創薬に関わる人々の間では、製薬の研究開発が一貫して効率低下してきていることが良く知られています。Jack Scannellおよびその他の者が6年前、製薬業界の基本的な課題について、研究開発費10億ドル当たりで承認された新薬数が 1950年以来およそ9年ごとに半減していること(インフレ調整後の試算で約80分の1の減少)を指摘し、注目を集めました。残念ながら、現在も持続可能な新薬承認率の向上のエビデンスは達成できていません。バイオ医薬品業界の運営、科学的研究、技術的側面を支えるリーダーたちは、研究開発費を削減し、新薬を待ち望む患者の命を救う新薬を迅速に提供するための新たな方法を、現在も模索し続けています。
科学的なビッグデータが問題解決の糸口になりえるのでしょうか。
近年、経営戦略家は、情報資産の不十分な活用が新薬開発の生産性向上を妨げる大きな要因になっていると主張しています。驚くほど多い科学的出版物の発行数が、この仮説を裏付けています。最新データによるCASの推定では、科学ジャーナルと特許文献の世界的な出版数は、刊行物の種類にして1億5000万件以上に達し、指数関数的に増加しています。
この大量で多岐にわたる情報の山から求めている回答を見つけるのは、研究者にとって非常に困難です。実際のところ、2017年に研究者を対象に実施したアンケートでは、研究者は週平均7時間を情報収集に費やし、その時間の約60%が関連情報を見つけるための検索結果の選別に費やされている時間だという事が分かりました。この大量の情報の探索に使わなければならない時間は、治療方法を開発して仮説を検証すべき時間に影響を及ぼします。この現状で考えることは一つです。
情報資産を有効活用すると、時間と費用をどのくらい節約できるのでしょうか。また、機械学習(ML)と自然言語処理(NLP)の発展が製薬業界に効果的に活用された場合、疾患を標的とした創薬の仮設と検証のペースはどうなるのでしょうか。
投資が際限なく増える今、成功の前提条件にチームでの開発に関する疑問
この疑問の回答を見つけるために、(バイオ)製薬業界は研究開発情報テクノロジーの固定資産と専門知識に巨額の投資をしています。これには多数のデータ科学者の採用が含まれており、2016年から2026年までの全業界におけるこの職種(コンピューター科学者と情報科学者を含む)の推定19%の成長率に寄与しています。 また、経営陣と取締役会は「ビッグデータ」に詳しい経営幹部の構成も検討しています。しかしながら、これらの膨大な努力と投資にもかかわらず、現在まで成功事例はほとんど伝わってきていません。
各領域の焦点をあてることを考慮すると、人材、テクノロジー、科学のそれぞれに課題があるのではなく、拡張可能な形で有用な情報を得るために、人材とテクノロジー、科学に意義のある連携をもたらすのが難しいことに気がつきます。
発見する科学者と情報テクノロジストの連携と共同作業により、創薬の効率が思うように向上するでしょうか。
CAS: 科学技術情報の橋渡し役
より良い利用可能な情報の活用方法と関連付けの方法を探す上で、バイオ製薬業界が直面している問題は、決して新しいものではありません。化学者たちは研究対象としている分野の増大し続ける文献を管理し、利用者にアクセスしやすく使いやすくする新たな手法の必要性を認識していたため、実際CASは111年前に設立されました。年々文献の数量が増加、多様化してテクノロジーが進歩するのに合わせて、CASはデジタル化した化学構造情報の保存とアクセス、特許文献内のマーカッシュ構造の検索、膨大な科学的データリポジトリの迅速な分析など、次々と現れる情報に関する課題に新しいソリューションを開発し続けてきました。CASのソリューションは、科学者と技術者の協力によるメリットの良い例です。
このビッグデータ、予測分析、人工知能の時代は、高度な科学情報ソリューションの新たな機会と課題の波となります。基礎となる情報テクノロジーの急速に進化しているため、バイオ製薬のユースケースで前述のテクノロジーの利点を生かすには、科学的・化学的情報のユニークな側面に焦点を当てる必要があります。CASは、研究開発以降の全プロセスに重大な影響を与える科学的情報と新しいテクノロジーを連携させる上で、唯一無二の立場にあります。
合成の迅速化
予測合成は、製薬業界の研究開発における効率性の問題を解決によりCASがテクノロジーをユニークに活用している分野の一つです。合成経路の選択と工程開発は、新薬の発見と開発における複雑で高いコストを必要とする部分です。 例えば、医薬品化学者と合成化学者は、標的分子にたどり着くために、個々の合成点で推定100個の可能性のある選択肢から選び出しています。しかも、逆合成分析ステージでは、リード化合物の実用化に影響を及ぼす数々の要素に対処する必要があります。これらの要素には、高反応収率の実現、反応滞留(サイクル)時間の最小化、必要な合成工程数の最小化、保護基利用の回避/最小化、工程全体のエネルギー消費の最小化などが含まれます。
予測テクノロジーでは、CASコンテンツのコレクションに見られる1億件以上の反応と関連データを元に、無数の代替方法の解析と、より直接的な合成経路とその他の可能性を推奨によって支援することができます。このビジョンは、特許出願中のSciFindernのChemPlanner®で実現しました。これらの最新ケモインフォマティクスのテクノロジーは、スクリーニング用に新しい候補分子を構築する場合や予備生産や営業生産などにスケールアップする準備段階で、主な化学変化の問題解決を行う場合など、合成の多岐にわたる有効な経路の最適な選択肢を科学者が発見する上で、役に立ちます。これは、現在CASで開発中の科学的ビッグデータテクノロジーの数多くのユースケースの一例に過ぎません。
CASでは、製薬会社の研究およびビジネスリーダーとパートナーを組んで、研究開発プロセスの科学情報の価値を高め、データとテクノロジーを連動させて必要な情報を得られるように努力していきます。CAS独自のコンテンツ、テクノロジー、専門知識を活用する新たな方法を見つけ、顧客に優れた価値を創生し、人々の生活を改善するイノベーションを実現できるようにサポートしていきます。
科学情報の活用に関する問題がありましたら、CASにお問い合わせください。