量子ドットの研究が2023年ノーベル化学賞を受賞

CAS Science Team

 

1980年代の初めにアレクセイ・エキモフ、ルイ・ブラス、アレクサンダー・エフロスの科学者たちが量子ドット(QD)を発見して以来、この技術は急速に発展し、広範囲に影響を及ぼす応用へと発展してきました。 ノーベル賞までの道のりには重要なマイルストーンがいくつもありました (図1)。でも研究を推し進めるその忍耐強さが、ついにノーベル委員会に認められたのです。

これらの半導体量子ドットナノ結晶(セレン化亜鉛/硫化物、インジウムガリウムヒ素、ヨウ化セシウム鉛ペロブスカイト、グラフェンなど)は、高輝度LED画面などで色の精度やエネルギー効率を向上させ、ディスプレイに革命をもたらしました。 商用の量子ドットテレビが2013年に登場したことなどは、この良い例と言えます。

サイズに依存するその蛍光性は、特にソーラーセルなど再生可能エネルギーの発展において、極めて重要な役割も果たしています。 コロイド溶液中の量子ドットのサステナブルな室温調製により、水素の生成や有機汚染物質減少のための光触媒など、卓越した適応性のある、より多様な応用が可能になりました。 また、量子ドットはバイオメディカル・イメージングにも役立っており、がん等の疾患に対する正確な薬物送達や診断に不可欠なツールとなっています。

量子ドットの影響力は増し続けており、量子ドットLED、強磁性粒子検査、光伝導体、光検出器などの開発が進んでいるほか、量子ドットレーザーや量子コンピューターへの応用も大いに期待されているなど、さまざまな方面でも進化しながら科学技術に影響を与えていることがわかります。

ノーベル賞獲得までは長い道のりでした。しかし、それがもたらすチャンスと影響は、それ以上に広範囲に及びます。 現在、ナノメディシンの分野ではさまざまな研究が台頭してきており、薬物送達や診断とバイオメディカルイメージング、家電製品、サステナブルなエネルギーなどを作り変えており、そして将来的にはさらにサステナブルな触媒開発の機会も見えてきています。    

ノーベル賞発表のソーシャルグラフィック

ノーベル賞をいまだ受賞しておらず、見落とされてきた発見の上位

ノーベル賞
© Nobel Prize Outreach. 写真:Nanaka Adachi NobelPrize.org. Nobel Prize Outreach AB 2023 - 2023年9月13日(水)

 

科学界がノーベル賞の時期を迎える頃、私たちはいつも夢中になって受賞者の予想し、憶測し、そしてブレインストーミングをしています。 ただ、今年度は違った角度からこのノーベル賞を扱うことになりました。この名誉ある賞をまだ獲得していないことに最も驚いている発見は何か、という事を弊社の科学者に語ってもらうことになったのです。 そういうわけで、最も卓越した、そして影響力ある科学のブレークスルーでまだノーベル賞を獲得していないものを取り上げて参りますので、皆様もぜひ LinkedIn にてディスカッションにご参加ください。 これらの発見は、ナノ分子レベルのものから大型有機EL画面まで広範囲にわたっており、また化学のみならず生物学、医学にまで影響を与えるものになっています。 ノーベル賞をいまだ受賞しておらず見落とされてきた発見について、LinkedInでディスカッションと、近日中に行われる投票にもぜひご参加ください。

 

OLEDが照らし出すかもしれないノーベル賞

現在、OLEDはありとあらゆるところに使用されています。スマートフォン、メディアプレーヤー、携帯ゲーム機、照明、そしてカーステさえも搭載するようになってきています。 この技術は、イーストマン・コダック社で働いていた化学者のチン・ワン・タン氏とスティーブン・ヴァン・スライク氏の功績で、1987年に初めて実用的なOLEDデバイスを開発しました。 これにより、幅広い業界で新世代のディスプレイ技術の道が切り開かれました。

有機発光ダイオードとは、電流に反応して発光する有機化合物のフィルムが、発光性のエレクトロルミネッセンス層になっている発光ダイオード(LED)です。 この有機層は2つの電極の間に置かれます。一般的に、少なくともどちらかの電極が透明になっています。 軽量であることから、フレキシブル基板の上につくることができるほか、画質に優れており、またインクジェットプリンターで任意の基板の上に印刷することもできます。

1987年にタン氏とヴァン・スライク氏が初めて実用的なデバイスを開発して以来、CASではさまざまな応用分野で113,000以上のOLEDに関連する文献をインデックス作成してきました。これには30,000件の論文と80,000件の特許があり、技術開発においてこれがいかに中心的な重要性があるかを示しています。


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金属有機構造体にノーベル賞を

複雑で調整可能な多孔性材料構造を、単純な分子構成要素の自己組織化によってどのように構築するのか、長い間わかりませんでした。 ところが、1990年代にOmar M. Yaghi氏と藤田誠氏によって初めて発見されて以来、金属有機構造体(MOF)が有望な解決策であることが証明されてきています。 金属原子やクラスター(ZnやCuなど)を有機化合物(カルボン酸塩やイミダゾレートなど)に結合させることで、MOFは精密に制御された剛性のあるナノ構造と、従来の多孔性材料にはなかった化学官能化を組み合わせたものになります。

金属分子や有機分子の構成要素の性質や、調製法(ソルボサーマル合成や熱水合成など)や有機溶媒を変えることで、MOFを微調整できます。 電気的特性、磁性、発光特性などに加え、表面積や吸着に基づく特性を微調整することで、多様な応用が可能になります。 気体捕獲、分離、貯蔵(水素、二酸化炭素、酸素など)、不均一触媒作用のための有望な材料として始まったものが、今ではバイオセンサー/バイオイメージング材料、薬物送達システム、ゲスト分子の結合と除去、脱塩/水処理、さらには半導体や強誘電体としての応用も示されているほどになっています。


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DNAの合成によって解き明かされた生命の秘密

DNAの化学合成がノーベル賞を受賞しなかったのは驚きでした。というのも、DNAの合成はもはや専門的な探求から、研究、診断、法医学のツールとして広く使われるようになったからです。 この画期的研究は生物学研究を大幅に前進させ、バイオテクノロジー産業の立ち上げに貢献しました。 マーヴィン・H・カラザース氏は、DNAのホスホルアミダイト合成法を開発しました。これは、ヌクレオチドを効率的かつ正確にDNAの短鎖に組み立てることにより、新しいバイオ医薬品の遺伝子工学、法医学的DNAフィンガープリント、そしてヒトゲノムプロジェクトを可能にしたのです。 この技術は現在では遺伝子シークエンシング、医薬品やワクチンの開発、疾病の診断、COVID-19検査などの病原体検査など、生物医学研究のさまざまな局面で科学者に利用されています。 またこの技術は、DNAを増幅させて詳しく調べるためのポリメラーゼ連鎖反応など、他の生物医学技術の開発にも不可欠でした。

カラザース博士がこれらのツールを開発して以来、CASはDNA合成に関する文献80,000件以上に対し、インデックス作成を行ってきました。 カラザース博士が執筆した文書は、30件以上の特許を含む243件をCASはインデックス作成しています。 この発見を世界に広め、その基礎を成している論文、"Deoxynucleoside phosphoramidites - A new class of key intermediates for deoxypolynucleotide synthesis" は3400回以上引用されています。


この他にも取り上げるべき発見はあるでしょうか。 ご意見をお寄せください。 ノーベル賞のトピックで最も見落とされてきたものは何か、ぜひLinkedInのディスカッションに参加してコメントをお寄せください。


 

 

 

腸内マイクロバイオームの進歩は、将来を作り変えている

近年、腸内マイクロバイオームの研究は飛躍的に拡大しており、その最前線にあるのが糞便微生物叢移植(FMT)です。 FMTはマイクロバイオームとヒトの健康との複雑な相互作用に関する貴重な洞察をもたらしました。これにより科学者は、消化から代謝、免疫系、精神的健康に至るまで、腸内細菌がさまざまな身体機能にどのような影響を及ぼしているのかを探求し始めるようになっています。 FMTの最も注目すべき貢献のひとつとして、再発性クロストリディオイデス ディフィシル感染症などの胃腸疾患の治療における目覚ましい成功が挙げられます。これは、従来の抗生物質に耐性があり、しばしば生命を脅かす細菌感染症です。 FMTを通じて多様で健康的な腸内細菌集団を導入することで、被移植者の腸内の微生物バランスを回復させ、症状を緩和し、回復を促進し、そしてグローバルな健康上の懸念事項となっている抗生物質耐性に対抗するのに役立ちます。

FMTは主に腸関連疾患の症状と関係があるとされています。しかしその潜在的な応用は消化器系以外にも拡大しています。 現在は、炎症性腸症候群(IBS)、クローン病、潰瘍性大腸炎、肥満、アレルギー、自己免疫疾患、さらにはパーキンソン病やうつ病のような神経疾患の治療への応用さえも研究の対象になっています。

その歴史が4世紀までさかのぼるFMTは、2013年に米国食品医薬品局が再発性および難治性のC. difficile感染症の治療法として承認して以来、高く評価されるようになっています。 CASには、FMTの発明とその方法論に特化した特許が過去5年間で400件以上、そして学術論文が5,000件以上あります。 この画期的な発見により、マイクロバイオームが健康全般に及ぼす影響についての理解が深まりつつあります。 糞便微生物叢移植は、医療の革新がいかに型破りなところから生まれるか、そして従来の治療に対するアプローチに挑戦しているかを示す代表的な例と言えます。


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デンドリマー、ナノサイエンス、そして超分子化学はノーベル賞に値するか

今まで医薬品や薬剤は、その溶解性が低かったり、毒性が高かったり、または安定性に問題があったりすると、いくらメリットがあるものでも実現させることができずにいました。 ところが、薬剤送達担体としてデンドリマーを使用することで、そういった問題の多くを解決できます。

デンドリマーとは、コアから始まって分岐を繰り返す分岐ポリマーです。 サイズが調節可能であることや、細胞膜と相互作用すること、そして内部構造が安定しているといった特性から、活性医薬品を送達するのに理想的です。 デンドリマーは合成が困難でコスト効率も良くありません。しかし、さまざまな応用の可能性があることから、この分野の研究は前進しています。

デンドリマーの系統的な合成方法は、ディディエ・アストリュク博士によって確立され、その後、金ナノ粒子などの遷移金属ナノ粒子からの官能基化も成功しました。 この研究により、デンドリマーの合成に関わる障害が解決され、触媒担持量の低さと触媒効率の高さに基づいた、デンドリマーをベースとした触媒化学の持続可能性が生み出されました。 この研究で金属ナノ粒子を埋め込んだデンドリマーを用いたサステナブルな触媒作用が実現し、エネルギー消費を削減し、そして次世代の持続可能性を高めることができるようになります。


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ノーベル賞にふさわしい - COVID以降も続くmRNAワクチン

COVID-19のワクチンにおいてmRNAがもたらした影響については、すでに世界中のほとんどの人が目にしました。しかし、メッセンジャーRNAに関する先駆的な研究に加えて、RNA免疫原性を抑制するヌクレオシド修飾においても多大な貢献をしたカタリン・カリコー博士とドリュー・ワイズマン博士を表彰すべきときが来たのではないでしょうか。

通常、自然な状態のmRNA分子は、体内に注入されるとすぐに破壊されます。また、非常に炎症を起こしやすいことに加えて、免疫反応を引き起こすのに十分なウイルスタンパク質を作るよう細胞に指示することができません。 そこで何年にもわたる実験の末、同博士らは修飾版のmRNAを開発したのです。 この修飾版では、ウリジンがN1-メチルシュードウリジン(m1Ψ)によって置き換えられました。 この発見によって、mRNAは非常に効果的なワクチンのプラットフォームへと変貌したのです。 この置き換えで改変されたmRNAは、免疫による検出を回避し、より長く活性を維持して、標的細胞に入って病気に対抗する抗原を作り出せるようになります。

このmRNAプラットフォームは、タンパク質の精製やウイルスの不活化を必要とする従来型のワクチンより、はるかに迅速に開発できるプラットフォームです。このプラットフォームのすばやさは、がん治療や免疫療法、または遺伝病治療など、他の病気の治療や将来の感染の大流行に対応する際に不可欠となる可能性があります。

CASでは、カリコー博士とワイズマン博士が執筆した500件以上の文書と50件以上の特許(7つの共同特許を含む)をインデックス作成しています。 ファイザー社・ビオンテック社およびモデルナ社は、COVID-19ワクチン用のヌクレオシド修飾RNAに関する共同特許をライセンスしています。

最も引用されている文献は以下の通りです。

  • Suppression of RNA recognition by toll-like receptors: The impact of nucleoside modification and the evolutionary origin of RNA, Immunity (2005), 23(2), 165-175. 引用回数1,900回以上。
  • Incorporation of pseudouridine into mRNA yields superior nonimmunogenic vector with increased translational capacity and biological stability.  Molecular Therapy (2008)、16(11)、1833-1840。 引用回数1,400回以上。
  • mRNA Is an Endogenous Ligand for Toll-like Receptor 3, Journal of Biological Chemistry (2004), 279(13), 12542-12550. 引用回数1,200回以上。

世間では、どのような意見になっているのでしょうか。 ノーベル賞のトピックで最も見落とされてきたものは何か、 LinkedInでの投票をお待ちしています。