小さなテクノロジーの大きな可能性

Kevin Hughes , Information Scientist, CAS

Carbon Nanotube

30年前に、科学者は単層カーボンナノチューブの制御合成に初めて成功しました。 それ以来、ナノチューブは繊維やスポーツ用品から電池そして太陽電池に至るまで、さまざまな製品に組み込まれるようになっています。 その利用が拡大するに伴い、潜在的な応用への関心も高まっています。

独特の特性があることから、研究者は、この素材の新しい革新的な用途を積極的に模索しています。 これが成功すれば、再生可能エネルギーや薬物送達などで決定的な進歩がもたらされる可能性があります。 数多くの産業において、カーボンナノチューブは計り知れないほど将来性があります。

単層カーボンナノチューブとは

単層カーボンナノチューブは、グラフェンに似た炭素原子の一枚板を、筒状に丸めたものと考えることができます。 一般的には、触媒を含む基材が、真空炉の中で炭素を含むガス前駆体と相互作用して生成されます。 その前駆体が触媒基材と反応することで、半導体製造におけるフィルム作りに似たプロセスでナノチューブが成長していきます。

単層カーボンナノチューブを製造するための制御反応は、1991年に多層カーボンナノチューブが発見されたのに続いて発表されました。 多層ナノチューブは、その機械的・電気的特性に大きなばらつきがあります。そこで特性をより制御しやすくするために、科学者はもっぱら単層ナノチューブを追求してきました。 単層ナノチューブの合成を可能にした重要な技術革新は、成長プロセスに触媒粒子を使用したことです。

カーボンナノチューブの特徴は、炭素原子間の強い結合です。 その引張強度は鋼鉄よりも高く、さらに軽量で熱伝導性があり、他の材料を充填することも、また他のナノスケール材料と組み合わせてその特性を活かすこともできます。

単層カーボンナノチューブの電気特性も興味深く、そして構造に大きく依存しています。 長さ方向の螺旋状のねじれの度合いであるキラリティ次第で、金属のように完全な導電性を持つこともあれば半導体になることもあります。 キラリティはチューブが基板上で成長する際、各チューブごとに異なるため、そこで個々のナノチューブが半導体になるか金属のように振る舞うかが決定されます。

単層カーボンナノチューブのこれまでの応用例

単層カーボンナノチューブは、高強度で軽量といったユニークな特性を持っていることから、複合材料における重要な添加物となっています。 防護服をはじめ、テニスラケットや自転車などのスポーツ用品、そしてボートやヨットなどの耐久消費財によく使われています。

カーボンナノチューブの電気的特性も、その用途を大きく拡大させており、すでにEV用リチウムイオン電池などの大衆向け電子機器にも使用されています。 最近の研究において、カーボンナノチューブはこの種の電池の電極の出力能力と寿命を向上させることが実証されています。 またカーボンナノチューブは、その強度のおかげで、充放電サイクルや曲げることによって発生する電極への機械的ストレスに対する耐久性にも貢献しています。

イノベーションの機会

電池ベースのエネルギー貯蔵と再生可能エネルギーは、単層カーボンナノチューブの数ある潜在的用途のうちの2つに過ぎません。 最近ACS Nano誌に、自然言語処理を用いたCAS コンテンツコレクション™の分析が掲載され、いくつかの興味深い動向と関連性が明らかになりました。

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電池、イメージング、電磁波シールドなど、用途によっては、特許のほうでより頻繁に登場するものがいくつか存在します。 これはそれらの用途が、より商業的可能性が高いと考えられていることを示唆しています。 近年のEVの普及とそれに伴うリチウムイオン電池の需要の伸びは、電池の特許出願における単層カーボンナノチューブの言及の多さに対応しています。

その他の分野でも、学術研究が活発化しています。 例えば、フォトニクスや太陽電池は活発な研究分野であり、また水素貯蔵も小規模ながらも、成長している研究分野です。 これはナノチューブは表面積が大きいことから、水素ガスを効率よく吸着でき、水素貯蔵の長年の課題を克服できるからです。 ナノチューブの表面にナノ粒子を加えることで、水素との反応を促進させ、ナノチューブの水素吸着能力をさらに高めることが可能です。

薬物送達といった生物医学的な応用は、単層カーボンナノチューブの他の使用例とは大きく異なるものの、これは今後個別化医療の一端を担う可能性があるため、研究者にとっては重要です。 ウェアラブルで体内に移植できるニューロテクノロジーデバイスが現実になりつつある今、生体移植可能な電極は、ナノチューブの強化された伝導性を活用した、バイオメディカル分野におけるもうひとつの潜在的なイノベーションです。

こういった用途には、さらなる研究に加え、安全性や有効性、そして一貫性の実証も必要です。それでも、単層カーボンナノチューブは計り知れない科学的可能性をもたらすことが示されています。

ナノテクノロジーの大きな可能性

この30年間で、単層カーボンナノチューブは基礎研究の対象から、さまざまな産業で商業化されるイノベーションへと発展しました。 現在では、エネルギー転換、EVの進化、さらには個別化医療においても重要な位置を占めるまでになっています。

ナノチューブは、他の新興ナノ材料とともに、今後も新たな未来を築き続けます。 バイオマテリアルのサステナブルな代替品から、バイオ医療分野における3Dプリンティングなどの新たな応用に至るまで、この急速なイノベーションのペースは今後も加速していくでしょう。