より環境に優しい未来 - リチウムイオン電池と水素燃料電池

Zach Baum , Information Scientist, CAS

picture of car being fueled with hydrogen

20世紀半ばから後半にかけて、大気中の温室効果ガスの濃度が上昇し続けています。その結果、日々の天気からでも気候変動を検出できるほど、現在の温暖化は進行しています。 世界最大規模の経済大国は、現状では化石燃料に大きく依存しているため、依然として大量のCO2を排出しています(図1)。

長期的な二酸化炭素排出量の増加を示すグラフ
図1. a) 長期的な二酸化炭素排出量の継続的な増加 b) 世界で排出量が最も多い上位6か国のCO2排出量 出典:
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より環境に優しいエネルギー源を求める継続的な取り組みにおいて、リチウムイオン電池と水素燃料電池は、研究にとっても恩恵が多く、また公共の関心も非常に高まっている2つの技術です。 リチウムイオン電池と水素燃料電池の業界規模は、今後10年以内にそれぞれ約1170億ドルと2600億ドルに達すると予想されています。

リチウムイオン電池への関心の主な推進力は、電気自動車や家電製品、そしてその他の用途が爆発的に成長していることです。一方、H2(水素)はエネルギー源および貯蔵媒体として、輸送や建築物へのエネルギー供給のほか、可逆システムのグリッドでの長期的エネルギー貯蔵などの用途で活用されています。 どちらの技術も、電力供給の脱炭素化において重要な役割を果たすことが期待されています。

CAS コンテンツのコレクション™を使った分析が示しているように、リチウムイオン電池水素燃料電池に関する過去10年間の研究の多くは、現在の課題やその利用における障壁の解決に焦点を当てています。その一部については、本稿でも考察します。 これらの技術が私たちのエネルギー利用方法を変革し、そしてより環境に優しい未来への橋渡しになるのなら、この研究は不可欠です。

リチウムイオン電池と水素燃料電池、より有望なのはどちらなのか

どちらの技術においても、その重要な用途のひとつは輸送ですが、その点ではリチウムイオン電池に比べて水素のほうがエネルギー貯蔵密度が高い上、重さが軽く、必要な容量も小さいため、表面的には輸送関係では水素燃料電池のほうがより有望であると主張できるように見えます。 また水素燃料式の自動車のほうが、リチウムイオン電池搭載の自動車よりも迅速に燃料補給ができます。 ただし、水素燃料電池にも欠点がないわけではありません。H2でエネルギーをパッケージ化する過程で、推定ではH2の蓄積エネルギーの最高60%までが失われてしまいます。これは、リチウムイオン電池と比較して約3倍に相当するエネルギー損失になります。

とは言え、どちらにも無数の用途が存在するため、直接的に比較することは複雑です。 それにこの視点では、両技術に対する現在進行中の研究や、より広範囲な次元でのコストやメリットといった部分が無視されています。 CAS コンテンツのコレクションを検索することにより、表面的な部分だけではなく掘り下げた調査が可能になり、リチウムイオン電池と水素燃料電池の現在の用途や用法と、将来的な用途や用法をより深く理解することができるようになります。

リチウムイオン電池の使用における課題

リチウムイオン電池の製造と廃棄は、常に政治的および環境的懸念の対象でした。それに関連して発生する相当な汚染と、リチウムその他の重要資源を使った再生不可能なエネルギー資源への懸念も残っているためです。

スマートフォンやその他家電製品用のリチウムイオン電池の廃棄量の急速な増加と、それと並行した電気自動車の爆発的な増加(と電池サイズの増大)により、エネルギーの浪費と再生不可能なエネルギー資源への依存がますます顕著になっています。 実際、2040年には、予想では世界中で販売される全自動車の58%が電気自動車になり、そして発生する廃棄物の総量は最大800万トンにもなるとされています。 そのため、リチウムイオン電池に関する最近の研究の多くは、汚染を減らし、鉱物の埋蔵量減少を鈍化させるため、どのようにリサイクルするべきかというところが焦点となっています。

現時点ではリチウムイオン電池のリサイクルは世界全体で約5%のみに留まっています。その理由として、多くの制限があることです。例えば、電池材料の金銭的価値の変動や、電池設計、材料そしてリサイクル工場内での技術的収束の欠如(そしてそれに関連したリサイクルに要する人件費)、ざまざまなリサイクルのメリット(原材料の安定確保、安全性、そして環境上のメリットも含む)に対する収益性の欠如、そして世界中の多くの地域におけるリサイクル規制の欠如など、です。

水素燃料電池の使用における課題

水素燃料電池のコストは高額で、これは主にプラチナを使っているためですが、それ以上の最大の課題は、H2の貯蔵(および輸送)の難しさです。 実際、消費者向けの燃料としての水素の成功は、強度の高い水素貯蔵材料の発見と、洗練された安全な輸送システムの開発に直接依存しています。

主な研究トレンド - リチウムイオン電池

上述のように、リチウムイオン電池の研究で特に大きく脚光を浴びているのはリサイクルです。これは、リチウムイオン電池に関連した汚染や廃棄物および限られた鉱物の埋蔵量といった現在の問題に対処するためです。 このテーマに関する年間刊行物の増加率(32%)は、科学刊行物全体の増加率(年間4%)をはるかに上回っており、関心が拡大していることを示唆しています(図2)。

リチウムイオン電池のリサイクルに関する刊行物のデータを示すグラフ
図2. リチウムイオン電池のリサイクルに関するジャーナル記事と特許出版物(2021年のデータは一部のみ)


喜ばしいことに、これまで研究が少なかった部分に対する研究への取り組みも多く見られます(図3)。つまり、リチウムイオン電池の各コンポーネントに関する研究(これはよりホリスティックなリサイクル管理視点の現れを示唆している可能性があります)と、分解に関する研究です。これはリサイクル可能な材料の量を最大化させるという点で、環境的に望ましいと言えます。 陰極素材を取り除いて再生し、新しい電池に再利用するダイレクトリサイクルに対する関心も高まっており(図4)、他のリサイクル方法よりエネルギーコストと試薬コストが下がる可能性があります。

電池リサイクルにおける非陰極材料の回収に関する研究の出版物を示すグラフ
図3. 非陰極材料の回収とリサイクル工程の最適化を研究している出版物
2010〜2021年の電池のリサイクル方法に関する出版物の数を示すグラフ
図4. リサイクル方法別の出版物の数、2010〜2021年。 乾式製錬は、熱を使って電池材料に使用されている金属酸化物を金属または金属化合物に変換する方法です。 湿式製錬は、溶液を用いて電池材料から金属を抽出(浸出)および分離する方法です。 ダイレクトリサイクルとは、陰極素材を取り除いて再生し、新しい電池に再利用する方法です。


主な研究トレンド - 水素燃料電池

1997年以降、水素燃料領域の特許の件数は安定して増加しており、この技術に世界的な関心が高まっていることを示しています(図5)。 心強いことに、水素の貯蔵は、過去10年間ずっと注目されている主要トピックになっています(図6と図7)。水素に基づいた経済の発展は、この気体を貯蔵そして輸送できるかということに大きく依存しています。それができなければサプライチェーンを確立できないためです。

水素燃料分野の特許刊行物の経時的変化を示すグラフ
図5. 水素燃料分野の特許刊行物の経時的変化 登録組織数は折れ線の色と太さによって表されます。 出典:
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水素燃料分野の刊行物に対する注目のトレンドを示したグラフ
図6. 水素燃料分野のジャーナル文献と特許に対する注目のトレンド 出典:
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水素燃料分野の主要なイノベーションの領域を示すグラフ
図7. 幅広い業界分野における水素燃料分野の主要なイノベーションの領域 出典:
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水素貯蔵の次は、脱水素法になっています(図6)。これは2012年以来2番目に多いイノベーション分野となっています。 脱水素法を使用すると、貯蔵と輸送インフラがすでに存在している、アンモニアなど液体の水素キャリアから水素ガスを抽出することができます。 すなわちこれは、水素の広範囲利用のための重要な解決策となる可能性があります。 進行中の研究が目指していることとしては、Haber-Bosch工程(アンモニアの場合)などキャリアから水素を抽出するのに必要なコストのかかる工程の効率を上げること、またはよりエネルギー効率の高い代替案を見つけること、などとなっています。


今後の展望

より環境に優しい未来の実現に向け、世界のエネルギー利用の変革に役立つかもしれない2つの主要な技術、リチウムイオン電池と水素燃料電池。CAS コンテンツのコレクションによって、それらの潜在能力を引き出すための進行中のさまざまな研究における主要な研究動向を探索することができました。

さらに、研究はこれらの技術と関係がある現在の主要課題を解決することに焦点を合わせているようです。リチウムイオン電池の場合はリサイクル分野で研究は恩恵を受けており、水素燃料電池の研究においては水素の貯蔵が主な対象分野になっています。

これら2つの主要技術における経済、政治、環境および研究環境の動向に関するより深い洞察については、リチウムイオン電池のリサイクル水素燃料電池のホワイトペーパーをご覧ください。