2020年8月20日に若手の科学者グループが執筆した記事がiScience (Cell Press)に掲載されましたが、これは2019年のCAS Future Leadersプログラムで得られた科学のリーダーシップの将来に関して共有した経験をまとめたものです。 研究の一分野に留まらず、さまざまな専門分野にまたがるコラボレーションの重要性が、記事の中心的なテーマでした。
この科学の時代を特徴づける柱の一つが、ますます盛んになってきているコラボレーションの考え方です。 重大な研究成果は、複数の専門分野に属する科学者のチームが長年の科学的課題を解決するためにそれぞれの専門知識を活用することで達成されています。 (ショーン・ナトリ博士)
CAS Future Leadersプログラムで生産性の高いコラボレーションを促進する方法についてトレーニングを提供したのも、参加者が専門分野や地域の面で大きく異なっているのも、実は偶然ではありません。 私たちは、科学の進歩には国際的な専門分野を超えたコラボレーションが不可欠であり、優秀なリーダーはコラボレーションの価値を理解してチームの優れたパフォーマンスを引き出す人員であるという点で一致しています。
このプログラムで重要な点のひとつは、参加者が幅広い国を代表しているだけでなく、化学の数多くの側面を代表している点です。科学のリーダーは専門分野と地理的境界を超えたイノベーションを受け入れる必要があり、それは本プログラムに参加中、私たちが経験したことでもあります。 (2019 CAS Future Leadersの参加者)
多くの参加者にとって、本プログラムは非常に多様な専門分野と考え方を有するグループで行動する初めての体験でした。 出会ってから数日間の間に、2019 CAS Future Leadersの参加者はグループ作業で意見を交換しはじめ、専門分野を超えたコラボレーションの成果を理解するまで、ほとんど時間はかかりませんでした。
新たなリーダーのトレーニング機会
CASは2010年に世界中の研究コミュニティを支援する方法の一つとして、CAS Future Leadersプログラムを立ち上げました。 この2週間の体験的プログラムでは博士課程の学生とポスドク研究者を対象に、オハイオ州コロンバスのCAS本社と、ACS全国大会と展示会への無料招待旅行を提供しています。 (現在も終息していないCOVID-19の感染拡大のため、 2020 CAS Future Leadersプログラムは2021年まで延期されました。)
数年間のプログラム開催を通じてCASが参加者から学んだのは、学界ではリーダーシップトレーニングへの参加が難しいこと、そして、リーダーシップスキルは現実にキャリアの発展と成功に不可欠だということです。 生産的コラボレーションをリードする仕方などに関する徹底的な訓練を含め、この重大なスキルのギャップに対応することが、本プログラムでは特に重視されています。
CAS Future Leadersプログラムは、世界中から顕著な研究成果をあげた若い科学者や新たなリーダーとなる人材を引き付けています。 CASは、毎年、最高の候補者を選定するために何百もの申請を審査しています。 この取り組みに対する証言は、広範囲にわたる科学者コミュニティに向けて科学リーダーシップに関する意見を伝えるために協力してくれた2019年のCAS Future Leadersのクラスのものです。
発表から出版までのアイデアの成長
多岐にわたる科学的専門分野を持つ29名が協力したiScienceの記事は、コラボレーションの素晴らしい例です。 2019 CAS Future Leadersと直接関わったiScienceの科学担当編集者ミシェル・ムッジオ博士はこう言っています。
最初の発表は主にプログラムに関するもので、もちろんそれも非常に興味深く重要なものでした。しかしiScienceの主任編集者のステファノ・トンザーニ博士と私は、それ以上にプログラム参加者のほうに興味を持ちました。 コラボレーションの重要性という内容のこの記事のために、どれほどのコラボレーションが行われたかを考えると、ちょっと不思議な気持ちになります。 しかし本当にそうだったのです。 著者の方々は、もともとの考えていた案とは結果的に大きく異なってしまったアイデアも受け入れてくれただけでなく、作成途中にも各参加者の意見が適切に反映されるようフィードバックを提供してくれました。それも、コラボレーションと学際的活動という、iScienceのDNAとも言える中核的価値観に敬意を払いながら実践してくださったのです。
もちろん、出版プロセスは著者と編集者だけで完結するわけではありません。 出版組織の他のグループとのコラボレーションも必要となります。 ムッジオ博士はこのように続けています。
iScience側でも制作、マーケティング、編集など各チームのメンバー全員が時間をかけたコラボレーションにより、この記事が化学コミュニティで話題となるだけでなく、参加者全員が伝えたいメッセージを確実に強調することができました。 CAS Future Leadersは関連専門分野で最高の化学者だけでなく、将来的およびグローバルな視点で自分の研究分野を超えた見識を求める化学者も引き付けています。 このような見識は本当にかけがえのないものです。
この取り組みの成果こそ、2019 CAS Future LeadersプログラムでCAS本社にグループが到着して1年たった時点で出版された、この示唆に富む記事です。
学際的コラボレーションに関する率直な意見
近年、多くのCAS Future Leadersがキャリア初期の科学者がよく直面する問題点について、ソーシャルメディア上で公開討論しています。 iScienceの記事の補足として、 何人かの著者がTwitter上で化学者コミュニティの質問にリアルタイムで答えました。
ライブチャットの際に参加者は記事で説明した考えをさらに広げました。また、次の10年間の主な科学的課題については、異なる専門分野間の相互意見の交流を促進するリーダーとしての役割について話し合いました。
そうですね。 謙虚さが求められる場だと思います。 自分がわからないことを認め、別の専門分野の方とのコラボレーションを模索するのです。 単に相互の対話を促進するだけでなく、まずお互いに話して、お互いの専門知識を尊重する必要があると思います。
— Dr. Paulette Vincent-Ruz #BLM (@STEMxicanEd) August 21, 2020
大きな問題には大きな解決方法が必要です。 科学者がひとり地下で研究するような陳腐なイメージは捨てて、科学とは多数の異なる角度から課題に取り組むものだということを理解する必要があります。
— Jesus Sanjosé-Orduna (@JSanjor) August 21, 2020
私たちが直面している世界的課題の多くは単一次元のものではありません。異なる専門分野の境界を越えた作業に慣れ、自分があらゆる回答を把握していないことを受け入れ、他社との共同作業に対して積極的になる必要があります。
— Mahlet Garedew (@mahletgaredew) August 21, 2020
このようなコラボレーションの価値についての思慮深くグローバルな見方はたいへん啓発的で、未来の科学に希望を持てるものです。 CAS Future Leadersによるさらなる洞察は、Twitter上でスレッド全体をご覧ください。
博士課程の学生あるいはポスドク研究者で、科学のリーダーシップへの道を切り開きたい方は、CAS Future Leadersプログラムの詳細をwww.cas.org/futureleadersでご覧ください。