
AIの機会:医療におけるイノベーション推進の展望
世界の医療用人工知能(AI)市場は2018年に13億ドルに達し、今後6年間で40%の年平均成長率で伸びると予測されています。ただし、近年のAIに対する注目の高さから、何が過剰な期待で、何が現実的なのか判断するのは難しい状況です。
今年ワシントンD.C.で開催されたウォールストリートジャーナル(WSJ)ヘルスフォーラムで、私は幸いにも「医療機関の研究開発におけるAIに対する期待を管理する」をテーマにした医療テクノロジーの業界リーダーによるパネルディスカッションで、司会を務める機会に恵まれました。この議論の中では、この過剰な期待を細分化し、医療において最も重要なAIの4つの機会について注目しました。
パネルディスカッション全編をご覧ください。
1. 人間の仕事の改善に役立つ
著名なスティーヴン・ホーキング博士は、多くの人々の懸念と同じく、AIが人間の代わりになる恐れがあると述べました。人間の能力を置き換える技術について、このパネルで得られたコンセンサスはどうだったのでしょうか?ホーキング博士に敬意を払わないわけではありませんが、AIがバリューチェーン向上の新たな機会を創出しているのを目にすることが増えてきました。
たとえば、医薬品特許出願数は過去10年間で増加しており、残務の蓄積によって世界中の特許審査官の仕事はますます困難になっています。そこで、マシンラーニングやディープラーニングといったAI技術を採用すれば申請書の仕分け、分類、採点の補助に活用できるため、審査官は訴求点の新規性の評価や他の先行技術とのつながりを明確にするという自分の専門能力が必要な仕事にもっと時間を費やすことができるようになるでしょう。特許審査の速度が上がることで、イノベーションが加速され、研究に対する投資収益率も高まります。
「人を代替するのではなく、引き上げるのです」こう発言したのは、Vyasa AnalyticsのCEOクリス・ボートン氏です。「AIは確かに混乱を招くでしょう。電気が登場したときと同じように。鉄器時代の到来による青銅器時代の混乱と同じように。 しかし、人間は自分たちが開発するテクノロジーよりも常に一歩先を行っています。AIも例外ではありません。」
2. 業務効率を高める
オペレーションは、ヘルスケア分野でAIが即座にプラスの影響を与える領域です。AIのおかげでコンピューターは検索パターン、主な用語、その他の要素を迅速に理解できるため、ワークフローが自動化され、人間よりもはるかに高速に、わずかなエラーでタスクを完了できるようになります。
たとえば、AIが支援する保険請求のプロセスでは、スタッフは戦略的に優先される業務に取り組むことができ、さらに多くの時間を患者の支援に費やすことができます。また、不正請求を検出し、患者が受け取り可能な最善の補償カバレッジと払い戻しを保証することで、医療機関、患者、保険会社の経費削減とメリットにつながる精度の高いサービスを提供することができます。
ディスカッションの中で、CASのソリューション担当シニアディレクターであるユーガル・シャーマは、「ヘルスケアシステムには数多くの非効率な部分をAIで対処することができます」とコメントしています。「たとえば、予約患者が来院しないことが原因で、病院には年間300万ドルの損失が発生しています。AIを導入を通じて来院しない可能性が高い患者を特定することにより、医療機関はこの問題に対処し、ひいてはコストも削減できます。」また、交通機関、金銭など来院できない理由を判断し、必要な治療を受ける手段に困っている患者向けのソリューションを積極的に探すこともできます。
しかし、最も重要なことは、マシンラーニングを通じてテクノロジーが継続的にスマートになっていくことでしょう。AI主導のプロセスと運用に対する影響は、今後も継続的に向上していきます。
3. イノベーションの加速
パネルの中で、AIの可能性のすばらしさ、特に病気を治療し生命を救う画期的な薬剤の開発に関して、議論がありました。たとえば、最近の研究では、新しいAIシステムは人による作業と比較して非常にわずかな時間と費用で、生物学的標的に対し何億もの薬物候補をコンピューターでスクリーニング可能なことがわかっています。
AIはまた、新しい治療法のために以前は未開拓だった化学分野の領域を製薬研究者が調べる支援もしています。AIのおかげで、創薬の研究者は何億もの仮想化合物を検索して、他の方法に比較してほんのわずかな時間とリソースで、医薬品開発の潜在的な候補化合物を見つけることができます。
CASが特許を出願している分子の生物活性予測手法は、AIがいかに創薬を加速しているかを示すもうひとつの例です。CAS独自の分子記述子とさまざまなAI技術を採用することで、研究者は目的の生物学的活性を持つ可能性が最も高い化合物を特定することができます。この手法により、新薬候補を特定するために合成や評価を行う必要のある化合物の数を大幅に削減できるようになります。
4. 高品質のデータを活用
AIの機会を最大限に生かすため、企業は高品質のデータとデータを適切に処理する専門知識を持つ人員の両方を優先的に確保する必要があります。「AIで成功するには、ある程度の量のデータセットが必要です。また、システムが学習するのと合わせて、自分自身も学習する意欲がある、適切な専門知識を持つ人員も必要です。この2つは外せません」ファイザーのML/AIリーダーであるピーター・ヘンストック氏は議論でこう述べました。
迅速に開発が進むということは、今日の最先端の技術が明日には既に古い技術となる可能性があるということです。しかし、高品質で適切に構造化されたデータという基盤に対する投資と、それを維持・管理するプロセスおよびテクノロジーは、テクノロジーの発展に合わせて継続的に成果を生み出し続ける組織の資産となります。
AIアプリケーションにとって、高品質のデータセットは正確かつクリーンで、最小限正規化されている必要があります。また、大量かつ多様性のあるデータセットもAIアプリケーションに役立ちます。関連データ間のつながりの識別に役立つように構造化およびリンクされているデータセットです。
AIの機会を実現
AIの可能性に対する興奮が高まる中、多くの組織は、早期の投資から直ちに成果を上げて利益を生み出すよう、リーダーや他の利害関係者から非現実的な期待をかけられています。このような期待をコントロールする鍵は、AIが現在実現している実証済みの事例に注目し、テクノロジーに関する長期的プログラムが大きなアイデアや成果にどれほど結びついてるか、利害関係者を教育することです。
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