(ウェビナー)科学のブレークスルーと2024年注目の最新トレンド

Janet Sasso , Information Scientist, CAS

ビデオ通話で同僚と話し合う起業家

科学は加速度的に進歩しており、日々新たな発見がなされています。 CASには、歴史的な観点から最新の状況まで、科学の状勢に関する独自の視点を持っており、今年注目の新たなトレンドに対するインサイトを提供できます。 1月25日のこのウェビナーでは、ローレンスリバモア国立研究所をはじめ、オークリッジ国立研究所オハイオ州立大学、そしてCASの専門家によって、2024年注目のトレンドと科学的ブレークスルーについてのディスカッションが行われました。

アンドラッガブルへの取り組みや、研究開発におけるAIの影響、バイオマテリアルの台頭、エネルギー貯蔵技術、そして核融合エネルギーの革新など、最新の動向を考察します。 その他の新たなトレンドに関する有益な洞察については、CASの最新の記事をご覧ください。

ウェビナーの主なハイライト

ディスカッションの導入として、まず筆者がアンドラッガブルな疾患への取り組みに関する主な進展や新たなトレンドについての説明を行いました。 神経変性疾患や、アルツハイマー病に対する医薬品の進歩、およびパーキソン病のためのバイオマーカー検証における技術革新などに関しても言及しました。 これら技術革新は、疾患の生物学的原因に基づいたものであり、完治を目指すうえで極めて重要です。 また、抗腫瘍剤の研究開発におけるアプローチとして、抗体薬物複合体(ADC)に関しても言及しました。 以前はアンドラッガブルだった、がんなどの標的を治療するための選択肢が見つかったため、ADCの特許公開トレンドが、ここ数年で急速に増加しています。

続いて、ジョナサン・アレン博士により、創薬におけるAIと機械学習に関する博士の体験の話がありました。 近年、新しい生物学的物質や低分子物質の合成を自動化する能力の向上が、新たな注目トレンドとなっています。これにより、新薬探索のパラダイムが変わりつつあります。 AIや機械学習を活用することで、潜在的な創薬ターゲットを評価したり、新薬が人体内でどのように反応するかを予測できるようになってきています。 また博士は、低分子の治験新薬(investigational new drug、IND)の申請、標的の効力、有望な薬物動態プロファイル、抗体の再設計、およびタンパク質折り畳み予測など、臨床での成功例についての話をされました。

生物医学と材料科学が交差する領域を研究するケビン・ヒューズ博士によって、その分野におけるイノベーションと、新たなトレンドを評価するための定量的手法についての話がありました。 CAS コンテンツコレクション™ の分析によれば、バイオマテリアルの領域で最も急成長している主要分野は、8つあります。 その中には、自己修復性バイオマテリアル、脂質ベース材料、そしてバイオインクなどが含まれます。 さらに、プログラマブルなバイオマテリアルに関するより詳細なトレンド分析を通じて、ジャーナルと特許の両方において最も頻繁に使用されているバイオマテリアル刺激物質が明らかになりました。

ここで、ウェビナーの話題は材料分野へと移り、Yiying Wu博士によって電池エネルギー貯蔵のトレンドについての説明がありました。 近年では、リチウムイオン電池、固体電池、ナトリウムやカリウム電池、硫黄電池、そして酸素電池にいたるまで、実に多くの新しい電池の開発動向が見られるようになっています。 そのどれもが、電池化学に基づいたものか、あるいは電池化学の持つ課題を解決するためのものになっています。 そして締めくくりとして、電池化学以外における製造技術、サプライチェーン、電池リサイクル、安全性などの話をされました。

ウェビナーの最後は、アーノルド・ラムスデイン博士が核融合エネルギーの話をされました。 まず最初に、文明の将来はエネルギーにかかっていること、そして増大する世界のエネルギー需要を満たすには、脱炭素エネルギー源が早急に必要である、と行動喚起しました。 多くの出来事が核融合エネルギーを新しい時代へと導いています。その中には、科学の進歩や、マインドセットや政治的な意思、技術の進歩、高度な製造技術、高性能コンピューティング、材料の進歩、そして大規模な民間投資などが含まれます。 そして、プラズマ物理学、材料科学と工学における課題とともに、核融合エネルギーのプロセスへの言及がありました。

ウェビナー最後の締めくくりとして、参加者から多くの質問が寄せられました。AIと機械学習の根本的な違いから、EVがもたらすよりグリーンな将来において、核融合エネルギーやリチウムイオン電池はどういった位置づけになるのかなど、内容は多岐にわたりました。 今回のパネルディスカッションでは、将来の研究開発の機会を形成するうえで、注目に値する多くの新しい話題が浮き彫りになりました。

(参考資料)ウェビナーで寄せられた主な質問

人工知能(AI)と機械学習の根本的な違いは何ですか。

  • 機械学習は、過去の具体的な問題への解決に焦点を当てています(ある特性の予測に焦点を当てた統計的データ駆動型モデル)。AIは、理論上はその上位集合であり、人間の行動を拡張するものになります。
  • 比較例として、AIの化学者は、新しい分子を提案し、どの分子を作成・テストするか決定できるシステムです。一方、機械学習モデルは、そのタスクを実行するシステムがどの程度成功しているかを評価することになります。

 

バイオマテリアルの折りたたみボックスは2011年に発表されています。その後、その応用には何か進展はありましたか。

  • その後の進展として、主に2つの分野が挙げられます。
    • 刺激応答性材料を使った3Dプリンティングで、これは「4Dプリンティング」という新しい分野の登場につながりました。
    • ナノスケール材料を使用することによる、新しい種類の刺激応答の生成もあります。 その好例として、可視光線に反応して振動する生体模倣型ハイドロゲル「スイマー」の開発が挙げられます。これは、光熱的活性の金ナノ粒子を温度反応性ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)と統合することで達成されます。

 

リチウム電池や核融合エネルギーの研究は、EVの普及を推進する米国の計画においてはどういう位置づけになるのでしょうか。

  • EVが主流になるには、いくつかの制約が克服される必要があります。たとえば、採掘における懸念問題や、電池の充電時間、異常気象事象が電池に及ぼす影響、などが挙げられます。
  • 核融合はカーボンフリーの電力源になるでしょう。ただし、核融合の燃料サイクルには(トリチウム生成のために)リチウムが必須の元素であるため、リチウムの供給が問題になる可能性があります。

 

EVのエネルギーは現在どのように供給されていますか(たとえば石炭など)。そして将来的には、どのように供給されるでしょうか。

  • EVがクリーンかどうかは、その供給源となるグリッドがどれだけクリーンかに依存します。グリッドが100%石炭や天然ガスを使用しているのであれば、EVはクリーンではなく、カーボンニュートラルでもありません。
  • 現在、米国では電力のエネルギー源として化石燃料、原子力、再生可能エネルギー、その他の供給源を使用しており、将来的には核融合エネルギーを利用する可能性もあります。 核エネルギー、水素エネルギー、そしてリチウムイオン電池のリサイクルなどの将来に関する詳細は、最近のInsightsの記事をご覧ください。

 

エクソソームなど生物学的ナノテクノロジーの研究者はいるでしょうか。

  • はい。エクソソームは薬物送達システムとしての利用や、その治療可能性について研究されています。 エクソソーム治療を研究している企業では、がん、神経疾患、肺疾患、創傷治癒などの疾患の治療を研究しています。 エクソソームとその新たな可能性に関する詳細は、ACS Nano誌の最近の査読付き論文に基づいたレポート、CAS Insight Reportをご覧ください。

 

新薬のスクリーニングに生成AIを使用した場合の効率と、従来のHTSとの一般的な比較を示した研究はありますか。 (たとえば、AI/MLの支援による同定件数と、HTSによる同定件数の比較、など)

  • そういった綿密な対照比較があれば素晴らしいと思いますが、まだ見たことはありません。また難しいとも思います。 高スループットのスクリーニングに関しては、何十億もの化学物質の組み合わせテストが実行できるDNAコード化ライブラリーの使用が進んでいます。これを実行するにあたっては、HTSデータから学習をする機械学習モデルを構築したうえで、結果を選別させるという選択肢が存在しています。この2つの方法を組み合わせることで、より的確な結果が得られるようになるのです。

 

ウェビナーの動画や関連スライドは、こちらでご覧ください。