
COVID-19に打ち勝つ: 新しいワクチンと治療法に関する見通しと戦略
新型のSARS-CoV-2ウイルスによる新型コロナウイルス疾患COVID-19の感染は急速に世界中へと広がっています。2019年12月31日に初めて中国の武漢で報告されて以来、確認された症例の合計数とCOVID-19関連の死亡例は世界的に増加を続けているのが現状です。 世界保健機関(「WHO」)によるパンデミック宣言が出たCOVID-19は、数多くの国で医療崩壊を招いており、世界経済に多大な影響を及ぼすことが予測されています。
科学者と医療関係者は、この新たな疾患の全貌の把握、効果的な治療薬の発見、ならびに新しいワクチンの開発に向けて全力を尽くしています。その結果、最近数週間で大量の研究が学術誌に公開されています。 現在進められている研究者の努力を支援し、候補薬とワクチンの研究開発を促進するため、CASは「ACS Central Science」にて特別報告書を発行しました。 発行から1週間以内に、この報告書は48,000件の閲覧(およびダウンロード)があり、大きく関心を集めています。
ドラッグリパーパシング(既存薬再開発): 有効なCOVID-19治療法への近道
SARS-CoV-2は新たに発見された病原体であるため、現在のところ臨床的に認可された薬はありません。COVID-19に有効な薬を発見しなければならないという切迫した状況と、全く新しい薬の開発には10年以上かかるという事実から、COVID-19の治療薬を迅速かつ効果的に発見するために、別途ドラッグリパーパシング(既存薬再開発)も精力的に行われています。ドラッグリパーパシング(既存薬再開発)は、承認済みの薬剤と臨床試験中の候補薬について、本来の医療適用の範囲以外の新たな用途を見つける戦略のことです。薬剤の人体における吸収、分布、代謝、排せつの仕組みを評価する作業を数年分短縮することができます。また、分子の治療有効性の評価に必要な労力と、副作用、潜在的な危険性/毒性、禁忌などの判断に必要な大量のテストも減らします。 CASの特別報告書では、COVID-19のドラッグリパーパシング(既存薬再開発)による研究開発の進行状況を調べ、治療薬となる可能性を有する小分子薬剤や候補薬剤のリストをまとめました。
SARSやMERSなどのコロナウイルス疾患に向けて開発中の治療薬は、COVID-19に適用を拡張できるのでしょうか?
SARS-CoV-2は、エンベロープ膜に一本鎖RNAを内包したコロナウイルスの一種です。SARS-CoV-2ウイルスの感染プロセスに関与し、薬の標的となる可能性がある主なタンパク質がいくつか存在しますが、コロナウイルスの主要プロテアーゼ3CLproと、ウイルス表面のウイルススパイク糖タンパク質(Sタンパク質)などがこれに含まれます。これらのタンパク質は、SARS-CoV(重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすコロナウイルス)およびMERS-CoV (中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こすコロナウイルス)のタンパク質と配列の類似性を共有しています。従って、SARS-CoVおよびMERS-CoV向けの創薬で小分子候補薬として存在しているものの多くが、COVID-19の候補薬となる可能性があります。これらの候補薬と関連する文献と特許についての詳細はCASの報告書をご覧ください。

SARSとMERSの爆発的感染への対処のために用いられた既存の知識を活用することも、新しい生物学的製剤を開発する実用的な戦略となります。CASが既存のデータから収集した独自の展望を明らかにするため、2003年以降に発行されたSARSおよびMERS関連の2,200件の特許を特定しました。この中からCASは、これらコロナウイルス疾患の治療や予防の可能性がある抗体医薬、サイトカイン、干渉RNAおよびワクチンに関する500件以上の特許を発見しました。これらの特許に含まれる生物学的製剤の治療法開発の戦略は、COVID-19の治療スペクトラムの幅を広げるために使用できる可能性があります。
COVID-19ワクチン開発を迅速化するために既存のワクチン研究開発データを利用する
拡散を防止し、将来的な再発を予防するワクチンは、COVID-19の爆発的感染を抑制するために不可欠です。この方面の研究開発を支援するために、抗SARS-CoV-2ワクチンの設計を促進できる新たに特許を受けたウイルス開発技術を試し、明らかにするために、CASはSARS-CoVウイルスとMERS-CoVウイルスに関連性のあるワクチンの特許を分析しました。 合計で、SARSとMERSのワクチン開発に関連した特許が約190件見つかり、CASの報告書で確認することができます。これらの特許で網羅されている戦略は、COVID-19ワクチンの開発に利用されており、この中には最先端の技術を利用して開発されている弱毒化したウイルスのワクチン、タンパク質ベースのワクチン、ウイルス様粒子ワクチン、DNAベースのワクチン、mRNAベースのワクチンが含まれています。最近では、COVID-19のmRNAベースのワクチンが過去に例を見ない速さで開発され、現在米国で臨床試験が行われています。
高品質データを通じてCOVID-19の治療薬開発を推進する
治療薬開発に膨大な時間とリソースを費やしている今回のCOVID-19の危機的状況は、ドラッグリパーパシング(既存薬再開発)と他の類似ウイルスの利用可能な研究からの推論を元にした創薬の重要性を浮き彫りにしました。
さらなる研究が必要ではありますが、この特別報告書で提示した方法論と成果は、COVID-19の治療薬開発プロセスの合理化に役立つ戦略を与え、継続的な努力と今後の技術革新の知的基盤を提供するものとなります。
治療薬とワクチンの研究開発に関する画期的な戦略の基盤は、豊富な経験と知識を持つ科学者が提供できる洞察です。 CASの専門的な科学者は、これまで出版されてきた研究文献と特許に含まれる膨大な量の科学的データを抽出、分析、集約、整理して、データを発見しやすく検索可能なものにしています。そのため、科学者は情報を活用して研究活動に役立てることが可能になっているのです。 コロナウイルスや他の分野に関連した科学的データの収集と分析について、さらなる支援が必要な場合には、cliu@cas.orgまでご連絡ください。
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