新型コロナウイルス変異株BA.5とBA.2.75の出現で、マスク復活となるか

Rumiana Tenchov, Information Scientist, CAS
picture of surgical mask

マスクや個人防護具(PPE)については賛否両論がありますが、蔓延を遅らせる効果があることは証明されています。 現在、オミクロン変異株のBA.5とBA.2.75の感染が急増している中、マスク技術を向上させることが重要になってきます。 COVIDのパンデミックにより、マスクの開発と製造工程での欠陥が明らかになりました。 しかし、新たなウイルス変異株の感染拡大を抑制するには、マスクの技術革新が不可欠です。

マスクには改善できる要素がたくさんありますが、本記事では、ろ過性能と微生物除去性能の向上という新たに登場した科学に焦点を当てます。

知的財産と研究の急増

CAS コンテンツコレクション™ を見ると、世界中の学者がマスクの効果改善に注力していることがわかります。 フェイスマスクに関する文献は17,000件以上発表されており、その半数以上が過去2年間のものです(図1)。 注目すべきは、中国、米国、日本を筆頭に、特許出願件数が明らかに増加している点です(表1)。 

マスクに関する文献の年間発行件数を示すグラフ
図1. CAS コンテンツコレクションにおける2000年から2021年のフェイスマスク関連論文の年間件数(非特許文献には、学術論文を中心に、会議録、臨床試験、学位論文、書籍なども含まれます。)

表1. マスクの開発に関連する特許における上位出願国の分布

マスク特許の国別分布表

 

マスクは何を阻止しているのか

SARS-CoV-2の主な伝播媒体は呼吸器からの飛沫です。そして5μm未満の飛翔は、一般的にエアロゾルに分類されます。 SARS-CoV-2の主な伝播様式は、感染者からのエアロゾル粒子や飛沫の直接吸引です。 エアロゾルは空気中に浮遊し続け、感染拡大の主要因となっています。 このことからも、エアロゾルの拡散抑制の重要性は明確です。そこで、フェイスマスクがパンデミック抑制に重要であると認識されているのです。

現在のマスクのしくみ

家庭にある布を2枚重ねただけの最低限のマスクであっても、使用しないよりは効果的です。 300nm未満と300nm以上の粒子に対するろ過効率は、異なる種類の布を使用することで向上させることができます。 これは、綿による機械的なろ過と、絹などの素材で構成される別の層による静電ろ過の相乗効果によるものです(図2A)。  

布マスクの感染防御のしくみの図
図2A. 一般的な布素材を使った布製マスク 繊維を組み合わせると、ろ過効率が向上します。 機械的ろ過と静電ろ過を組み合わせると強力な効果が得られます。

COVID-19の感染拡大で最もよく使用された3層構造のサージカルマスクでは、3層の不織布から構成されています(図2B)。 マスクの3層の構造が相互に機能し、空気中の有害粒子から着用者を保護します。 外層は防水になっており、中間層が病原体をろ過し、そして内層は呼吸器飛沫を捕捉します。 不織布は安価で製造が容易なため、一般の方にも入手しやすくなっています。

3層式サージカルマスクの仕組みを説明した図
図2B:異なる機能を持つ不織布から作られた3層式サージカルマスク

マスクの改良に向けた新たな進展

新しい高分子材料や一部のポリスチレン、そしてポリカーボネートを使用することにより、以下の2つの領域でのマスクの改良が可能になりました。 

1.    フィルターの改善。素材の開発による細孔の細分化で、小粒子と病原体を捕捉・ろ過
2.    微生物除去能力の向上。コーティングや自浄作用の適用により、抗菌性能が向上

ろ過の改善

エアフィルター・マスクの有効性は、繊維径、膜厚、通気性によって左右されます。 現在の粒状物質フィルターは、ポリマー繊維やグラスファイバーでできており、さまざまな大きさの粒子を捕集することができます。 近年では、より表面積が大きく、より小さい新しいタイプの膜フィルターが開発されています。 これらのフィルターは、粒子の捕捉と空気抵抗を減らすのにより効率が良くなっています。

高分子ナノファイバー膜

繊維径をナノレベルまで小さくすると、表面積を大きくして粒子除去性能を向上させることができます。 透過性に優れ、高効率で軽量なナノファイバー膜の製造には、エレクトロスピニングが使用されます。 エレクトロスピニングによるナノファイバー膜は、いろいろな材料から数種類が作られています。 これらの膜は異なる表面特性を持っており、空気ろ過マスクに使用できます。

エレクトレット膜

静電エアフィルターは、引力距離が長いため、粒子捕捉の効果は受動膜よりも高くなっています。 エレクトレット膜の製造には、in situ帯電、コロナ帯電、そして摩擦帯電の3つの帯電技術が利用できます。 帯電増強剤には、ナノ粒子(ポリテトラフルオロエチレン、窒化ケイ素、ステアリン酸マグネシウムなど)が一般的に採用されます。 エレクトロスピニングによるin situ帯電技術では、それを使ったハイブリッドエレクトレットフィルターがいくつか開発されています。 例えば、ステアリン酸マグネシウムを含んだエレクトロスピニングによるポリエチレン/ポリプロピレン膜では、表面電位4.78kV、そしてろ過効率98.94%を示しています。  

摩擦帯電型ナノ発電機は、ナノファイバーエアフィルターによる効果的な微粒子除去のために発明されました。 摩擦帯電型ナノ発電機は、人の動きなどの機械的な動きからエネルギーを生成するもので、自己発電型のウェアラブルデバイスへの応用に適しています。  

摩擦帯電型ナノ発電機能を利用した自己発電型静電吸着マスクでは、粒子除去効率の大幅な向上が見られています。 これも、ナイロンとポリテトラフルオロエチレンの布を何層にも重ねたエアフィルターです。 マスクから粒子を除去する際も、高い効果を発揮します。

微生物除去性能の向上

フィルターは、物質を捕捉する一方、その表面にはバクテリア、ウイルス、カビなどの微生物が付着します。 そのため、抗菌性のあるエアフィルターが必要とされています。 現在までに、殺菌性を持たせるためにさまざまな抗菌剤が検討されてきました。 これらの抗菌剤には、天然物、金属ナノ粒子、金属有機構造体(MOF)、グラフェンなどがあります。 

天然抽出物の中には、含有するフラボノイドによって高い抗菌活性を示すものもあります。 ティーツリーオイル、オリーブエキス、グレープフルーツシード、クララなどの天然物を繊維状ポリマーフィルターの表面に噴霧することで、良好な抗菌作用が得られます。

新たな金属の応用

幅広い抗菌活性を示すものとして、金属ナノ粒子があります。 その殺菌作用のメカニズムは以下の通りです。 

1.    正電荷を持つナノ粒子が静電気引力により負電荷をもつ細菌細胞壁を引きよせます。その結果、細胞壁の破壊と浸透性の増加が起こります。
2.    金属イオンが活性酸素種(ROS)を発生させることで細胞にダメージを与え、酸化ストレスを引き起こします。 これにより細胞の機能が阻害され、最終的には細胞を死滅させます。

銀ナノ粒子には抗菌作用があるため、マスクの防疫効果を高めるためによく使用されます。 

酸化銅にはともに強力な殺菌特性があり、抗菌・抗ウィルス作用のある繊維製品などに配合されています。 銅ナノ粒子の主な作用機序は、酸化の際発生する活性酸素です。

グラフェンおよびそ誘導体は、その大きな表面積を活かして抗菌活性を高められることから、広く研究されてきました。 最近の研究では、グラフェン塗布された表面を利用することで表面温度を上昇させ、微生物を不活化できることが報告されています。 太陽光を照射すると、局所的に急激に熱が発生し、空中浮遊菌の90%以上が急速に死滅します。 こうすることにより、再利用可能な自己滅菌グラフェンマスクを提供できるようになります。

新たな浄化方法

光触媒酸化による空気浄化は、光で活性化した触媒が有機汚染物質と反応し酸化するプロセスです。 日光や人工の光を利用し、さまざまな大気汚染物質を無害なものに分解します。 

酸化チタン(TiO2)や酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子を含むマスクは、効果的なろ過機能を発揮しています。 ZnOナノ粒子でコーティングされたポリエステル生地で作られたマスクは、表面の細菌を98%減少させることが判明しています。

粒子と微生物を同時に除去する多機能エアフィルターの有効性も実証されています。 最近、Ag/ZnOナノロッドで包まれたPTFEナノファイバー膜が、大腸菌(E.coli)に対して優れた抗菌作用があることがわかりました。  

また、カーボンナノチューブと銀ナノ粒子を用いて、ナノチューブがフィルターの孔を埋めるようにしたエアフィルターもあります。 高表面積のカーボンナノチューブに銀ナノ粒子を担持させることで、抗菌効果を高めることができます。

金属有機構造体フィルター

金属有機構造体(MOF)は、有機多座配位子が配位した多孔性の結晶性物質です。 気孔率が高く、細孔径を調整できるため、優れたフィルターです。 

例えば、ゼオライト・イミダゾレートフレームワーク-8(ZIF-8)ナノ結晶をエレクトロスパンのポリイミド膜に組み込むと、フィルタのろ過効率が非常に高くなります。 MOFを用いたフィルターは、プラスチックメッシュや不織布など、さまざまな基材で製造できます。 粒子除去に有効なフィルターです。

今後の展望

オミクロン変異株BA.5やBA.2.75など、呼吸器系ウイルスの感染拡大を抑制するには、マスクが有効です。 将来的な感染拡大と変異株の登場を遅らせるには、マスクのろ過と微生物除去の新技術および進歩が重要になります。  

BA.5などCOVID-19の変異株に関する詳細、およびワクチン、治療法、マスクを用いた包括的なアプローチによって持続的な免疫を獲得する方法に関する詳細は、こちらのそれぞれの記事をお読みください。 

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