毎日、何千という新しい出版物により、他の研究者の研究を促進させる鍵となりそうな新たな洞察が明らかにされています。 CASは、次の新発見を促すための洞察を研究のために提供し、将来のノーベル科学者を支援しています。

ノーベル賞の次の候補者は? 未来のノーベル賞受賞を期待される、影響大の6つの発見
今週、2020年のノーベル化学賞がCRISPR遺伝子編集技術の基礎的発見に従事した、エマニュエル・シャルパンティエ氏とジェニファー・A.ダウドナ氏に授与されました。 この技術の影響は幅広く、人の病気の診断方法や新しい治療法の開発、さらには食料の栽培方法までに至ります。 下のグラフは、この基礎的発見の後に発表されたCRISPR関連の研究が、爆発的に伸びている事を示しています。

ノーベル委員会では、毎年受賞者を選ぶ際、世の中に偉大な影響を与え利益的にも大きな影響をもたらした研究成果を探すために、おびただしい数の研究をスクリーニングするという、途方も無い困難な作業をしています。 委員会の化学研究の水準が非常に高いことを考えると、これは簡単な仕業ではありません。
このことを念頭に置き、CAS科学者団体の同僚と私は、ノーベル賞をまだ受賞していないが最も影響力のありそうな化学研究と思われるものについて慎重に検討しました。 受賞に値すると思われる次の貴重な研究者と将来の発見、そして今後のノーベル賞式典にご注目ください。
生物無機化学
分子生物学と生物物理学をバックグラウンドにもつCAS情報科学者のルミアナ・テンチョフは、このように述べています。「生物無機化学は、自然や人工的に作られた金属が生物学、医学、毒物学いおいてどのような役割を果たすかについての研究です。 この分野では、ハリー B.グレイ、スティーブン J.リパード、リチャード H.ホルムなどの科学者が偉大な貢献をしてきました。 生物無機化学における彼らの共同研究の進歩は、幅広いアプリケーションをサポートする生物学的システムにおける金属の挙動を解釈するために必要な分子の直感を提供しています。」
グレイ氏は、タンパク質における長距離の電子トネリングについて先駆的な技術を実証し、特別に修飾されたタンパク質生体分子を使用して電子移動速度を測定しました。 電子伝達は基本的なプロセスですが、生物学的システム内でそれを司る化学的要因についてはほとんど知られていませんでした。 ホルム氏は一方、遷移金属化合物の合成、立体化学、電子構造および反応性に取り組んできました。鉄硫黄タンパク質の活性部位の最初の合成類似体を調製し、酵素の生物学的クラスターを複製する低分子量の「金属タンパク質」の合成経路の開発を支援してきました。 リパード氏は生物無機化学およびメタロニューロ化学(金属イオンが脳および神経系にどう影響するかの研究)の創設者の1人といわれ、「シスプラチン」群でプラチナベースの抗がん剤を開発し、天然ガス上で微生物を生かす酵素(メタンモノオキシゲナーゼ)の構造と機能を解明しました。は生物無機化学およびメタロニューロ化学(金属イオンが脳および神経系にどう影響するかの研究)の創設者の1人といわれ、「シスプラチン」群でプラチナベースの抗がん剤を開発し、天然ガス上で微生物を生かす酵素(メタンモノオキシゲナーゼ)の構造と機能を解明しました。 同氏の研究成果は、癌治療、環境バイオレメディエーション、および合成燃料の開発に応用されています。
DNA合成
DNAの複製は、生物学的遺伝を支える重要なメカニズムです。 マーヴィン・H・カルサーズ氏は、化学DNA合成の画期的な技術の開発において、この分野の第一人者です。 同氏の研究グループは、DNAホスホルアミダイト合成の画期的な方法を開発しました。 これらの方法は、新しいバイオ医薬品の遺伝子工学を可能にし、法医学的DNAフィンガープリントをサポートするほか、ヒトゲノムプロジェクトにも貢献し続けています。 これらの新しい方法で合成されたDNAは、科学者がDNAと遺伝子発現を分析するのに役立つ「遺伝子マシン」にも組み込まれています。 概して、カルサーズ氏の研究は、タンパク質とDNA合成を、高度に専門化された調査から、研究、診断、科学捜査に広く利用されているツールへと発展させました。
この基礎研究の多大な成果について強調し、テンチョフ氏はこう述べています。「DNAの化学合成方法は生物学研究を劇的に進歩させました。バイオテクノロジー産業の大成功と急成長を促した画期的な発見です。」
超分子化学とナノ材料
科学者のチャド・A・マーキン氏は、総引用数との点で世界で最も引用されている化学者で、特にナノメディシンの分野においては最大引用数を誇ります。 同氏は、ナノサイエンス、ナノマテリアル、ナノメディシン、およびナノリソグラフィーの基礎研究および応用科学に大きく貢献してきました。 マーキン氏は、分子検出用のナノ粒子システムの開発、超分子化学とプログラム可能なナノ材料に関する研究、およびディップペン・ナノリソグラフィーの発明(バイオセンサーとナノスケールチップでの使用において非常に洗練された表面作成を実現できる)で広く認められています。 球状の核酸を発見したのもマーキン氏です。ナノ粒子コアの表面に機能化された核酸を化学的に配置することによって作られたこれらの構造は、生物学的障壁を越えることができる薬物送達システムの他、極めて感度の高い早期診断のための診断プローブの開発を可能にしました。
テンチョフ氏は、マーキン氏の貢献について次のように言及しています。「概して、マーキン氏の研究は、最新のナノテクノロジーと関連する診断、治療、および材料アプリケーションの開発の基盤を確立しました。」
フォトレジストの化学的増幅
フォトレジストは、放射線にさらされると構造が変化する感光性ポリマーで、コンピューターのマイクロプロセッサーのコーティングと製造に使用されています。 この分野の研究で特に注目すべきなのは、C.グラント・ウィルソン氏、ジャン・フレシェ氏、ヒロシ・イトウ氏によるもので、選択的にコーティング、保護し、コンピューターチップを構成するシリコンウェーハの制御と寿命を延長するために使用できるフォトレジストの開発を可能にしました。 これによってチップの特性を必要に応じて変更できるようになりました。すなわち、溶媒に溶解しやすい、しにくいにより、チップを必要に応じてパターン化することが可能です。 ウィルソン氏とフレシェ氏は、低光強度で急速に分解するフォトレジストを開発しました。一方、ウィルソン氏イトウ氏は、既存のフォトレジストの鎖分解反応を引き起こす光化学的に開始される酸を開発しました(単一光子の吸収によって多くのポリマー鎖を分解)。
有機合成化学を専門とするCAS情報科学者のロバート・バード氏は、この技術の機能的影響についてこう述べています。「新しい材料と添加剤の組み合わせにより、より短い波長と低光強度を使用してコンピューターチップを製造できるようになり、サイズに応じた密度の高い機能と電力増加が期待できます。 これにより、最新のコンピューター、スマートフォン、その他の家庭用電化製品に適用可能でより手頃な価格で提供できるようになります。」
クリックと生体直交化学
K.バリー・シャープレス教授による造語「クリックケミストリー」は、環境条件下で分子を迅速に接続するのに使われる反応を表したものです。 シャープレス氏の想定は、酵素の活性部位でより小さな分子を結合することにより酵素阻害剤を形成するというものでした。同氏の研究室は、異性体化合物(1,2,3-トリアゾール)を形成するための特定の反応(アジド-アルキンホイスゲン環化付加)の位置選択的な銅触媒バージョンの開発に貢献しました。 この方法は容易で信頼性が高いため、ポリマー、抗体、および医薬品の調製に使用されてきました。
1990年代後半にキャロライン・ベルトッジ氏が名付けた分野である、生体直交化学は、生物学的条件下(室温とそれに近い温度、水溶液中、生体分子の存在下、および低濃度)で急速に起こる反応について説明しています。 ベルトッジ氏および同氏の研究グループは、生物学的システムに見られる炭水化物を研究するためのシュタウディンガー反応の形を開発しました。アジドがエステル置換トリアリールホスフィンと反応して中性双極分子(イミノホスホラン)を生成する反応です。 さらに、ベルトッジ氏の研究室は、潜在的毒性のある銅触媒を必要とせず、従って現存する生物学的プロセス(歪み促進型アジド-アルキン付加環化(SPAAC))を研究するために生細胞を使用することができる環状付加方法を開発ました。
バード氏はこの研究の影響についてこのように言及しています。「これらの技術により、現世代の抗体薬物複合体や診断薬をはじめとする新薬の調製が可能になり、研究者は生物学的経路をより簡単かつ明確に決定できるようになりました。」
原子移動ラジカル重合(ATRP)
CAS情報科学者でフラーレンと高分子化学を専門とするミン・ワン氏は、ATRPの重要性についてこう述べています。「ATRPは、正確に制御された分子構造を持つポリマーを調製するための最も堅牢な方法の1つです。」
科学者のクリストフ・マテャシェフスキー氏、エツィオ・リザルド氏、澤本光男氏は、ビニールとアクリルモノマーに広く使用されているこの方法論の開発において重要な役割を果たしました。 これは、従来の方法におけるラジカル重合の重大な欠点を克服するもので、ラジカル間で不可避な高速終端速度のために、無制御の分子量分布につながる可能性があります。 ATRPは、伝播するラジカルを非活性化して休止種を形成することにより、重合プロセスを制御します(遷移金属触媒によってさらに断続的に再活性化できる)。 ATRPにより、フィールド材料でさまざまな化学的特性を持つ幅広いモノマーについて、より均一なポリマー鎖成長が可能となります。
グローバルな研究洞察を結び付け新しい発見を加速
これらの基本的大進歩やこれを基に構築された研究は、科学的発見の反復と接続という性質を表しています。 毎日、何千という新しい出版物により、他の研究者の研究を促進させる鍵となりそうな新たな洞察が明らかにされています。 CASは、世界で公開されている科学を収集、精選、分析し、研究者の次の新たな発見(将来のノーベル賞の可能性も)を導く触媒と洞察を提供しています。 CASのチームは、世界中の研究者の研究を結びつけることで、最終的には世界の最大の課題に対する解決策を加速できる、というこの共通の目標に突き動かされています。 その方法について見る。
来年はどの化学の大進歩が認定されたら良いとご希望ですか。 ご意見をお聞かせください。
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