重なって凝集するため、電気化学的に活性な表面積が減少してしまいます。 これにより、スーパーキャパシタのエネルギー密度が制限されます。 Skeleton Technologies社は、スーパーキャパシタに曲面グラフェンを使用することで、こうした相互作用を抑制し、再集積を防ぐ方法を発見しました。 曲面グラフェンがいかに画期的な発見かが話題の中心となりましたが(曲面グラフェンを用いたスーパーキャパシタは2010年の時点で報告されている)、この研究のスポンサー企業からは、その後の開発に関する続報がこの10年近くありません。

グラフェンのスーパーキャパシタ技術の学術研究

スーパーキャパシタ研究の最近の出版トレンド

Figure2-supercapacitor
図2. CAS コンテンツコレクション™に掲載されている、スーパーキャパシタとグラフェンの両方をコンセプトとする出版物数(学術論文および特許)。
Figure3-supercapacitor
図3. CAS コンテンツコレクション™ に掲載されている、スーパーキャパシタと導電性高分子の両方をコンセプトとする出版物数(学術論文および特許)。
Figure4-supercapacitor
図4. CAS コンテンツコレクション™ に掲載されている、「スーパーキャパシタとリグニン」または「スーパーキャパシタとセルロース」のコンセプトを含んだ出版物数(学術論文および特許)。

上図の出版傾向が示すように、グラフェンを用いたスーパーキャパシタは依然として人気の高い研究テーマです(図 2)。 グラフェンはずっとスーパーキャパシタ研究環境の主流を占めてきているものの、導電性高分子をベースにしたスーパーキャパシタも研究の焦点として浮上してくるようになりました(図3)。 グラフェンと導電性高分子のスーパーキャパシタの出版数は2020年にやや減少し始めた一方、リグノセルロース系材料を用いたスーパーキャパシタの出版数は2021年まで増加し続けており(図4)、サステナブルな材料への関心の向上を示唆している可能性があります。

学術研究は進歩しているものの、研究室規模のデバイスで報告されているサイクル寿命は、多くの場合商業用スーパーキャパシタについて一般的に報告されている寿命(一般的に大体100万サイクル)よりもはるかに低いのが現状です。 また、エネルギー密度もまだ問題があります。現状では、スーパーキャパシタは非常に短期間しかデバイスに電力を供給できません。

  • 2022年末、清華大学の研究者たちにより、1万サイクル後でもほぼ99%の性能を維持し、充放電電圧範囲3Vのフレキシブルなグラフェンスーパーキャパシタの発表がありました。 このスーパーキャパシタは、LEDや電卓など複数の小型電子機器に電力を供給しましたが、ただ数秒間程度しかもちませんでした。
  • 別の2022年の研究では、インペリアル・カレッジ・ロンドンのグループが編んだグラフェンスーパーキャパシタを開発しています。 圧力センサーとして使用した場合、0.6秒の非常に高速な応答時間を発揮しましたが、あいにく静電容量はわずか1万サイクルで約90%まで減衰しました。

リチウムイオンのハイブリッド・スーパーキャパシタ

図5. リチウムイオンのハイブリッド・スーパーキャパシタの構造
図5. リチウムイオンのハイブリッド・スーパーキャパシタの構造

スーパーキャパシタと電池のギャップを埋めるには、別のデバイスのアーキテクチャが必要になってきます。 リチウムイオンのハイブリッド・スーパーキャパシタは、スーパーキャパシタの長所すなわち長いサイクル寿命と、電池の長所つまり高いエネルギー密度を兼ね備えたものになります。 これを実現するため、図5に示すように、充放電プロセスにリチウムイオンのインターカレーション/デインターカレーション(電池型負極)と、アニオンの吸着/脱離(キャパシタ型正極)という2つの機構を利用します。 その結果得られるハイブリッドスーパーキャパシタは、従来のスーパーキャパシタの同等のものと比べ、数倍高いエネルギー密度になる可能性があります。

ただし、キャパシタ型の電極にグラフェンベースの活物質を使用すると、結局ハイブリッドではないスーパーキャパシタと同様の問題が発生しやすくなってしまいます。 さらに、リチウムイオンのハイブリッド・スーパーキャパシタのハイブリッド部分の特徴は、電池とスーパーキャパシタの両方の利点を享受できるという面がある一方で、その欠点も残っていることを意味します。 スーパーキャパシタよりもエネルギー密度が高く、そして自己放電やリーク電流も少ないのは確かです。しかし同時に、長期のサイクル寿命は短い上、負極でのリチウム化/脱リチウム化の反応速度も遅くなります。 最近の論文では、100W h kg-1のエネルギー密度で19,000サイクル後でも100%の静電容量を保持できるリチウムイオンハイブリッドキャパシタが報告されています。

スーパーキャパシタは電池に取って代わるのか

学界も産業界も、さまざまなスーパーキャパシター技術の性能向上に取り組んでいます。しかし、根本的な制約や工学的な障害が克服されない限り、スーパーキャパシタがリチウムイオン電池に匹敵する長期的な性能を発揮する可能性は高くありません。

  • スーパーキャパシタは比エネルギー密度が低い。 湾曲グラフェンはグラフェンシートの凝集を防ぎます。ただ、スーパーキャパシタは充電貯蔵機構が異なるため、電池よりもエネルギー密度が低くなっています。 相当のブレイクスルーがない限り、LIB 1個分ですら、そのエネルギー密度に匹敵するには依然としてスーパーキャパシタが数個必要になります。
  • スーパーキャパシタの過剰な自己放電。 スーパーキャパシタはサイクル寿命が長く、高い静電容量を維持できる一方、電池より激しく自己放電を行います。 電池の場合は、約1か月の間に蓄積された電荷の5%を失う程度です。ところがスーパーキャパシタでは、最大50%の電荷が失われる場合もあります。 このことは、急速放電や再充電が可能な用途では問題にならないかもしれません。しかし長期的なエネルギー貯蔵には影響します。
  • グラフェンベースのスーパーキャパシタのほうがより高価である。 グラフェンを用いたスーパーキャパシタは新しい技術なため、その生産はまだスケールメリットの水準に到達していません。 品質要件もより厳しいこともあり、グラフェンの生産コストは活性炭よりも高額であり続けています。 将来的にはグラフェンが活性炭よりも優れた性能を発揮する日が到来するかもしれません。しかしグラフェンを使うことによりスーパーキャパシタの価格は上昇します。
  • グラフェンをベースにしたスーパーキャパシターの応用は、ほとんどが未確認のままである。 すべての新しい技術で言えることとして、最初に市場に投入された製品が成功することは、それ以降の製品ラインが成功するためには不可欠です。 グラフェンをベースとしたスーパーキャパシター技術は、いずれも長期的な研究が実施されていません。しかも、ほとんどは限られた台数しか設置されていません。

スーパーキャパシタ技術の現状と今後の応用

輸送分野

前述したスーパーキャパシタが電池の代替になることを阻害している課題があるにもかかわらず、実環境での応用は出現しています。それでも、グラフェンベースのものはまだ新興のものばかりです。 最も注目されている用途のひとつとして、輸送分野があります。

  • スーパーキャパシタ搭載バス車両が、中国とセルビアで導入されています。 そのうち1台の航続距離は25kmで、充電時間は6~7分と報告されています。 スーパーキャパシタのエネルギー密度の低さ、ひいては1回の充電で走行できる距離の短さを克服するため、このバスは車両基地またはバス停で充電されています。
  • Skeleton Technologies社では、ブレーキ時に失われるエネルギーを最大30%回収できるグラフェンベースの電車用スーパーキャパシタを製造しています。 この技術は、スペインのグラナダ地下鉄システムの新型車両に採用され、2024年夏までに運行を開始する予定になっています。
  • サムスン社では、急速充放電が必要な低電圧システムに適した車載用リチウムイオンハイブリッドを宣伝しています。

パーソナル電子機器

スーパーキャパシタは、いくつかの用途で成功を収めているものの、小型パーソナル電子機器の電源としてリチウムイオン電池の代わりになることは考えられません。 Skeleton Technologies社でさえ、同社の3Vスーパーキャパシタ SkelCap は電池と組み合わせて使用するものであり、代替品ではないと表明しています。 SkelCapの比エネルギーはLIBより約1桁低く、それはつまりLIB 1個分と同じエネルギー密度を得るには複数個が必要になるという事を意味しています。 スマートフォンやカメラといった小型のパーソナル電子機器に給電する場合、短時間の使用後にすぐまた充電しなければならないとなったら、仮にどんなに短時間で充電できるということになったとしても、消費者は関心を示さないでしょう。

まとめ

スーパーキャパシタは、輸送分野でいくつかの興味深い用途が見つかっているものの、現在のところリチウムイオン電池の実用的な代替品とはなりません。 リチウムイオンハイブリッドスーパーキャパシタを採用するなど、研究努力によってエネルギー密度や自己放電速度の面で画期的なブレイクスルーがもたらされない限り、スーパーキャパシタは補完的なエネルギー貯蔵デバイスに留まるでしょう。 さらに、グラフェンをベースにしたデバイスは、グラフェン活物質特有の問題により、ハイブリッド以外のスーパーキャパシタと同じ落とし穴に陥る可能性があるのです。

サステナブルなエネルギーに関して更に詳しく知るは、『より環境に優しい未来 - リチウムイオン電池と水素燃料電池』も併せてお読みください。

化学の研究開発でダークデータの価値を引き出す - 成功のための戦略

GettyImages-507492447_CAS-Insights-Hero-Image

ダークデータとは何か

革新的な化学企業にとって、研究開発に革命を起こす原動力はすぐ手の届くところにあります。 「ダークデータ」と呼ばれる未使用のデータが大量に存在しています。企業はこれを活用することでかつてないインサイトを引き出し、イノベーションを加速させることができるでしょう。 効果的なナレッジマネジメント戦略を導入することで、画期的な発見や進歩の可能性は無限に広がります。

典型的なダークデータは、非構造化または半構造化されたデータで、簡単には検索またアクセスできなくなっています。 推定によると、組織に保管されているデータの55%がダークデータとされています。 それにもかかわらず、世界中のビジネスおよびITのエグゼクティブとマネージャーの約90%が、今後成功するには、どの組織もこの非構造化されたデータから価値を抽出することが必要だと言っているのです。

これが何を指しているのかというと、多角的な化学研究開発という範疇では、検索可能なデータベースに組み込まれていないようなものすべて、例えば実験ノートやLIMS、実験報告書、参考文献などのデータも含まれます。 こういったデータは、新規材料の同定や、既存の配合の改良、または研究開発サイクルタイムの短縮に役立つ可能性があります。

ダークデータのこの価値を最大限に活用するためには、多角的な化学企業は、最も価値のあるデータがどこに潜んでいるかを特定し、そして必要に応じてこのデータにアクセスし、それを収集、整理そして分析できるようにする効果的なナレッジマネジメント戦略を導入する必要があります。

隠れた宝石の発掘 - 最も価値ある化学研究開発データを特定する

ダークデータは、化学研究開発のワークフロー全体に隠れている可能性があります。 貴重なデータは、初期段階の研究から、製造、処方、特性評価、市販後の観察に至るまで、ずっと生成そして収集されています。しかし、その可能性を十分に活用できていない場合があります。 ダークデータの価値を解き放ち、イノベーションを加速させるためには、研究開発組織はこのデータがどこに隠れているのかを特定し、そしてそれにアクセスして効果的に活用する戦略を開発することが極めて重要です。

研究にとって価値の高いダークデータには、いくつかの種類があります。 例えば、過去の実験データは多くの場合散在していたり、不完全だったり、また構造化されていなかったりしています。しかしこれを整理して分析することで、現在や将来のプロジェクトに貴重な洞察が得られます。 これは、組織内での研究開発の取り組みだけにとどまりません。学術論文や特許、そして業界報告書など外部のデータソースも、貴重な洞察を提供し、イノベーションと研究のための新たな機会を特定するのに役立つのです。 最後に、科学論文や実験ノートのテキストデータのような非構造化データにも隠れた洞察があります。ただし、効果的に分析するには適切なツールと技術が必要です。

この隠れたデータは、ワークフローに応じて、以下の手順で特定そしてアクセスできるようになります。

  • 利用可能なデータソースを徹底的に目録にする。この場合、内部と外部、そして構造化および非構造化データを含めることが鍵となります。
  • 現在および将来の研究開発の取り組みに対する潜在的価値に基づいてデータソースに優先順位をつける。そうすることで、リソースを最大限に活用できるようになります。 例えば、新たに検証された機能性素材をスケールアップしようと計画している場合、その理想的な条件を予測するためには、過去の処方データや製造データへのアクセスを優先させるようにします。
  • データドリブンの意思決定と継続的改善の文化を醸成する。そうすることで、革新的な化学組織はダークデータの潜在的能力を最大限に活用できるようになります。

ダークデータの価値を引き出すために重要な5つのナレッジマネジメント戦略

ダークデータの価値を引き出し、イノベーションを推進する上で重要なナレッジマネジメント戦略には、カスタムキュレーションされたデータセット、セマンティック フレームワーク、自動化されたデータマイニング、そしてコラボレーションワークフローが含まれます。 以下に、各戦略とその有用性を細かく見ていきます。

  1. カスタムキュレーション 
    カスタムキュレーションでは、ある組織のニーズに特化した高品質のデータセットを作成するために、該当分野の専門家が化学データを手作業でキュレーションします。 カスタムキュレーションを使うことで、機能性材料や化粧品、農業、またはその他の化学分野の科学者は、使用しているデータが正確かつ最新であること、そして自分の研究目標に関連していることの確証が得られます。 専門のデータキュレーターとの協力を通じ、組織内の情報を世界の科学に連携させることができ、その内部データをより強固なものにできます。 これをさらに推し進めて、機械学習モデル向けに特別に設計されたカスタムキュレーションデータセットを使えば、AIベースのデジタルトランスフォーメーションの取り組みの更なる強化にもつながります。

    キュレーションされたトレーニングセットがいかにAIのモデル予測精度と移植性を向上させたか、詳しく知るにはこのケーススタディをダウンロードしてください。 
     
  2. セマンティック フレームワーク
    セマンティック フレームワークとは、機能性素材などの特定領域におけるコンセプトや関係を整理そして分類するための標準化されたアプローチです。 このフレームワークは、専門的な用語集、オントロジー、そして分類法の要素を含む場合があり、また化学データに対する組織全体での共通した言語と理解を提供するためのものです。 このアプローチにより研究開発が加速し、科学者は豊富な情報に基づいて決定できるようになります。

    例えば、ある研究者が新しい電子機器に使用する新規材料を同定しようとしているとします。 そのため、まず専門的な用語集、オントロジー、そして分類法を使って、既知の素材の特性や特徴を分類そして整理することから始めました。 そして電気伝導性、光学特性、または熱安定性などで材料を分類する、特殊な分類法を使いました。 このようにして整理することで、化学者は知識のギャップや新しい材料が必要となる領域を、より簡単に特定できるようになるのです。 また、オントロジーを用いることで、ある材料の構造と電子特性との関係など、材料のさまざまな特性間の関係を定義することもできます。 すると化学者は、どの物質が更なる研究が必要なのか、詳細な情報に基づいて決定を下せるようになります。

    蓄積されたユニークな知識が、いかにインサイトを導きそしてデータドリブンな意思決定を可能にするのか、その詳細については、ケーススタディをダウンロードしてお読みください。
     
  3. 自動化されたデータマイニング 
    自動化されたデータマイニング技術を使えば、研究開発組織は大量の非構造化の化学データの中に隠れたパターンやインサイトを発見できるようになります。 機械学習と高度なアナリティクスは、過去の実験や製造条件、科学論文、特許などの化学データを分析することで、化学物質と反応、そして処方との関係を特定できます。 これが研究開発の新たな機会の発見につながり、また既存の製品やプロセスに対する洞察をもたらします。

    例えば、研究者は自分の研究分野に関連している何千もの論文に目を通し、材料特性、合成方法、性能測定基準など重要な情報を抽出します。 この情報が抽出されたら、今度は機械学習アルゴリズムを使ってデータを解析し、新規材料の発見につながるパターンや相関関係を特定できます。 ここで研究者は、特定の合成方法またはスケールアップ条件次第では、望ましい特性を持つ材料が一貫して生産できることや、あるいは特定の構造特性を持つ材料は、特定の用途では優れた性能を発揮する傾向がある、などどいったことを発見できるかもしれないわけです。
     
  4. コラボレーションのツール
    共同作業のためのツールと技術、例えば一元化されたデータベースや統合されたLIMSシステムなどは、研究開発チームが知識や洞察を共有し、データのサイロ化を解消するための効率的で確実な方法です。 一元化されたデータリポジトリへのアクセスを提供することで、研究開発組織はコミュニケーションを改善し、イノベーションを加速できます。 また、一元化されたクラウドベースのデータベースは、地理的に分散している遠隔地のチームや研究者間での知識共有も向上させます。

    現代のデジタルエコシステムでは、2つの組織間の知識の移転も促進します。 これは、産学協同プロジェクトやM&A(合併や買収)の際、研究者が先行研究に基づいて材料の特性や性能データに関する知識を共有する必要がある特に役立ちます。 コラボレーションを促進するデジタルR&Dエコシステムがあると、潜在的なイノベーションの機会をより的確に掴むことができるようになります。

    ダークデータを活用し、効果的なナレッジマネジメント戦略を実施することで、化学企業はイノベーションを加速させ、研究開発の成果を改善できるようになります。 そしてサイクルタイムを短縮し、新たな研究機会を見つけ、製品配合を改善し、さらにどの研究プロジェクトを進めるべきかについて、より多くの情報に基づいた判断ができるようになります。

    東レが、いかにして社内のデータをサイロ化させずにワークフローにうまく組み込んだか、詳細はこのケーススタディをダウンロードしてお読みください。 
     
  5. ナレッジマネジメント戦略を実行に移すための専門家との連携
    化学研究開発における科学情報の複雑さは、ワークフロー全体にわたっています。このことは、組織のインハウスITチームによる対処を困難にしています。 そんな時、外部のパートナーなら、構造化された形式で既存データを保存そして接続するソリューションの開発を支援できます。そうすることで、すべての従業員が価値ある研究開発データに直接的、そして効率的にアクセスできるようになります。 外部パートナーがもたらす経験も、極めて有益なものになります。 そのナレッジマネジメントのベストプラクティスや専門知識に関する洞察力は、貴組織の取り組みを成功に導く上で必ず役立つことでしょう。

curate-connect--analyze

 

mRNA治療薬の最新トレンド(エグゼクティブサマリー)

CAS Science Team

INSGENENGWHP101107-insights-Summary-Hero-1920x1080

mRNAワクチンは、ヒトの細胞に遺伝子の指令を送り込むことで、パンデミックを抑制できることを証明しました。 この技術は、次にどんな課題に取り組むのでしょうか。本サマリーは、ACS Pharmacology & Translational Scienceに掲載された最近の査読付き論文を要約したものです。mRNA治療学の現状をはじめ、今後の可能性、そして研究における主要なプレイヤーなどを解説します。

INSGENENGWHP101107-insights-Summary-Fanned-Image

 

を購読