エクソソーム研究 - 血小板の微粒子から先駆的な治療学へ

Janet Sasso, Information Scientist/CAS
Exosome CAS Insights article 3

エクソソームとは、細胞から放出される細胞外小胞のうち、脂質二重膜に包まれたナノサイズのものを指します。これは、正常な生理機能の一部として放出される場合と、特定の病的状態で放出される場合があります。 最初にヒト血漿中の「血小板の微粒子」として発見されて以来、エクソソームは大部分の真核細胞から分泌されていること、そして広範囲にわたる生理的および病理学的プロセスに関わっていることが示されています。

前回のブログでは、エクソソームの状勢の概要を明らかにし、薬物送達と分析にエクソソームが利用できる可能性について、その方法を紹介しました。 3回シリーズでお送りしてきたこのブログ記事の最終回では、これらの分野で進められている広範囲なエクソソーム研究に焦点を当て、この活発な分野における重要な進展や、将来の展望を検証します。

治療用エクソソーム研究における中心的存在

エクソソームを治療に活用する企業の数は急速に増加しており、前臨床と臨床に関わる両方の企業がエクソソーム治療薬の開発をパイプラインで進めています。 出版公表された科学知識を人手で精選し収集したものとして世界最大のデータベース、CAS コンテンツコレクション™のデータを用いて、これらの治療薬開発企業が注力している対象疾患について調べました。 その結果、エクソソーム研究において最も標的とされている疾患は、がん、神経・神経変性疾患、肺疾患、創傷治癒で、これらの領域でエクソソーム生成物の候補が多く存在することがわかりました(図1)。 エクソソーム研究プラットフォーム企業の多くは、複数の治療領域を対象とするポートフォリオを有している一方(VivaZome社Avalon Globocare社Vitti Labs社など)、皮膚再生と創傷治癒に注力するKimera Labs社のように、特定の領域に特化している企業も存在します。

CAS エクソソーム3の図
図1. 有望なエクソソーム治療研究企業と標的疾患 

エクソソームの前臨床研究に投資している企業を評価すると、その領域では米国が先行しており、多岐にわたるエクソソーム治療薬のパイプラインを有していることがわかります。 カリフォルニア州に拠点を置くバイオテクノロジー企業Capricor Therapeutics社では、cardiosphere由来細胞のエクソソーム、人工のエクソソーム、そしてエクソソームベースのCOVID-19ワクチンなど、複数のエクソソームプラットフォームを開発しています。 同社のエクソソームプラットフォームはまだ前臨床段階であるものの、いくつかの指標で有望なデータが得られており、ほかの学術機関と提携してエクソソーム研究を推進しています。

Xollent Biotech社もエクソソーム研究の中心的存在であり、さまざまなエクソソーム治療薬がパイプラインにあります。 エクソソームの汎用性により、さまざまな代替の投与経路が検討されています。例えば心筋梗塞の治療用静脈パッチや、脱毛症のためのスプレー、そして肌の老化のための無針注射などが挙げられます。 その他にも化粧品に注力している企業として、Exocel Bio社やFlorica Therapeutics社などがあり、エステティックやエイジングで再生幹細胞由来のエクソソーム治療法を研究しています。

診断用エクソソーム研究 - 現在の進展と将来の方向性

前回のブログ記事で紹介したように、エクソソームはその耐久性や特異性、感度など、バイオマーカーとして理想的な特性を有しています。 その結果、バイオマーカーとしての応用や診断検査への応用は、関心が高まりつつある研究分野になっています。 研究はまだ初期段階ではあるものの、いくつかの企業がこの分野、特にがんを対象としたエクソソームの前臨床研究を実施しています。 注目すべき例としては、Mercy Bioanalytics社による早期がん検出のためのHaloテストや、テキサス大学MD Anderson Cancer CenterによるGlypican-1陽性循環エクソソームを用いた早期膵臓がん検出の研究などが挙げられます。

また、他の治療分野においても、診断分析の最適化が進んでいます。 例えば、米国ハーバード大学医学部と中国温州医科大学の共同研究では、ドライアイや糖尿病性網膜症の分子診断に可能性を示すincorporated Tear-Exosomes Analysis via Rapid-isolation System(iTEARS)を採用しています。 あるいは神経変性疾患も、エクソソームのバイオマーカー研究では重要な焦点になっています。 カリフォルニア大学サンフランシスコ校メディカルセンターの研究者らは、早期発症型アルツハイマー病の診断に役立つ可能性のあるバイオマーカーパネルを発見しています。

臨床試験中のエクソソーム治療薬

現在、エクソソーム治療薬の臨床試験として、59の治験がhttps://clinicaltrials.govに登録されています。 エクソソーム治療薬では、最も多く研究されているものとして、対象疾患として肺疾患(臨床試験11件)、SARS-CoV-2感染症(臨床試験9件)に加え、がん、心臓疾患、神経疾患(いずれも臨床試験4件)などがあります。 これらの疾患に関して、注目すべき臨床試験を表1に記します。 治療薬の臨床試験の包括的なリストについては、最近公開されたExosome Insight Reportをご覧ください。

表1. 注目すべきエクソソーム治療薬の臨床試験

会社/医療センター/大学(所在地) エクソソーム 治療対象の疾患 臨床試験番号 臨床試験の段階またはステータス(開始日)
M.D. Anderson Cancer Center(米国) KrasG12D siRNAを組み込んだ間葉系幹細胞(MSC)由来エクソソーム (iExosome) KrasG12D変異が見られる転移性膵臓がん NCT03608631 第I相(2018年)
Organicell Regenerative Medicine(米国) 羊水由来エクソソーム / Zofin (Organicell Flow) 軽度 / 中等度のCOVID-19 NCT04657406 Expanded Accessの状態: 利用可能(2020年)
emoveDirect Biologics(米国) 骨髄MSC由来エクソソーム / DB-001 / ExoFlo COVID-19 ARDS NCT04657458 Expanded Accessの状態: 利用可能(2020年)
Ruijin Hospital(中国) 脂肪間葉系幹細胞由来エクソソーム(MSC-Exos) アルツハイマー型認知症 NCT04388982 第I/II相(2020年)

臨床試験中のエクソソーム診断

現在、https://clinicaltrials.govには、診断にエクソソームを使った臨床試験が208件登録されています。 そのうち、半数以上(108件)の臨床試験が、エクソソームを活用したがん診断に関するものです。 その他には、神経系疾患(臨床試験15件)、循環器系疾患(臨床試験13件)、肺疾患(臨床試験6件)などが上位を占めています。 こういった疾患の早期診断は、予後を良くする上で重要です。 診断用エクソソームの臨床試験が多いことが、いかに疾患の早期診断にエクソソームを用いることに価値と利点があるかを示しています。 表2に、これらの疾患のエクソソーム診断に関連する企業、医療機関、そして大学をまとめます。 診断用エクソソームの臨床試験の包括的なリストについては、最近公開されたExosome Insight Reportをご覧ください。

表2. 注目すべき診断用エクソソームの臨床試験

会社/医療センター/大学(所在地) エクソソーム(標的疾患) 診断対象の疾患 臨床試験番号 臨床試験のステータス(開始日)
アラバマ大学バーミンガム校(米国) 血液または尿由来エクソソーム(LRRK2) パーキンソン病 NCT04350177 完了(2013年)
ボストン大学(米国) 血漿由来エクソソーム(tau) 慢性外傷性脳症(CTE) NCT02798185 アクティブ(2016年)
Exosome Diagnostics(米国) 尿由来エクソソーム(ERG、PCA3、SPDEF) 前立腺がん NCT02702856 完了(2016)
リトアニア健康科学大学(リトアニア) 好酸球由来エクソソーム 喘息 NCT04542902 ボランティア募集中(2020年)

臨床試験における疾患ターゲットとしてのエクソソーム

エクソソームをターゲットとして使うというのも、疾患治療のために検討されているもうひとつの方法です。 カリフォルニア州に拠点を置く臨床企業のAetholon Medical社では、Hemopurifierという治験用医療機器を設計しました。 Hemopurifierは、循環するエクソソームをターゲットに、ウイルス、細菌毒素、がんのエクソソームを捕捉し、疾病治療に役立てます。 現在までに同社は、Hemopuriferをエボラ出血熱、C型肝炎、HIV、COVID-19の患者の治療に活用してきています。 現在行われている2つの臨床試験を表3にまとめます。

表3. 疾患治療のためにエクソソームをターゲットにした(物理的排除)臨床試験

会社(所在地) エクソソーム 治療対象の疾患 臨床試験番号 臨床試験のステータス(開始日)
Aethlon Medical(PA、米国) 循環血液エクソソーム COVID-19 NCT04595903 ボランティア募集中(2021年)
Aethlon Medical(PA、米国) 循環血液エクソソーム 頭頸部扁平上皮がん NCT04453046 ボランティア募集中(2020年)

エクソソーム研究における未解決の課題を克服する

エクソソームは、診断と治療のいずれにも多大な可能性を秘めた、有望な研究分野です。 ただ、エクソソームの臨床への応用は、非常に有望ではあるものの、現状では知識のギャップが妨げになっています。 そのため、今後はエクソソームの生合成と取り込みに関する正確な機序と、標的細胞との相互作用の解明に重点を置く必要があります。それらを組み合わせることで、研究者がエクソソームの治療可能性を前進させるのに役立つようになることでしょう。 また、エクソソーム研究で大きな障害になっているのは、現状におけるエクソソーム分離に関する課題です。このプロセスが標準化されていないため、臨床利用が遅れています。 最後に、パイプラインに見られるエクソソームの応用の幅広さを考えると、開発計画を確立させるためには、規制の具体的な分類と管轄権の問題を明確にする必要があります。

大きな知識のギャップに対処する必要はあるものの、血小板の微粒子に過ぎなかったエクソソーム研究は、さまざまな疾患の治療に対して、大きな可能性を秘めていると言えます。

詳細については、最近公開されたExosome Insight Reportをご覧ください。

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