オミクロン変異株でますます必要性が増す多角的なCOVID-19ワクチン戦略

Jeffrey Smoot, Information Scientist, CAS
COVID Omicron variant illustration

最近、世界保健機関(WHO)は、懸念される新しいSARS-CoV-2変異株を分類しました。 オミクロン(B.11.539)と呼ばれるこの新しい変異株は、南アフリカの強力な遺伝子シークエンシング・ネットワークによって最初に特定され、WHOに報告されました。 この独特な変異株は、これまでで最も変異が大きく、同定された変異は50を超え、そのうち30を超える変異がスパイクタンパク質上にあります。

オミクロン変異株が懸念される理由

オミクロン変異株は、予備研究によって2019年に中国で最初に同定された元のウイルス株から大幅に進化したことが示されています。これはつまり、過去にCOVID-19に感染した人が再感染したり、または現行の第1世代ワクチンで獲得した免疫を回避したりできる可能性が高いことを意味しています。 こういった変異株は、パンデミックからの回復を世界的に大きく後退させ、多大な社会的および経済的影響をもたらす可能性があります。

オミクロン変異体が免疫回避や伝染性に関してワクチン接種済みの人にとってすら大きな懸念になる主な理由は、その構造にあります。 オミクロン株の複数の受容体結合ドメイン(RBD)およびN末端ドメイン(NTD)変異は中和抗体への耐性と関連しており、プロテアーゼ切断変異により、細胞侵入または伝達の増加が容易になることが予測されます。 実際、いくつかの研究ではこれらの変異が変異したSARS-CoV-2ウイルスを中和する免疫系の能力に影響を及ぼし、免疫の中和作用を10分の1にまで低下させる可能性があることが示されています。  

新しい変異株は当初南アフリカで発見されましたが、現在はオーストラリア、ヨーロッパ、カナダ、アジア、そしてつい最近では米国で症例が確認されています。 ただ、デルタ変異株の拡散に関する以前の経験に基づけば、オミクロン株はすでに世界中に拡散していると多くの専門家は考えています。 SARS-CoV-2の非スパイクタンパク質を標的とし、オミクロン株に対しても有効性があると考えられるナファモスタットやカモスタットメシレートなどの小分子薬はあるものの、現在および今後の変異体に向けて持続可能なワクチンを開発することは、パンデミックを終結させる上で極めて重要です。

スパイクタンパク質の役割

要約すると、第1世代のCOVID-19ワクチンの標的とされている重要な抗原は、下の図に示すようにSARS-CoV-2ウイルスのスパイクSタンパク質です。なぜなら、これはSARS-CoV-2ウイルスがヒト細胞へ侵入するを可能にするからです。 現行のmRNAワクチンは、Sタンパク質を抗原としてコードすることによって中和しています。

COVIDウイルスのスパイクタンパク質の図

SARS-CoV-2ウイルスは急速に進化したため、研究者は、Sタンパク質のみでワクチン設計に十分な抗原なのか見直しを迫られています。 パンデミックを抑えるため、ワクチンと治療という最初のポートフォリオが現在展開されている中、科学者は過去2年間で学んだこと、つまりSARS-CoV-2ウイルスに対する免疫応答やどの反応が防御免疫と相関するのか、そしてこれらの研究内容が第2世代のワクチンの生成にどのように関係するかなどを検討する必要が出てきています。そうすることで、絶えず変化するSタンパク質に対する標的化をさらに発展させるのか、あるいは違う標的へと移行するのかの判断をする必要があるのです。

持続的な免疫を得るまでの道のり

人間がどのように「防御免疫」を獲得するのかは、多くの要因により決定されます。特にSARS-CoV-2のような進化し変異するウイルスではなおさらです。 理想としては、侵入するウイルスやバクテリアなどを認識し、不活化できるような免疫反応を実現させたいところです。 防御免疫には、体液性免疫と細胞性免疫があります。 以下の表では、最近発表されたいくつかの研究で報告されたSARS-CoV-2に対する免疫反応を示しています。 感染後に生き延びた人のCOVID-19タンパク質に対する抗体とT細胞の反応は広範囲であるように見えますが、しかしそれは完全ではありません。 これらの反応は、主にウイルス構造タンパク質(Sタンパク質、核タンパク質、膜タンパク質)を対象としています。 これらの反応のサブセットによって防御免疫が獲得されている可能性があります。

 

  体液性免疫 細胞性免疫
タンパク質抗原 IgG* IgA* CD4 T細胞 CD8 T細胞 メモリーT細胞
3C様プロテアーゼ +   +    
Sタンパク質 + + + + +
核タンパク質 + + + + +
エンベロープ小膜タンパク質       +  
膜タンパク質 + + + +  
Orf3タンパク質 +   +    
Orf6タンパク質          
Orf7タンパク質 +        
付属たんぱく質7b +        
Orf8タンパク質 + +   +  
Orf10タンパク質          

*Sタンパク質に対する中和抗体を含む

Sタンパク質抗原はウイルスの表面を覆っているため、免疫系は見つけやすくなっています。つまり防御免疫にとって理想的な標的です。 ただし、上記の表に示されている体液性免疫反応および細胞性免疫反応の一部では、スパイクタンパク質以外のSARS-Cov-2抗原を標的としています。 こういった観察結果と、ウイルス変異体の出現やブレイクスルー感染などを鑑みると、単一の抗原(つまりSタンパク質)の免疫反応に焦点を合わせたワクチンでは、効果的なワクチンに必要な広範囲な免疫を獲得できない可能性があることが示唆されていると言えます。 これらのタイプの中和抗体は、多くの場合防御免疫反応にとって必要なものの一部ではあっても、永続的な免疫を確立するには十分ではありません。 他のSARS-CoV-2抗原に対する体液性反応や細胞性反応が、それ以外にも広範囲な防御免疫を提供するのかどうかは、さらなる研究が必要です。

持続的な免疫の獲得に関してインフルエンザワクチンから得られる教訓

SARS-CoV-2感染における防御免疫は完全に理解されていないとはいえ、インフルエンザウイルス(IAV)ワクチンに関する最近の研究からは、いくつかの有益な洞察が得られています。 IAVマトリックスタンパク質(M2e)または核タンパク質(NP)による免疫の場合は、どちらも防御免疫が得られます。 COVID-19ワクチンの研究者は、多様性に富むSARS-CoV-2 Sタンパク質と、ORF8など独自かつ保存されたSARS-CoV-2タンパク質の両方を標的にするよう試みるのも良いかもしれません。 ORF8タンパク質に関しては、現在性質不明であるものの、保存された抗原として新しい第2世代SARS-CoV-2ワクチンの標的となる可能性があります。

現在の臨床および前臨床ワクチンのうち、完全不活化ウイルス(IV)または生弱毒化ウイルス(LAV)を使用しているものが少数ながらあり、それらは免疫系に対し多種多様な抗原を提示しているはずです。 さらに少数の開発中マルチ抗原決定基/マルチ抗原ワクチンもありますが、臨床データが不足しています。 予備的研究では許容水準の防御免疫を獲得できることが示唆されている一方、中和抗体の減少の原因が明らかではないため、防御免疫をよりよく理解するためにはさらなる研究が必要です。

変異を続けるウイルスには新しい治療法が必要

Sタンパク質のみを標的とする現行のSARS-CoV-2ワクチンは、今後の抗ウイルス治療および次世代ワクチンの開発に向けた重要な最初のステップです。 その開発速度と有効性は前例のないものでした。 デルタ株のような新しい変異株でも、ワクチンは入院患者数と死亡者数を劇的に減らしたことをデータは示しています。 しかし、ウイルスの変異と進化が継続している中で、Sタンパク質を標的にするだけでは防御免疫には不十分かもしれません。 今後は、ウイルスの拡散を真に阻止する幅広い抗原を標的としたいくつかのタイプのワクチンと抗ウイルス療法を組み合わせるなど、より包括的なアプローチの登場が予測されています。

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