
ストーム警報 - 重症COVID-19におけるサイトカインの重大な役割
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)が引き起こす新たなウイルス性肺炎であるCOVID-19は、急速に感染が拡大して世界的流行病となりました。SARS-CoV-2感染者の大部分は無症候または軽度から中等度の症状を示すだけですが、約15~20%の患者では重症肺炎を引き起こし、約5%は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)へと発展します。COVID-19に関連した主な死因は呼吸不全、敗血性ショック、心不全、大量出血および腎不全です1。血清テストでは、炎症によるサイトカインストーム反応がCOVID-19の重症度と死亡率と関連があることが示されています2,3。従って、サイトカインの生物学的機能とCOVID-19の患者におけるサイトカインストーム反応の発症機序の理解を深めることは、効果的な治療戦略を開発し、死亡率を低下させる上で鍵となります。
サイトカインとは?
サイトカインは、マクロファージ、リンパ球、万能細胞など各種免疫細胞や、内皮細胞(血管とリンパ管の内側を構成する細胞)など他の種類の細胞で生成される低分子量の細胞外シグナル伝達タンパク質のグループです。人体に存在するサイトカインには、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、リンホカイン、ケモカイン、腫瘍壊死因子(TNF)など複数のクラスがあります。サイトカインは、細胞の増殖や先天/後天免疫反応、炎症誘発作用と抗炎症作用を含む、各種生物的機能の調節に関わる細胞表面受容体に結合することで人体の免疫調節を行います4。
ウイルスに感染すると、サイトカインが免疫系を刺激して原因菌を排除し、破壊された細胞を除去し、損傷した組織を修復します。サイトカインはこのような方法で人体が病原菌に戦う手助けをしています。しかし、サイトカインのバランスが崩れ、過度に生成されると重篤な有害事象を引き起こす場合もあります。
致死的なサイトカインストームの可能性
サイトカインストーム症候群(CSS)またはサイトカイン放出症候群(CRS)とは、ウイルス感染で一般的に引き起こされる全身の炎症反応です。特徴としては、大量の細胞による炎症誘発性サイトカインの過度の放出です。この制御されない炎症プロセスは、敗血性ショック、多臓器損傷、ひいては臓器不全を引き起こします5。
COVID-19の場合、SARS-CoV-2が宿主細胞に侵入し、子孫となるウイルスをパイロトーシス(炎症に起因するプログラムされた細胞死)というプロセスを通じて複製して放出します。同時にこれは体内の先天的および適応的免疫システムを活性化させます。ウイルスの感染は、図1のように、内皮細胞と肺胞マクロファージによる大量の炎症性サイトカインとケモカインの生成を引き起こします。これらのサイトカインは感染部位に単球、マクロファージ、T細胞を誘引し、さらに炎症性サイトカインが生成されるというフィードバックループが形成されます。肺におけるT細胞の集合も重症のCOVID-19患者におけるリンパ球の血中レベル減少を(リンパ球減少)を引き起こします2,3。

免疫細胞の最初の活性化が機能性または機能障害性の免疫反応を引き起こします。機能性免疫反応の際は、細胞毒性T細胞(CD8+)が感染した細胞を直接攻撃して、中和抗体がウイルスと結合して細胞死(アポトーシス)を開始します。次に、肺胞マクロファージが中和されたウイルスを除去してアポトーシスした細胞を貪食します。食菌作用というプロセスです。大部分の場合、このプロセスを通じて感染は解決し、炎症性サイトカインが減退して患者が回復します。
しかし、一部の症例では機能障害性の免疫反応により他の免疫細胞が肺に集まります。その結果、炎症性サイトカインの過剰生成を起こり、サイトカインストームが生じます。サイトカインストームが生じると、血管透過性の上昇により液体と血液細胞が肺胞に移動可能になり、肺水腫、ARDS、ひいては呼吸不全を引き起こします。このような余剰のサイトカインが他の器官に循環すると、敗血症や播種性血管内凝固、組織の損傷、多臓器不全などの全身性の炎症の原因となります6。
リンパ球減少とサイトカイン上昇の特性は、ウイルスの毒性および疾患の重得度と順相関を示しています 7。したがって、血清の測定で医師がCSS感受性の高い患者を効果的に特定して迅速な介入を行えるようになる可能性があります。しかし、重症COVID-19における宿主免疫反応のサイトカインの役割と関連する病態生理学的機序については、更なる研究で完全に定義付ける必要があります。
サイトカインストームを切り抜けるための治療戦略
現在のところ、重症COVID-19の症例におけるCSSの管理に容認された薬はありません。コルチコステロイドは 炎症の抑制によく使用されますが、このような薬はCOVID-19の患者には推奨されず、関連の肺損傷を悪化させる可能性があります8。現在、IL-6媒介経路を標的にしたものを含む、いくつかのサイトカインと受容体を標的とした代替炎症抑制戦略が研究中です。
SARS-CoV-2感染は免疫細胞を活性化してIL-6とその他の炎症性サイトカインを放出します。図2で示すように、IL-6は可溶性のIL-6受容体(sIL-6R)と結合し、内皮細胞の表面上で別のタンパク質gp130二量体との複合体を形成します。これが内皮細胞からのサイトカインを放出を起こし、感染部位に免疫細胞を誘因し、より多くのサイトカインを生成してサイトカインストームを引き起こします10。IL-6受容体拮抗薬は、IL-6受容体と結合してIL-6との相互作用とその後の生物学的イベントも遮断します。

CAR-T細胞治療の一部症例に関連したCSS治療に承認されている抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブの臨床試験が、中国のCOVID-19の患者を対象に始まりました9。21名の重症患者さんを対象としたトシリズマブの治療結果は期待が持てるものでした。投与した全患者について初日で体温が正常に戻りました。75%の患者は酸素吸入の必要性が減り、全患者が最終的に退院しました10。トシリズマブは最近米国FDAによる第III相試験の承認を受けています11。別の抗IL-6抗体であるサリルマブもテストされています12。
COVID-19の患者では過剰なIL-6がCSSを引き起こしますが、IL-6は肺の修復と再構築を支える重要な役割を負っています。つまり、抗IL-6R薬剤を投与するタイミングも、患者の予後に影響を与える重大な要因となっている可能性があります13。
サイトカインは、重要な宿主防御システムを構成して免疫反応を調節している一方で、COVID-19の重症例の悪化、ひいては死亡例の原因となることがあります。従って、サイトカインストームの効果的に抑制する治療法の開発が、COVID-19の死亡率を下げるために必要な重要な研究対象となっています。
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参考文献:
- COVID-19の82件の死亡例における臨床的特性 medRxiv (2020) 1-30, 2020 https://www.medrxiv.org/
- 中国武漢市の2019年新型コロナウイルスに感染した患者の臨床的特徴。Lancet 2020; 395: 497–506
- SARS-CoV-2感染患者の末梢血におけるリンパ球反応とサイトカイン特性の長期的特性 -https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2020.102763
- 感染症のサイトカイン環境: 破壊か恩恵か?Journal of Interferon & Cytokine Research (2020), 40(1), 24-32
- 構成性炎症性サイトカインストーム: 人の健康に対する大きな脅威 Journal of Interferon & Cytokine Research (2020), 40(1), 19-23
- COVID-19の3つの側面: 免疫、炎症および介入 Nature Reviews Immunology (2020) 出版前 https://www.nature.com/articles/s41577-020-0311-8#rightslink
- 中国武漢市のCOVID-19成人入院患者の死亡率に関する臨床経過とリスク要因: 後向きコホート研究 Lancet 395, 1054–1062 (2020).
- 2019-nCoV肺損傷のコルチコステロイド治療を裏付けしない臨床的エビデンス Lancet. 2020; 395: 473-475
- http://www.chictr.org.cn/showprojen.aspx?proj=49409
- トシリズマブによる重症COVID-19患者の効果的治療 https://www.pnas.org/content/early/2020/04/27/2005615117
- https://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT04320615
- https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2020/2020-03-30-07-00-00
- COVID-19誘因の肺炎およびマクロファージ活性化症候群様疾患におけるインターロイキン6を含むサイトカインの役割 Autoimmunity Reviews (2020) 出版前https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1568997220300926
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