
画期的治療薬指定: 構造の新規性が及ぼす影響の実例
米国FDAの2012年安全およびイノベーション法を通じ、画期的治療薬指定(BTD)は、未だ治療方法が存在しない重篤または致死性の疾患を治療することを意図した有望な新薬について、その開発と審査にかかる時間を短縮するために導入されました。 BTD承認の道筋は、有効性に関する大きなエビデンスが求められる点でその他の迅速開発プログラムとは大きく異なります。その代わり、治験依頼者は臨床開発期間中にFDAの実体的な関与と支援を受けることができます。 BTDステータス獲得の主な要件としては、他に選択可能な治療方法と比較して、臨床的に有意なエンドポイントで実体的な改善を示す予備的臨床エビデンスが求められます。 画期的治療薬として指定を受けると、治験薬は効率的な薬品開発プログラムに関するFDAによる集中的ガイダンスを受けます。これはFDAの開発と審査を迅速化するための組織的な取り組みです。販売申請の定期的かつ優先的審査を受ける資格があるかどうかは、裏付ける臨床データに基づいて判断されます。
BTDステータスの獲得は、製薬の研究開発をしている組織にとって、公衆衛生と商業的メリットの両面で大きな成果と考えられます。データによると、BTDとなった治験薬は、審査期間が約3か月間短縮されるほか、BTDではない薬と比べて販売前の開発期間が合計で2~3年短くなっています。 さらに、この指定を受けると、特定製品の臨床的成果に一定の信頼が得られ、その結果会社に大きな価値をもたらします。事実、公的に発表されたBTD認可に関する分析結果では、市販されている製品がない株式公開企業の株は、BTD発表の翌日に平均で約6%(株式の収益率以上)上昇することが分かっています。
化学的新規性とBTDとの関連性
上記のような大きな利点を生む画期的治療薬指定は、誰もが求める、得難いステータスです。 2019年12月31日の時点で、FDAは画期的治療薬指定に着手してから合計817件の申請を受け付けてきました。 しかし、BTD指定が承認された申請はたった40%ほどに留まります。
特定の候補薬のBTDステータスは、最終的な承認を受けるまでFDAにより公開されることはありません。 2013年から2019年にかけて、FDA・医薬品評価研究センター(CDER)による承認を受けた276件の新規治療薬(NTD)のうち、BTDステータスを獲得したのは73件(26%)に留まります。 主流の薬剤様式は小分子で、これらの画期的NTDのうち56%を占めています。 FDAが指定した画期的小分子薬の大部分には、少なくとも1つ、その形状と骨組みが既存のFDA承認薬で未使用である、構造的に新しい新規分子化合物(NME)が含まれています。 しかし、異なる種類の小分子薬の成功率を詳細に観察したところ、興味深い事実が明らかになりました。
CASによる最近の分析では、構造的に新規性のある小分子NTDは約10件中3件がBTDステータスを得ていますが、構造でない部分の新規性を持った小分子NTDでは10件中1件にすぎません。つまり、構造的に新規性のある薬は、2倍以上FDAによるBTDステータスの認可を受けやすいということです。 この差は、構造的な新規性の影響の大きさと、新薬候補を探す際に化学領域の限界を押し広げることの重要性を示しています。
コンピューターシミュレーションの採用による小分子薬イノベーションの加速化
効率とイノベーションのバランスは、創薬における長年の課題です。製薬業界は、既存の治療方法より大幅に臨床的メリットのある新しい治療薬を開発することを常に求められているからです。構造的に新規性のある小分子薬は、有望な新薬候補となる可能性が高いことが証明されています。しかし、合成できる可能性のある有機分子の数は10180(分子量1000 Da未満)と推定されています。そのため、構造的に新規性のある新薬を探すべく膨大な化学分野を従来の実験的手法で探索するのは簡単ではありません。
現在、コンピューターシミュレーションによる方法の進歩により、構造的に新規性のある分子を含む化学分野の新しい生物学的関連領域の効率的な探索が始まってきています。 多くの製薬会社が過去数年間に導入を試みてきたコンピューターシミュレーション手法の一つが機械学習です。 候補薬分子の特性を予測するために機械学習を使用でき、その精度が徐々に高くなってきています。 機械学習から得られる知見のおかげで、研究者は、さらに最適な特性を有する薬物類似分子の合成を優先的に行い、もっと広大な化学分野を代表する分子の、より構造的に多様な候補薬プールを準備できるようになります。 これらの構造的に多様性のある候補薬プールは、合成と定量が可能な分子の優れた選択肢を提供することで、構造的に新規性のある薬物類似分子を発見する確率を高めます。
創薬における機械学習の有効性を高める
創薬のために幅広く化学分野を探索する強力な予測アルゴリズムを構築する上で鍵となるのが、高品質のトレーニングデータの使用です。機械学習の手法では公的なデータ、社内データ、専有データなど、多種多様な範囲の情報源を利用します。 しかし、この分散したデータに精選して解釈した上で、その真の価値を引き出すために構造化およびインデックス化する必要があります。実際に、データ科学者はアルゴリズムの処理に必要なデータを調達してクリーンアップするために80%もの時間を費やしていますが、これは本来モデルの構築と結果の最適化に有効活用できた時間です。したがって、分類学、意味論上のつながり、データ分類の豊富な経験を持つ専門家たちに収集されたデータセットが利用できることは、創薬において機械学習で適切な成果を収める上で大きな影響力を持ちます。
同様に重要なのは、機械学習で受け入れ可能な形に薬剤分子の構造をエンコードするために使用する、分子の表現方法もしくは「分子フィンガープリント」です。近年の研究では、フィンガープリントの最適化が予測モデルの精度に大きな影響を及ぼすことが明らかになっています。実際に、CASのデータ科学者が開発した新しい分子フィンガープリントは、従来のMorganフィンガープリント手法を利用した同一アルゴリズムと比較して、最大45%予測精度が向上していました。このように強化された分子フィンガープリントは、薬物類似分子の生物学的活性を予測する創薬コンサルティングプロジェクトで有望性を示しています。その結果、次世代の画期的治療薬の探索において、スクリーニングのために合成すべき分子を数を減らし、研究効率を高める役に立っています。
CASがイノベーション戦略の加速を支援する方法
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