AIの活用により、特許庁での効率や特許出願の適時性が改善されることが証明される

Kathy Van der Herten, Director Product Management/CAS
artificial intelligence in patent workflow solutions

特許出願件数と特許の複雑さが急増している中、グローバルな特許システムの持続可能性は圧力にさらされています。 出願件数が急速に増加している国では、処理能力が追い付かず特許審査に遅延が発生し、特許品質が脅かされているほか、顧客満足度の低下や、イノベーションと投資のペースが落ちてしまう恐れがあります。

近年の特許出願件数の推移を示すグラフ
図1:過去10年間の特許出願件数の推移


出願の適時性と特許品質の向上

特許出願の遅延を改善させることは、顧客満足度の向上とイノベーションの促進を目指す特許庁に共通する優先事項です。 プロセスの遅延は、発明者に法的な不確実性を生じさせ、投資を躊躇させる原因にもなります。 ブラジル屈指の特許弁護士であるGusmao & Labrunieのパートナー、Juliano Ryota Murakami氏は、知的財産のステークホルダーにとってのリスクを明らかにしています。

「特許審査の過度の遅れは、その国の技術革新と経済発展に悪影響を及ぼします。 特許が最終的に付与されたときには、該当特許で保護されている技術が完全に時代遅れとなり陳腐化している可能性があるからです。 また、遅延により、発明の独占的な複製や商業化の可能性に関する不確実性も生じさせます。」

出願の適時性と特許品質の確保は、特許審査官の大きな負担になっていますが、審査を迅速化できるかは、関連する先行技術を素早く見つけられるかにかかっています。 しかし、先行技術の調査は時間がかかり、複雑な検索戦略と深い専門知識が必要になります。 

EPOのスタッフによる検索活動の分析によると、包括的な特許出願の検索では、179のデータベースで13億の技術レコードが対象となり、毎月の検索結果には約6億の文書が表示されているとなっています。 日本の特許庁の調査でも、審査官が先行技術のサーチとその結果の調査に費やす時間は全体の約40%にのぼると推定されています。 審査官が先行技術に容易にアクセスするための時間、専門知識、技術的リソースが不足していると、特許品質が低下する恐れもあります。 

AIを活用した検索ソリューションなら、特許のエコシステム全体において、効率と特許品質のどちらも向上させる重要な役割を果たすことができます。 特許庁における審査の迅速化を支援し、またイノベーターも先行技術を早期に特定できるようになることで、不良特許の訴訟や有効性への異議申し立てにかかる時間やコストを回避することができます。 CAS SciFinder Discovery PlatformSTNext®に科学・知財検索を向上させるソリューションとしてAI先行技術アルゴリズムが追加されることになったのも、それが理由です。

持続可能性を支える新しいアプローチ

特許庁の長期的な運営の持続可能性を確保するための施策を通じて解決されている特許出願の遅延や非効率性もあります。 欧州特許庁(EPO)では持続可能性の目標を掲げており、その内容には積極的な職員、デジタル変革、効果的な特許認可プロセス、そして影響力のある国際協力などとなっています。 他の特許庁でも、組織の有効性を高めるために同様の優先順位を設定しています。

より迅速で質の高い審査を行うため、以下のように特許審査官の増員や、AIなど時間を短縮するテクノロジーの導入、そしてワークフローの変革などを進めています。

  • USPTOは、特許の品質と適時性を最適化する戦略的計画に沿って、2021年に数百人の審査官を採用して増大する仕事量に対応できるようにしました。 また、審査官が先行技術に容易にアクセスできるよう、特許の分類や検索にAIの導入を拡大しています。
  • 2021年の2桁台の出願増加を見越し、英国知的財産庁は審査官の人数を前年度の2倍に増やしました。 プロセスの合理化・近代化に向けた5か年計画では、中核的な運営費用の少なくとも3.5%の効率化を目指しています。 また、サービス提供への投資を拡大する中で、AIの最適な使用方法についても評価中です。
  • EPOは、「Master the Prior Art」と呼ばれる重要戦略において、検索精度を高め、審査の早い段階で関連文書を検索できるように分類手順を改善しています。 人工知能や機械学習などの技術を体系的に使用し、より効率的なエンドツーエンドのデジタル特許認可プロセスを実現しています。

AIを活用したソリューションは、特許庁で先行技術調査以外のたくさんの場面で活用できます。 分類の割り当てや変換、より効率的な文書配信用のためのAPI、審査や分析のためのオンラインツールなど、用途はさまざまです。 これらのソリューションは、効率、特許品質、顧客サービスを向上させることで、特許庁の持続可能な運営と、グローバルなイノベーション戦略の目標達成を支援する相乗効果をもたらします。

AIとワークフローの変革で特許申請の遅延改善に期待

CASは最近、ブラジル知的財産庁(INPI)とのプロジェクトを完了しました。このプロジェクトは、収集されたデータ、人工知能、カスタムワークフロー、知的財産検索サービスのアウトソーシングを組み合わせた独自の方法で先行技術調査を合理化するものです。 このプロジェクトは以下の多大な利点をもたらしました。

  • 審査時間を最大50%短縮
  • 処理されたすべての国内出願の77%において、審査官のサーチ時間を短縮
  • 処理されたすべての国内出願の29%において、追加のサーチがほとんどまたはまったく不要に
  • 生産性の向上でバックログを80%削減

先行技術調査におけるAI性能の最適化に向けた学習

AIは、何百万ものデータセットを素早く分析し、適切な結果を返せるため、特許庁からますます注目を集めています。 WIPOによると、27の特許事務所で70以上のAI関連プロジェクトが進行中であり、そのうち19は先行技術調査や審査手続きに焦点を当てたものです。

ブラジルINPIとの共同作業により、先行技術検索におけるAIの適用を最適化する、以下のいくつかの基本原則が強化されました。

  • クリーンな構造化データは、予測精度を大幅に向上させる
  • 最も関連性の高い類似性を返すためには複数のアルゴリズムが必要になる
  • テクノロジーを人間の専門知識で増強させると結果が改善される

データ品質。キュレーションされていない一般公開のほとんどの科学と特許データは、特許庁に固有の問題をもたらします。 その中には、転記ミス、単位の誤表記、複雑すぎる特許文言などが含まれます。 また、外国語は特別な課題が生じます。

人間が収集したデータで、それが標準化され、整えられ、そして構造化された形式で接続されているものは、AIアルゴリズムの学習を向上させ、そして先行技術検索の性能を向上させることができます。 キュレーションされたデータは、より多くの類似特許を明らかにし、自明性の懸念がある隣接特許を特定できます。

複数のアルゴリズム。特定の検索手法のためにカスタマイズされた複数のアルゴリズムを使用することで、AIのパフォーマンスを向上させることができます。 弊社はブラジルで10個のアルゴリズムを開発し、初回の結果も出ました。 その結果を別のアンサンブル学習のアルゴリズムで解析し、最終的には非常に関連性の高いランク付けされた結果セットが作成されています。

ワークフローの最適化。弊社が構築したブラジルのINPI向けカスタムワークフローソリューションは、先行技術調査のステップ数を半分に減らしました。 また、特許・特許以外の検索結果や参考文献をはじめ、ソーティング、フィルタリングそして可視化のためのツールなどを、すべてクラウドベースの単一インターフェースで利用できるため、時間の節約にもつながります。 カスタムワークフローは、完全に自動化することも、または外部の検索専門家がアルゴリズムモデルを検証し、検索をフィルタリングして審査官の処理能力を補完できるようにすることも可能です。 

特許庁におけるAIを活用したワークフローのアプローチや、知的財産エコシステム全体の持続可能性を確保する上で予測技術がどう役立つかなど、詳細については、 CAS Insights Report、『国際特許システムのサステナビリティへの取り組み - 生産性向上におけるAIの役割』をお読みください。

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